―[言論ストロングスタイル]―
◆チャンネル桜よ、パヨクと罵ってきた香山リカに負けた気分はどうだ?
祝!香山リカ先生、裁判勝利!
世間一般の人々には何の関心もないであろう事件だが、ひそかに戦いが行われていた。
事件は、チャンネル桜なるインターネットで“保守っぽい”ことを配信している団体が、香山リカ先生の名誉を毀損する内容を報道(らしいことを)したことに端を発する。なお、「っぽい」としたのは、アレが保守だと世間に思われたら困るからである。「らしいことを」としたのは、連中の姿勢が報道の名に値しないからであるのは、以下の事実で明らかだろう。
2016年10月27日の「チャンネル桜沖縄」で出演者が、本業が医師である香山氏に対して「千代田区の保健所から、どうも監査が入った」
「医師法の違反が疑われて監査が入った」などと発言、これを香山氏が名誉毀損で訴え、数年に及ぶ裁判の末に勝利した。判決文を読んでいないので詳細は分からないが、香山氏が勝利宣言を、チャンネル桜の代理人弁護士が敗北宣言と判決を不服とした控訴の意向を漏らしている。
香山氏には悪いが、こんな事件のことを真面目に取材する気にもならないものの、漏れ伝わってくる報道で片鱗を知るだけで、驚愕する。
香山氏の訴えに対しチャンネル桜は、「香山リカと中塚尚子の同一性を証明しろ」「香山リカ氏の社会的評価は極めて低いため、チャンネル桜の放送によって、香山リカの社会的評価がこれ以上下がることはない」と主張したとか。
中塚尚子とは香山氏の本名であり、公開情報ではないが、調べようと思えばすぐにわかる。チャンネル桜は、「中塚氏の名誉は毀損したが、香山氏の名誉は毀損していない」とでも言いたかったのか?また、名誉毀損の弁護で、名誉毀損を重ねるとは、正気か?
なお、香山氏が裁判に訴えた際、チャンネル桜は公開討論を呼びかけたが、拒否された。当たり前だ。チャンネル桜は「言論には言論で決着をつけよう」と言いたかったのかもしれない。ところが裁判になるや、当該動画を自ら削除している。これでは、自分の言論の正当性を否定しているに等しいではないか。公開討論に応じてくれれば、売名行為になると思ったと指摘されても文句は言えまい。大体、誰が裁判で係争中の相手と公開討論するのか?
現在、チャンネル桜は控訴するらしく支援金を集めているが、自分の金でやる気は無いのか?一審でも同じことをしていたが、番組で収支を報告したのか?
以上の事実の出所は、サンケイスポーツの報道、香山氏のブログ、そしてチャンネル桜自身の番組。すべて公開情報である。呆れる。
まだ、こんな人たちの言論を信じる者、お金を出す者、番組に出演する者がいるのが不思議だが、事実である。一応、その世界では老舗なので。チャンネル桜は言ってしまえば「ネトウヨ」の代表だ。彼らは、香山氏を「パヨク」と罵ってきた。パヨクとは、「頭がパーな左翼」を意味する。ならば言ってやろう。
チャンネル桜よ、パヨクと罵ってきた香山リカに負けた気分はどうだ?いやしくも保守を名乗るなら、恥を知れ!
◆「保守」と「ネトウヨ」の違い
さて、保守を標榜してきた安倍内閣は異様なまでの長期政権となった。だから、世間の保守に対する関心は強まっているだろうし、安倍内閣の時代に急速に勢力を伸ばした「ネトウヨ」が何なのか、正体を図りかねている人は多いだろう。しかし、普通の人に「保守」と「ネトウヨ」の違いなど判らないだろうから、この機会に改めて説明しておく。
わからない根本の理由は、右か左かの二択で見ようとするからだ。左右に、上下の軸を加えるだけで違って見える。
まず、いわゆる「左」とは、日本国が嫌いで、日本政府にも批判的な立場だ。冷戦期は共産主義者が、この立場だった。最近では、パヨクとも呼ばれる。この人たちを私は「左下」と認識している。
そうした「左下」を目の敵にしてインターネットで悪口を拡散している人たちが、いわゆる「ネトウヨ」だ。彼らは基本的に、日本国を愛するが故に、日本政府を批判しないという立場を採る。多くは、自民党や安倍晋三内閣の支持者だ。ただ、この人たちは、「パヨクが嫌い」が先に立つ。主に、中国・韓国・朝日新聞が標的とされる。ネトウヨ相手の商売なら、インターネットでも書籍でも講演でも、その三者の悪口を言っていれば、小銭は稼げるのが現状だ。それなりのマーケットは持っている。だが、それだけだ。
では、真に権力を握っているのは誰か。左上である。この勢力は、日本国を愛していないが、日本政府の権力をこよなく愛する。内閣法制局や財務省主計局、そして公明党・創価学会が代表である。この人たちは、かつての共産主義のような左翼とは一線も二線も画す。そして体制側の権力主義者だが、保守ではない。
◆私は「ネトウヨ」と一緒にされるくらいなら、潔く自害する
では、真の保守はどこにいるかというと、右上の立ち位置である。日本国を愛するが故に、日本政府の誤りを批判する勢力である。この意味での「保守」は、「ネトウヨ」を蛇蝎(だかつ)の如く嫌う。当然、私も「右上」を自任している。時々、勘違いした評論に出くわすが、私は「ネトウヨ」と一緒にされるくらいなら、潔く自害する。そういう輩には、ちゃんと調べてから書けと言いたい。
こうした整理で、現代日本の現実政治の権力構造と思想的立ち位置がおわかりだろうか。
左下は、ネトウヨが右のすべてだと勘違いして攻撃し、その連中に応援される安倍首相も仲間だと思っている。あまつさえ、内閣法制局が安倍首相に忖度しているなどと、見当違いの批判を浴びせたりする。
一方、右下は左下が左のすべてだと勘違いし、安倍内閣の足を引っ張っている個人団体を攻撃すれば日本が良くなると本気で信じている。
安倍首相は、ときどき思い出したように「憲法改正」を言うが、それはかつての支持基盤の「ネトウヨ」が露骨に敵に回らないようにする為のリップサービスにすぎず、真の支持基盤は左上である。実際には、内閣法制局が許してくれないので、彼らを敵に回してまで戦う気は無い。
結局、安倍内閣7年は、左下と右下のじゃれ合いに終始してきた。そして左上の権力は健在である。
ネトウヨどもの跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)に、保守は大迷惑している。
【倉山 満】
憲政史研究家 ’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。現在、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を行っている。ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』など著書多数。最新著書に『13歳からの「くにまもり」』
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