【川田利明】朝8時から仕込んで深夜2時に帰宅…プロレスより過酷なラーメン店経営 それでも君はやるのか?

全日本プロレスの元トップレスラーで、現在はラーメン店を経営している川田利明さん。その奮闘ぶりを綴ったのが、著書『開業から3年以内に8割が潰れるラーメン屋を失敗を重ねながら10年も続けてきたプロレスラーが伝える「してはいけない」逆説ビジネス学』(ワニブックス)だ。毎日、朝早くから夜中まで店に立っているため、身体はボロボロだという川田さん。想像以上に過酷だったラーメン店経営の現実を、赤裸々に語った。
ここでざっくりと俺の一日のスケジュールを書いておこう。
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仕込みも含めて、すべて自分でやろうと思っている人は、これが基本的な日程になると思ってもらって、まず間違いはないだろう。
朝は7時に起きて、8時には店に入る。起きたら、すぐに店に向かう……ぐらいの勢いで俺の一日が始まる。
ウチはお酒も出すので、「夜のお店」というイメージがあるかもしれないが、ある時からランチ営業(12~14時)も始めた。だから、この時間から準備をしないと、間に合わない。自分で選んだ道とはいえ、ある意味、地獄のようなスケジュールだ。
2時間から3時間、ランチの準備をすると、もう体中が汗だくになる、やっぱりスープを作らなくちゃいけないからね。朝から圧力鍋で炊いていたものを、今度は綺麗に濾す作業を朝からやる。スープに関しては、本当に味が安定しないというか、日々、変わってくるので、本当に毎日、大変だ。

この段階ですでに10時半か11時ぐらい。汗だくになってしまったので、夏だったら汗を流すために、冬は体を温めるために、一旦、帰宅してシャワーを浴びる。それで気持ちをリセットしたら、すぐに店に戻って、ランチ営業のために店を開ける。
無事にランチタイムが終わったら、今度は夜の仕込みだ。
ランチはラーメンしか出していないけど、夜は味玉やマッシュサラダや唐揚げとかサイドメニューもたくさんあるので、仕込みにも当然、時間がかかる。
地味に大変なのは、夜に使う分の野菜を全部、切っておくこと。これがけっこう時間がかかる。量も多いからね。
時間がかかるといえばチャーシューの仕込みだ。低温調理だから、何時間もかけて火を通さなくてはいけない。夜の営業時間にギリギリ間に合った、ということがよくあるぐらいで、とにかく休憩時間はやることがいっぱいで忙しい。
ここまで読んで、何か気がついてくれただろうか?
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これだけやることがいっぱいあって、本当に時間がない。じゃあ、何を削るかと言ったら、もう食事の時間しかない。だから、朝も昼も食べていない。正確に言えば、特に朝食に関しては、もはや食べる気にもならない。
夜も営業(18~22時)を終えて、片付けをして、フライヤーの油の交換なんてやっていたら、家に帰ってくるのはどんなに早くても深夜2時ぐらい。
お酒を飲んだお客さんが、予定閉店時刻を超えて残っている時なんかはもっと遅くなるので、もうヘトヘトで、飯を食う気持ちにもならないし、睡眠時間を削ったら、体力が持たないんで、食事の時間を削るしかない。

結果、店を始めてからすぐに20~30?は痩せた。三沢さんたちとバリバリとやっていた頃は115?くらいあったのかな。だから、久しぶりに会った人にはビックリされたよ。もちろん、ファンの人たちも同じ反応。やっぱりプロレスと両立するなんて無理。こんな体じゃリングに上がれないからね。
でも、リングに上がらなくなったというのに、医療費だけはすごくかかるようになった。膝や腰など、体に大きな負担がかかるからだ。これも予想外だったね。
まぁ、プロレスラーというのは、それこそ骨が折れていてもリングに上がって、闘いながら治すみたいな部分もあったけど、ラーメン屋の厨房をひとりで回す、ということは、こんなにもハードワークなんだと知っておいてほしい。
体の話の続きになるけれども、ラーメン屋というのは一日中、立ち仕事が続くから、どうしても腰や膝が悪くなる。
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俺の場合、プロレス生活でもともと体中がボロボロになっていたので、さらにキツい。骨折したことがある腕には力が入らないし、立っているだけで膝が痛む。三沢さんのエルボー、スタン・ハンセンや小橋のラリアット、ジャンボ鶴田さんのバックドロップをあれだけ喰らってきたから仕方ないよね。そこにはなんら後悔はない。
「プライベートの時間がない」というのは、定休日の度に病院に通っているから、という側面もあるかな。
もちろん、肉体的にもっと楽にやる方法もある。
従業員を雇えば、当然のことながら、仕事量は減る。少なくともアルバイトを何人か置いておけば、負担も減るんだろうけど、俺にはそういう選択肢はなかった。
いや、店を始めた時は、実際にバイトを雇ったりもしていたけれど、いろいろな考えがあって、やっぱりひとりでやることにした。

