奈良県教委が「知事からの指示」と偽り耐震対策のメール

県立奈良高校(奈良市)の耐震対策を巡り、県教委学校支援課が荒井正吾知事に無断で「知事からの指示」とするメールを学校側に送っていた。行政機関で部下が上司の指示を偽る不祥事はなぜ起きたのか、経緯を検証した。【新宮達】
「『知事からの指示にしといたらええんちゃうか』といった趣旨で課長から指示を受けた」。メールを送った学校支援課の担当者(当時)は10月、毎日新聞の取材にこう話した。
メールが送信されたのは昨年10月10日。耐震性に問題がある同高体育館の代替施設を巡るものだった。メールで担当者は「県のイベントで利用検討している大型木製テントの利用が出来ないか検討せよと知事より指示がありました」と記載。大きさ(高さ7・5メートル、横15メートル、奥行き25メートルで変更可能)を示し、体育の授業や一部の部活動での利用が可能か検討を依頼していた。
また、「知事のオーダーなので、結果は了・否に関わらずきっちり理屈を立ててやる必要があるので、ある程度感触がでたらこちらに相談願います」と記した。ただ担当者自身はこの案の実現可能性を低いと見ており、「出来ない理屈をきっちり説明をするとは思います」とも記していた。

同課が意思決定の過程を文書として残していなかった実態も取材で分かった。吉田育弘(やすひろ)教育長らによると、奈良高体育館などの耐震化が事実上放置されていたことが明らかとなった昨年10月ごろは同高体育館は補強する方針で検討を進めていた。しかし同11月上旬に使用停止にすると方針転換した。

理由は、補強すべき箇所が相当数あって予算がかかるうえ、補強しても震度6程度の地震で倒壊または崩壊する可能性が高いとされる耐震基準の数値を超えないことが分かったためという。ただ、一連の過程は文書として残っておらず、後から妥当性を検証することが困難になっている。
担当者は「マンパワーや予算に制限がある中、口頭で説明すればいいと思った」、課長は「当時は余裕がなく、残すべきだとの発想もなかった」と釈明した。
メールの問題が県議会などで取り上げられると、荒井知事は「指示という言葉を使った覚えはない」と関与を否定した。当時、知事部局で別の用途で組み立て式の木造建築物の整備を検討していることを県教委に伝えたが、仮設体育館への採用を決めたのは県教委だと強調。「忖度(そんたく)させた認識もない」と述べた。
吉田教育長は「内部で検討してから学校現場に流すべき話」でガバナンス(組織統治)に問題があったと釈明。情報開示請求の対象となる行政文書に該当するメールに担当者の私見が入っていることも不適切だとした。
県教委を巡っては昨年6月に県立高校の再編計画を公表する際、対象校を決める議論を非公開で行い、「決定過程が不透明」と批判された。耐震化の問題もあり、生徒や保護者、卒業生らの激しい反発も招いた。信頼回復に向けた途上で新たに明らかになった問題で、県教委の体質が厳しく問われている。