日高屋グループの「焼鳥日高」が担う重要な“使命”とは? 省人化と満足度を両立させる驚きの戦略

皆さまこんにちは。飲食店コンサルティング会社スリーウェルマネジメント代表の三ツ井創太郎です。本連載では、皆さまが日頃なんとなく利用したり、見たりしている飲食店のビジネスモデルやマーケティング戦略を、分かりやすく解説していきます。よろしくお願い致します。

大手ラーメンチェーン「熱烈中華食堂 日高屋」。この日高屋の運営会社が、第2の事業の柱として焼き鳥業態を展開していることをご存じでしょうか? お店の名前は「焼鳥日高」。立ち飲みスタイルの大衆焼き鳥酒場で、客単価はなんと1300円。店内のメニューはほとんどが200円台という驚きの安さです。この焼鳥日高のビジネスモデルを筆者が現地調査も行いながら分析していきます。

外食チェーンで高収益を誇る
まず日高屋や焼鳥日高などを展開する「ハイデイ日高」の概要について解説していきます。同社は1973年2月に現取締役会長の神田正氏が埼玉県さいたま市に5坪の中華料理店「来々軒」を創業したのが始まりです。

その後、東京の繁華街に出店した「新宿ラーメン館歌舞伎町店」などを成功させます。都心繁華街への出店を加速することで順調に店舗数を増やし、2002年に低価格ラーメンを提供する「日高屋」1号店を新宿エリアにオープン。02年12月には100店舗を達成します。05年には東京証券取引所二部、06年には東京証券取引所一部に上場しています。そして、19年2月期決算においては売上高418億円、経常利益46億円、店舗数429という一大チェーンとなっています。

同社の特徴として、収益性の高さが挙げられます。16期連続で増収増益を達成しており、過去10年間は営業利益率10%超えを実現しています。約90社ある外食上場企業の中でも、営業利益率10%を超えているのは、同社を含めて数社しかありません。

ハイデイ日高は、中期的な取り組みとして、首都圏を中心に600店舗まで拡大する方針を打ち出しています。その拡大戦略において日高屋に次ぐ第2の柱として期待されているのが焼鳥日高なのです。

焼鳥日高のビジネスモデルとは?
今後、重要となるのが成長戦略を担う業態の開発です。ハイデイ日高は、1日の乗降客数が5万人規模のJRの駅近くに出店しています。乗降客の生活導線に合わせて、複数の出口付近(一等立地)に店を構える戦略をとってきています。同社の公式Webサイトの物件募集ページによると、今後はJR・私鉄ともに1日の乗降客数が2.5万人の駅をターゲットにして、神奈川県、千葉県、東京都に重点的に出店していくとしています。ここにも「600店舗構想」に向けた出店意欲の表れが見てとれます。

飲食店が店舗拡大を行っていくと「物件取得」の問題に直面します。日高屋を出店する上での適正坪数は約30坪です。今後、新たに乗降客数が2.5万人規模のJR・私鉄沿線に出店していこうとしても、既に他の居酒屋チェーンなどが狙いたい物件の多くを押さえてしまっています。そこで、日高屋の業態フォーマットに適合しないような、小さな物件にも出店していく必要があります。

日高屋の適正坪数が約30坪であるのに対して、焼鳥日高の適正坪数は約20坪です。焼鳥日高は、日高屋が出店できない小坪の優良物件や、日高屋と競合する立地にも出店が可能です。

しかし、たとえ物件が獲得できたとしても、人材も獲得しなければいけません。「人材獲得」は、これからの外食企業が直面する最大の課題です。焼鳥日高はさまざまな省人化の取り組みを行うことで、克服しようとしています。

焼鳥日高の省人化を実現するビジネスモデルはどのようになっているのでしょうか。

小坪、省人化、圧倒的低価格を実現
実際に、焼鳥日高の店舗を訪れてみました。JR大宮駅の東口から歩いて3分のところにある「焼鳥日高 大宮すずらん通り店」(さいたま市)です。このエリアには数多くの大衆酒場が軒を連ねています。