もっと簡単なのは、「手間をかけるのをやめる」というやり方だろう。
とにかく、俺はひとつひとつの料理にものすごく時間と手間をかける。やっぱり、お客さんに美味しいと思ってもらいたいし、そのためなら手間も厭わない、というのが俺のスタンス。
ただ、結果として非常に過酷な日々になってしまっているので、これもある意味、肉体的な負担を考えたら「してはいけない」ことのひとつなのかもしれない。でも、どんなに「してはいけない」とわかっていても、俺はこのスタイルだけは変えるつもりはない。
楽をしたかったら、既製品を出せばいい。メンマだって、味付け玉子だって専門の業者がいるし、なんなら唐揚げだって冷凍コーナーに安く並んでいる。
特にラーメン以外のサイドメニューに関しては、それでいいんだと思うんだけど、やっぱりそこは割り切ることができない。本当に「経営者としては、とことん不器用だな」とこうやって本を書いてみて、あらためて思い知らされた気分だ。
こんな俺でも気持ちが折れそうになることはある。
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基本的にお客さんは料理に対してお金を払ってくれるけど、そこにかかっている「手間」に関しては対価を払うという感覚はない。
客席から聞こえてきてショックなのが、「これだったらスーパーで買ってきて、家で食べたほうが安くない?」という感想だ。
いや、たしかにそうだよ。値段だけ比較したら正論かもしれない。
だけど少しでも満足してもらいたくて、俺はとことん手間をかけている。もちろん家賃やら光熱費やらもかかっているわけで、スーパーのお惣菜コーナーの値段と同じにすることは難しいけれど、なにかプラスアルファのサービスをと思って、手間と時間をかけている。大きさからいったら、スーパーよりコスパもいいと思う。
それが報われないことを知って、既製品に切り替えていく経営者も少なくないだろうけど、そうなると、これまでよりもサービスが低下するわけで、その選択肢はちょっと俺には考えられない。もうね、たったひとこと「美味しかった」「ごちそうさま」と言っていただければ、それですべてが報われるんだ。
サービスといえば、ウチの店ではビールサーバーを置いている。

何を買えばいいのかわからない状況の時に、メーカーの人に勧められるがままに導入したものだ。まぁ、ラーメンだけでなく、おつまみも出しているから、相乗効果で両方を注文してもらえればいいかな、と。
よく「飲食業はドリンクで儲ける」と言われるけど、それはチューハイやサワーなど、お店側でお酒の濃度をコントロールできる商品の話。サーバーで提供する生ビールは、実はお店にとって、そんなにうまみがないんだ。
大きな誤算だったのが、最初の一杯を綺麗に提供するまでに泡をたくさん捨てなくちゃいけないということだ。あと、サーバーは毎日、洗わなくっちゃいけないから、それも手間がかかる。さらにサーバーの中に残ってしまったビールは捨てることになるから、これらのロスが大きくて、儲けなんて出ません。
本当は缶ビールか瓶ビールとコップを出すのが、もっとも効率がいい。
手間なんてコップを洗うだけだし、缶や瓶ビールだから腐ることもないし、廃棄しなくちゃいけないなんてことも基本的にはない。ラーメン屋さんでは缶ビールや瓶ビールが多いのはそういう理由がある。
でもね、今までサーバーから注いでいたのに、急に缶ビールになったら味気ないでしょ? だから、俺はずっと使い続けている。厳しい経営者だったら、真っ先に削減する部分だろうけど、俺はそこまでドライにはなれない。生ビールのほうが喜んでくれるお客さんも多いからね。
ただ、これは俺のこだわりだけの話。これから起業しようとしている人には缶ビールや瓶ビールでの提供をオススメするよ。