生産性の向上のみを追求して、生産性は向上するのか? 営業組織の具体的事例

こんにちは。スコラ・コンサルトのプロセスデザイナーの内田拓です。

「楽しいと生産性」をテーマに5回にわたって連載していきますが、今回はそもそも「生産性の向上のみを追求して、生産性は向上するのか」という問いについて、営業組織を例に考えてみたいと思います。

生産性の向上のみを追求して、生産性は向上するのか
われわれが営業組織を支援する場合、最初に営業会議を見学することが多いのですが、こんなケースに遭遇することがあります。一見すると、生産性の向上──すなわち、売上の向上──を追求しているようですが、実はそうなっていないケースです。

会議は「じゃあ、今月の売上目標と現時点の見込みを一人ずつ言ってくれ」というリーダーの言葉から始まります。

ところが、スタートから、営業マンたちは伏し目がち。リーダーは人一人の目標と見込み(数字)を聞いて、「どうして数字が足りないんだ」「お客さまのところには行っているのか」「いつになったら本気になるんだ」などと詰めていきます。

一人の営業マンが詰められている間、他の営業マンたちはその話を聞くことなく、自分が発表する内容について考えています。自分を守ることにせいいっぱいで、チームで協力して成果を上げようなどという雰囲気は微塵もありません。

リーダーは全員の報告を聞いたあと、最後にこう言います。「全体的に数字に対する意識が足りない。数字を達成することは営業としての責任だ。一件でも多く回るように。以上」

そして会議室には、ただただ疲弊感が漂っています。リーダーは部下の生産性(数字)を上げさせるために、ひたすら数字のみを追いかけています。しかしこれでは、生産性が上がるはずがありません。

営業会議では何を話し合うべきか?
ここで、みなさんに質問です。この事例でいうところの「数字」は、目的でしょうか? 手段でしょうか?

例えば、給料が30万円だとしましょう。私たちは30万円という「数字」が欲しくて、それを目的に働くでしょうか? 確かに30万円という金額は魅力的です。同じように働くのであれば、できればたくさんのお金がほしいと、誰しも思うでしょう。

しかし、お金という「数字」そのもののために働いているのかというと、そうではなく、その30万円を家族のために役立てたいとか、自分の趣味を楽しみたいなど、実は、数字(お金)の先にそれを使用する目的があるからこそ、働いているのではないでしょうか。つまり、目的は大切な人や自分を幸せにすることで、その手段として30万円という数字が必要なのです。

この目的と手段の関係は、自分の給料で考えると分かりやすいのですが、数字が売上目標に置き換わると、自分ごとである感覚が薄れ、目的と手段が簡単に入れ替わってしまいがちです。つまり、「月の売上目標は1000万円」と設定されると、あたかも1000万円を売り上げることが目的であるかのように勘違いしてしまうのです。

では、1000万円という売上目標(数字)が手段だとしたら、この場合の目的は何でしょうか。実は、ここで考えていただきたい目的と、その目的をいかに達成するかが、営業会議で話し合うべき中心テーマとなります。

働く理由(営業する理由)が「この数字を達成するためにこの行動が必要」のみだと、行動することの意味を感じることが難しく、行動しても楽しくなりません。楽しくないので行動の質が上がらず、当然、生産性も上がりません。やりがいのある仕事に必要なのは、「その数字を達成した先にいったい何があるのか」という問いです。

この問いに答えるためには、「お客さまは誰か」「お客さまが喜んでいる状態を具体的に言うと何か」「お客さまから言われたい理想の言葉は何か」「お客さまを喜ばせるために何をするか」を考えなくてはなりません。そして、「結果として数字はどうなるのか」と考えます。

「お客さまへ貢献している姿」と「その結果として得られる数字」が、つながりのある物語として語られる必要があります。このつながり(物語感)が行動に意味を与え、仕事に「楽しさ」をもたらします。

つまり、営業会議の中心テーマは「お客さまをどう喜ばせるか」です。生産性の高い営業組織では、「お客さまを喜ばせることが目的で、喜ばせ続けるための手段として売上・利益が必要である」という、目的と手段の関係が共通認識になっているのです。

