第45回社会人野球日本選手権大会に出場しているヤマハ(静岡)。ベンチにはスーツ姿で試合を見守る新人マネジャー、伊藤直輝さん(28)の姿がある。日本文理(新潟)のエースとして夏の甲子園で名勝負を演じた後、大学をへてヤマハ入り。2016年の選手権では優勝に貢献したが、けがに悩まされ、今年6月にマネジャーになった。「次は裏方として表舞台の選手を支えたい」と新たな気持ちで大会に臨む。チームは31日第3試合の2回戦で王子(愛知)と対戦する。
新潟県出身。09年の夏の甲子園で、中京大中京(愛知)と対戦した決勝は、6点を追う九回に1点差まで追い上げるなど、名勝負として語り継がれている。高校卒業後は東北福祉大(仙台市)に進学。主将に選ばれたが、4年時の練習試合で右肘の靱帯(じんたい)を断裂し、手首の靱帯を移植する手術を受けた。医師から「全治には1年半~2年かかる」と言われ、「リハビリしても、再び投げられるようになるかはわからない。受け入れてくれる所があるのか」。そんな時、声をかけてくれたのがヤマハだった。
1年目はリハビリに集中し、2年目にマウンドに復帰。16年の日本選手権では準決勝に登板し、チームを優勝に導いた。「高校でも味わったことのない全国制覇。達成感があった」
だが、肘の痛みは完全には消えず、17年以降は思うような結果が出せない時期が続いた。今年6月、室田信正監督(45)から呼び出され、マネジャー転向を頼まれた。未練はあったが、数日後、「チームが自分を必要としてくれるなら」と決意した。
現在は先輩の小粥勇輝マネジャー(33)に付いて、仕事を学んでいる。「甲子園や選手権で自分が得たものは大きい。でも、自分と他の選手は別。一人一人が野球に集中できる環境を整えるのが大切」と伊藤さん。「勝利の喜びは選手もスタッフも一緒。野球に心残りがあるからこそ、裏方として支え、チームを勝たせたい」と語った。【大谷和佳子】