店舗には、商品名を書いた札が掲示されています。「かわ191円」「つくね210円」(いずれも2本で)といったように、良心的な価格が一目で分かるようになっています。

店に入ってまず驚くのが、メニューのオーダーの仕方。立ち飲みカウンターにはメニュー表が置かれています。ここまでは普通の飲食店と変わりませんが、各テーブルには専用のデジタルタッチペンが置かれています。自分の食べたいメニューをこのペンでタッチしてみると「ご注文は“生ビール”ですね」という音声を発します。その後、数量などをタッチするとオーダーが完了します。

生ビールのオーダーが入ると、スタッフはキッチン内のプリンタから印字された伝票を見て、冷蔵庫から冷えたジョッキを取り出します。そして、全自動の生ビールサーバーにジョッキをセット。スタートボタンを押すと、サーバーが自動で生ビールを注ぎ始めます。あとはスタッフが注がれた生ビールをお客さまのもとに運びます。

つまり、スタッフのオーダーを取る時間と生ビールを注ぐ時間を削減しているのです。「その程度の時間を削減しても、大した効果にならないだろう」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、省人化を目的とした業務改善においては、こうした一つ一つのオペレーションを科学的に分析していくことが重要となります。

業務改善における原則は「作業工数が多い業務を改善する」ことです。飲食店においては「オーダーを聞く」「生ビールを注ぐ」という行為は、非常に工数が多い作業です。

では、この2つの作業を無くすことで、どれくらいの改善効果があるのかをシミュレーションしてみましょう。

年間コスト1274万円を削減する業務改善
省人化の効果を分析するために、焼鳥日高の売上高を分析していきます。2019年2月期決算情報によると、焼鳥日高の平均年商は約6600万円です(出典:シェアードリサーチ公開レポート「ハイデイ日高」)。

ここから1日の客数を割り出していきます。

(1): 1日の売り上げを割り出す

6600万円÷12カ月÷30日=約18万3000円(日商)

(2): 1日の客数を割り出す

18万3000円(日商)÷1300円(客単価)=約140人(1日の客数)

焼鳥日高では、1日平均140人のお客さまが来店されることになります。次に来店客数から1人当たりのオーダーを聞く時間を割り出していきます。客単価が1300円で、全商品の平均単価を割り出すと257円になります。1回のオーダーで、平均2アイテムを注文するとした場合、1人がオーダーをする回数は約2.5回。なお、1回のオーダーを聞く時間に関しては、実測値になりますが次のようになります。スタッフを呼ぶ→スタッフがお客さまのもとに伺う→オーダーを聞く→ハンディ(注文を入力する端末)を打つ→オーダーを復唱確認する→ハンディでオーダーデータを送信する――ここまででおおよそ20秒です。

(3): 1カ月でオーダーを聞く時間を割り出す

20秒(1人当たりのオーダーの時間)×140人(1日の客数)×30日=8万4000秒(=23時間)

計算上、スタッフは1カ月で23時間もオーダーを聞く作業に費やしていることになります。

次に、生ビールを注ぐ時間を計算します。1人当たりの生ビールのオーダー数を割り出してみましょう。同店は、ホッピーやハイボールなども取り扱っていますが、生ビールの1人当たり平均杯数は1.5杯程度です。1杯の生ビールを注ぐ時間は約8秒となります。

(4): 1カ月で生ビールを注ぐ時間を割り出す

8秒(1杯当たりの生ビールを注ぐ時間)×1.5杯×140人×30日=14時間

つまり、オーダーを聞く時間と生ビールを注ぐ時間を合計すると、1カ月当たり37時間の労働時間を削減できます。焼鳥日高大宮すずらん店の募集時給は1100円(深夜は1375円)です。つまり、オーダーのタッチペンと自動生ビールサーバーを導入したことで、37時間×1100円=月4万7000円のコスト削減になります。

