―[インテリジェンス人生相談]―
“外務省のラスプーチン”と呼ばれた諜報のプロ・佐藤優が、その経験をもとに、読者の悩みに答える!
◆妻にセクハラした上司に損害賠償を請求すべきか?
★相談者★怒髪天(ペンネーム) 会社員 男性 37歳
派遣社員として働いている妻が、上司からセクハラを受けました。飲み会の帰りに酔った勢いでキスを迫られ、ホテルに誘われたようです。その話を聞かされて私は激怒し、すぐに妻に「人事部に報告して処分してもらうよう」伝えました。妻は派遣元に報告して、派遣元から妻の勤務先に報告され、その会社内で降格処分と部署異動があったようです。
セクハラ上司の上の方から、妻に対して直接謝罪もあったようです。私はそれを聞いて一度は納得したのですが、セクハラ加害者が処罰されただけで、妻の被害を回復するものではないと感じ始めました。
もしかしたら、セクハラ上司は降格と部署異動で済んでよかったとホッとしているかもしれません。そうであれば、個人的に損害賠償請求をしたほうがいいのではないかと考えるようになりました。妻はそこまでしなくても……と言っているのですが、佐藤さんはどのようにお考えでしょうか?
◆佐藤優の回答
会社がセクハラを認定し、処分しているわけですから、損害賠償訴訟を起こせば、奥さんが勝つ可能性は十分あります。セクハラ訴訟について精神科医で作家の香山リカ先生はこう記しています。
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北米トヨタ自動車で社長秘書を務めていた当時42歳の日本人女性が、同社の日本人社長からセクハラ行為を受けていたとしてアメリカで訴訟を起こしたのです。セクハラの内容は、出張先のホテルの部屋や公園などでからだを触られたといったことでした。
女性が訴訟で求めた賠償金は、総額1億9000万ドル(約212億円)という巨額なものでした。(中略)北米トヨタの訴訟では、社長は「(裁判で)潔白が証明されると信じている」と疑惑を否定したものの辞任に追い込まれ、社会的地位を失いました。その後、トヨタ側と女性とが和解に至り、その内容は公表されていませんが、和解金は巨額であったと推測されています。
一方、日本国内におけるセクハラ裁判の賠償額は、まだそれほど高額ではありません。一般的には100万~300万円と言われ、アメリカと比べると低額ですが、それでも2015年、アデランスに勤めていた女性が起こしたセクハラ訴訟では、アデランスが1300万円を支払うことで和解が成立したと報じられました。しかし、和解金の多い少ないに関係なく、セクハラがいったん明るみに出ると、それを行なった人は先ほどの北米トヨタの社長のように社会的に致命傷を負うことになります
(『オジサンはなぜカン違いするのか』120~121頁)
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◆話し合って奥さんの意向を確認することが重要
セクハラでの損害賠償は、100万~300万円ということですが、弁護士費用をそこから差し引くので、実際に手元に入るのは50万~200万円くらいと思います。訴訟を起こした場合、相手は社会的に致命傷を負うことになります。ただし、それは自業自得なので、同情の余地はありません。
結局は、あなたの奥さんがセクハラをした元上司に対して、どの程度、厳しい処罰をしてほしいかという感情にかかっています。徹底的に叩きつぶしてやろうと思っているならば、裁判に訴えたほうがいいでしょう。しかも、中途半端な和解などはせずに、判決を出させたほうがいいと思います。メディアに取り上げられ、相手には回復不能なダメージになると思います。
「必要なのは金銭的に賠償を払わせることだ」と考えているならば、代理人(必ず弁護士にしてください。弁護士資格のない人に依頼すると、トラブルになったとき奥さんに迷惑がかかります)を指定して交渉するといいでしょう。数十万円程度の慰謝料が取れると思います。
ただし、本件については、第三者に公表しないという条件がつくと思います。奥さんが、そこまで事を荒立てたくないと考えているならば、現状のままでいいでしょう。いずれにせよ、よく話し合って奥さんの意向を確認することが重要です。
★今週の教訓……徹底的にやるなら和解せず判決を出させよう
―[インテリジェンス人生相談]―
【佐藤優】
’60年生まれ。’85年に同志社大学大学院神学研究科を修了し、外務省入省。在英、在ロ大使館に勤務後、本省国際情報局分析第一課で主任分析官として活躍。’02年に背任容疑で逮捕。『国家の罠』『「ズルさ」のすすめ』『人生の極意』など著書多数