10月25日午前、菅原一秀経済産業大臣(57)が辞表を提出した。菅原大臣をめぐっては、地元有権者へのメロンやカニなどの贈答、そして支援者の葬儀に秘書が香典を持参していたことを「週刊文春」が報じていた。
それに先立つ10月17日午後6時過ぎ、「週刊文春」記者は決定的瞬間を目の当たりにした――。
東京・練馬区にある斎場。隣接する駐車場に1台の軽自動車が到着したのは、その日の夕方5時50分頃だった。運転していたのは、菅原大臣の公設第1秘書・A氏。
「30代後半のA氏は、慶應大経済学部卒のエリート。大学卒業後、菅義偉官房長官の事務所に入所。3年ほど前に菅原事務所の門を叩きました」(後援会関係者)
「週刊文春」取材班は、後援会関係者などから菅原大臣が選挙区内で香典や枕花を贈る“有権者買収”を恒常的に行なっているとの証言を複数得ていた。ただそれだけでは客観的な証拠というには弱い。そこで取材を重ねていたところ、菅原大臣が秘書に対し、10月17日の通夜で香典を渡すよう命じたという情報を入手。もしこれが実行されれば、まぎれもない公職選挙法違反である。
そして、記者とカメラマンの目の前に現れたのがA氏だった。
白のワイシャツ姿のA氏は車内でネクタイを締め、黒のジャケットを羽織ると、そのまま斎場に足を踏み入れた。その途中、交通誘導をする地元消防団関係者に対し、A氏はお辞儀を繰り返していた。
「どうもどうも。お久しぶりです」
周囲にいる参列者は、顔見知りばかりのようだ。その後、A氏は記帳を済ませると踵を返し、数メートル先の受付に歩み寄る。慣れた様子で内ポケットから取り出したのは、香典袋だった。受付に座る関係者は、頭を垂れるA氏に微笑み、それを受け取る。そして、すでに大勢の参列者から受け取った香典袋の束にそれをそっと重ねたのである。
「その瞬間、カメラを持つ手が震え、無我夢中でシャッターを押しました。あの日は、まさに疑惑の渦中。それなのに、こんな露骨に手渡すとは……。受付の関係者はA氏の香典袋をすんなり受け取っていました」(撮影したカメラマン)
A氏が駐車場に戻ってきたのは、約20分後の6時20分。その後、ジャケットを脱ぎ、ネクタイを外すと、ふたたび地元関係者に挨拶して回った。終始、秘書として抜かりのない所作だった。
その後、A氏が向かった先は、練馬区内の菅原事務所。ふたたび車を走らせ、同区内の牛丼店「すき家」に入店したのは7時半頃のことである。
「牛丼1丁、本1冊でも良いから地元に金を落とせ――」
そんな菅原氏の教えをA氏は忠実に守ったのか。だが、山盛りの丼をかっ食らうA氏の顔には、積もり積もった疲労の色が浮かんでいた。
10月24日(木)発売の「週刊文春」では、菅原大臣辞任の決定打となった「有権者買収」疑惑を証言や文書に基づいて詳報している。また、「 週刊文春デジタル 」では、《完全版》動画を公開中だ。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2019年10月31日号)