たかが4万700円と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これが年間だと約49万円になります。そして、焼鳥日高の全店舗数(26店)に展開すると、合計1274万円の削減になります。今後の「グループ600店舗構想」に向けて、仮に焼鳥日高を100店舗展開した場合は、49万円×100店舗=4900万円の削減インパクトとなります。

こうしたコストカットの視点も重要ですが、何よりも重要なのは人材不足への対応、つまり省人化モデルへの経営シフトです。こちらは日高屋グループに限らず、これからの時代に飲食店が店舗拡大を行っていくためには、省人化対応は避けて通れない課題となります。実際に焼鳥日高の店舗のオペレーションを見ていると、この他にも省人化に向けた施策がありました。

省人化を実現する焼鳥日高のメニュー戦略とは?
焼鳥日高のメニューに関して分析していきます。

メニューカテゴリーを見てみると、鳥串・豚串は全部で15アイテムありますが、これはタレと塩を別々に表記しているためで、実際のアイテム数は8です。これは焼き鳥店としては多くない、むしろかなり少ないアイテム数といえます。このように、アイテム数を絞り込むことでオペレーションの軽減を図っていると見られます。また、温菜(温める料理)が6アイテムなのに対して、冷菜と揚げ物の合計アイテム数が20となっており、フードメニュー全体の約49%を占めています。ここにオペレーション軽減のポイントがあります(これらの計算からは、当日のおすすめ商品を除いています)。

揚げ物に関しては、冷凍したものや自社のセントラルキッチンで加工した食材を自動温度調節機能が付いたフライヤーに入れれば簡単に調理ができます。冷菜に関しては同店の冷蔵ショーケースを見ると分かるように、ほとんどのメニューが1人前ごとにお皿に盛りつけてあります。そして、ラップをかけてスタッキング(重ねて保管すること)しているので、オーダーが入ったら冷蔵庫から出すだけで提供できます。逆に手間がかかる温菜(温める、炒める、焼く工程が必要)などの商品アイテムは極力減らしているのです。実際に店舗を見ていると、手が空いたスタッフは常に食材を計量して、お皿に1人分ずつの料理を盛る「スタンバイ作業」を行っています。こうした事前準備により、ピークタイムの提供時間短縮や、時給単価が高い深夜時間帯の少人数営業を可能にしています。

さらに、会計は自動釣銭機能が付いた自動ドロワーレジとなっており、アルバイトスタッフでもお店の金銭管理ができるようになっています。外国人スタッフは日本のお札や釣銭に慣れてないケースもあるため、こうした自動釣銭機能は今後さらに重要になってきます。

食材や備品の発注に関しても、自社専用Webサイトからインターネット経由でアルバイトスタッフでも簡単にできるようになっています。

省人化はお客の満足度を下げる?
一方で、このように徹底した省人化モデルに対しては「お客さまの満足度を下げるのでは?」という意見もあります。しかし、満足度というのは、そのお店へのお客さまの期待度や客単価などとも関係しており、省人化しているからといって満足度が必ずしも低くなるとは限りません。実際に、同店への口コミを各種Webサイトなどで確認すると「店内が清潔」「店員さんもテキパキしていた」といった高評価が目立ちました。私も実際にお店を利用しましたが、スタッフの方の対応も良く、お店の衛生状況に関しても日高屋グループのチェックシートなどが導入されており、とても良い状態でした。

一昔前まで、飲食業界では社員の残業などで業務を賄ってきた側面が強かったです。しかし、今後、店舗拡大を行っていくためには「省人化経営へのシフト」は必須です。

省人化経営モデルを構築するには、IT化だけでなく、(今回の焼鳥日高の例でいうと)タッチペン式オーダーや自動釣銭機能レジ、Web発注システムなどが必要です。そして、無駄を徹底的に省く業務改善の視点が重要となります。

今までの慣習にとらわれない「聖域なき改革」。これが令和時代に生き残ることができる飲食店の必須条件です。

(三ツ井創太郎)