那覇市の首里城の正殿などが全焼した先月31日未明の火災では、日本の職人らの伝統工芸技術が結集された木彫り彫刻の作品も失われた。28年前に正殿正面を飾る彫刻の復元に携わった木工職人、知田(ちだ)善博さん(57)=石川県白山市=は心を痛め、復元の機会には「沖縄の心のよりどころを取り戻すために、また職人たちと力を合わせたい」と誓う。
獅子舞で使われる伝統工芸「加賀獅子頭」を彫る知田さんは1991年9月、師事する金沢市の彫刻家、今(いま)英男さん(2014年に死去)とともに那覇に向かった。沖縄の本土復帰20周年記念として進められていた国の復元事業に、高い技術を持つ全国の職人に声がかかっていた。
地元の工房で彫刻を仕上げて、那覇で組み上げる。図面を基に今さんが大まかに竜や雲の形を彫り、知田さんは父、叔父と一緒にうろこの一枚一枚、たなびく雲をひたすら刻んだ。「琉球文化の独自性を感じた。数が多かったので、無我夢中で作業を進めた」
那覇の現場には約1週間滞在し、高さ数メートルの足場に上がって、作品を設置。92年の正殿完成時、建物全体が華やかな色に彩られた。
10月31日早朝、知田さんは城が焼け落ちるテレビ映像に目を疑った。「自分が作った部分も焼けてしまったのか」。材料のクスノキやヒノキは、数百年から1000年はもつといい、「作品がいつまでも残ると信じていただけにショックだった」と肩を落とす。再び復元する機会が訪れた時には「職人たちがもう一度集まって一日も早く元の姿を取り戻したい」と願っている。【日向梓】