「お客さまへ貢献している姿」を明らかにしよう
お客さまをどう喜ばせるか──すなわち、自分たちが顧客に貢献している姿──をより具体的にイメージするために、おすすめしたい方法があります。チーム内で使う言葉の定義、自分たちがなんとなく考えている定義(Before)と、営業が楽しくなる定義(After)を話し合うのです。例えば、次のような内容です。

・「営業」

・Before:売り込むこと

・After:心を動かすこと

・「目標」

・Before:ノルマ

・After:自分を想像以上に成長させてくれるツール

・「逆境」

・Before:運悪くハマってしまう不幸な環境

・After:後で語れるおいしいネタ

・「制約条件」

・Before:諦める理由

・After:発想を広げてくれるもの

・「問題」

・Before:あってはならない、つぶすべき対象

・After:本質的課題を見つけるための有力な材料

・「責任」

・Before:重荷

・After:成長のガソリン

ここであげた定義は、実際にある営業チームで話し合ってもらったときに出てきた言葉ですが、これらの言葉(定義)をまねして単に取り入れればいいということではありません。

そのチームは、この他にもたくさんの言葉の定義を話し合う中で、「自分たちはお客さまにとってどう役立つ存在になりたいのか」を真剣に考えるようになっていきました。その結果、「今までの自分たちは、お客さまが『欲しい』と言ったものをただ売っているだけだった」ということに気付きます。そして、「これからは『お客さまが気づいていない、本当に必要なもの』を提案して、お客さまの期待に応えよう」という、自分たちがお客さまへ貢献している姿を具体的にイメージできるようになりました。

これは、リーダーが一方的に「御用聞き営業から提案営業に意識をシフトさせなさい」と精神論のように言っても起き得ない変化です。定義を外から持ってくるのではなく、自分たちで具体的に話し合い、自分たちの言葉で定義し直すことに意味があるのです。

「楽しさ」が生産性の向上に欠かせない理由
お客さまへの貢献の姿が見えてきたら、「そこに向かって自分たちは具体的に何に力を入れ、その行動が結果としてどういう数字につながるのか」を考えます。そうすることで、上司やお客さまに言われたことをただやるのではなく、「狙って仕事をする」ことになります。

自分から仕掛けていくことで、目標が「追われるもの」から「追うもの」に変貌します。そして、この変化が仕事に「楽しさ」をもたらします。

冒頭でも紹介したように、多くの営業会議ではどうしても、売上目標と現時点の見込み、案件進捗が議題になりやすく、常に目標に追われる感覚になり、「楽しさ」を感じない状態になりがちです。しかし「楽しさ」は、生産性を上げる上において欠かせない重要な要素です。楽しさは、やる気の源泉だからです。

仕事を楽しくする方法はたくさんあります。「チームで勝ちパターンを共有する」「ロープレを工夫する」「個人の強みを生かす」などです。そのどれもが生産性を向上させることにつながります。

しかし、私が最も効果が高いと考えているのは、「お客さまをどう喜ばせるか」をチームで対話し、仮説検証サイクルをみんなで回すことです。それは、仲間と楽しむ実験のようなものだからです。「こうしたらお客さまは喜ぶんじゃないか」という仮説をチームで対話しながら考え、検証していくプロセスこそが、仕事に「楽しさ」をもたらします。

その中で、「最近、お客さんとの間でうれしかった出来事、やりがいを感じたこと」を共有し合うと、さらに楽しさは増します。まずは、ここに集中して「楽しさ」をつくり出すことが、生産性を上げるキモになると考えています。

著者プロフィール・内田拓(うちだたく)
株式会社スコラ・コンサルト プロセスデザイナー。1978年東京生まれ。上智大学卒業。大学卒業後、大手家電量販店での突出した販売実績を買われ、大手人材派遣会社で販売員教育の仕組みづくりを行う。

数多くの販売員を育成する中で人材開発に興味を持ち、法人向け教育研修事業を専門とする研修会社で営業に従事。その後、戦略マネジメントコンサルティングファームでの営業兼コンサルタント職を経て、スコラ・コンサルトに入社。

「一人で悩みを抱える営業もチームになれば相乗効果で売上をあげられる」を信条とし、組織風土改革のパイオニアであるスコラ・コンサルト30年間の知見をベースに『チーム営業』メソッドを開発。企業規模、業種を問わず幅広く営業支援を行っている。ドラえもんと同じ誕生日で、比較的かためのプリンをこよなく愛する。