「技術の日産」の魂は、死んでいない アライアンスの行方は?

日産自動車経営陣の新体制が固まった。日産の内田誠氏が代表執行役社長兼CEOとなり、COOには三菱自動車からアシュワニ・グプタ氏、副COOには日産の関潤が昇格し、3頭体制で経営していくことになる。就任は早くても2020年1月1日以降となるようだが、新体制への期待は高い。今後、日産自動車は、どうなっていくのだろう。

ワンマン経営から3頭経営への大転換は吉となるか
そもそもは、カルロス・ゴーン被告のワンマン経営による不透明な資金の流用や報酬の不正な受領が、今回のガバナンス問題の引き金となった。3頭体制はそうした暴走を防ぐ効果も狙ったものなのだろう。

それでも、これからの日産自動車がどうなっていくのか、気を揉んでいる日産ファンも少なくないだろう。トヨタが、スバルやマツダ、さらにはスズキまで資本提携してオールジャパンで挑むのに対し、ルノー、三菱と国際的なアライアンスを組むのは対照的な体制だけに、それぞれの戦略と特徴の違いは気になる。

日産はかつて経営危機に陥り、ルノーに出資してもらわなければ倒産もやむなしだった。だが、あの時仮に、日本航空(JAL)や現在再建中のジャパンディスプレイ(JDI)のように国の援助を受けて生き延びてきたとしても、この先の自動車業界の変革を単独で乗り切ることなど到底できなかったはずだ。

ルノーからは資本援助を受けただけではない。コストカッターと呼ばれたゴーン被告の手腕により、大幅なリストラが断行され、長年の高コスト体質からの脱却を図ったことことが、今日へと日産へと導いた。筆者の知り合いにも、あの時のリストラでの被害者がいるため、どれほど従業員の傷みを伴うものであったかは知っているつもりだが、あのリストラ策がなければ日産の再建は不可能だったのは明白だ。

その後のプラットフォーム共用化など、開発コスト圧縮の強化、商品力の向上が図られたのも、ルノーとのアライアンスによる恩恵だ。しかし実際の現場の声を聞いてみると、それは一筋縄でいくようなものではなかったのだ。

プラットフォーム開発で衝突、想像を絶する生みの苦しみも
そもそもFF小型車作りに関しては、歴史もノウハウもあるルノーが、日産が作る小型車のプラットフォームを黙って受け入れるわけがない。お互いの主張を盛り込んで共通のプラットフォームを作り上げるのは、想像を絶する両者の衝突が繰り広げられた。

第2世代ともいえる現行のプラットフォームでは、日産とルノーがセグメント別に役割分担して、それぞれ日産主導、ルノー主導のプラットフォーム開発を行っている。それでも要所要所にお互いの意見を取り入れることで、長年のクルマ作りで培ったノウハウをうまく組み込み、優れたプラットフォームを作り上げることができるようになった。

フォルクスワーゲンの「MQB」のように、セグメントを超えて使えるスケーラブルなプラットフォームは例外とすると、自動車メーカーはセグメントによって決まったプラットフォームを使い、ボディや内装、足回りのセッティングなどでキャラクターを演出し、それに見合った走行性能を作り上げるのが一般的な手法だ。

それに対して、日産とルノーが作り上げた「CMF」というシステム形式のプラットフォームは、エンジンコンパートメント(エンジンルーム)、フロントアンダーボディ、コックピット、セントラル&リアアンダーボディ(後席及び荷室)にそれぞれのブロックを分けたモジュール構造だ。その組み合せを変えることで、さまざまな仕様のクルマを生み出せる。

しかも、このCMFはセグメントを超えてモジュールの組み合せを行う事で、幅広い車種展開を可能にしている。これをプラットフォームと呼んでいいのかという意見もあるかもしれないが、この構造にすることで異なる市場のユーザーニーズにも柔軟に対応できる。これはグローバル戦略とルノーと日産の折衝案という、2つの問題の解決策となったのである。

そんなふうに複雑な構造となりつつもまとまっていたのは、一時はルノーと日産のトップを同時に務めたゴーン被告の圧倒的なリーダーシップ力があったからだ。日産GT-Rという日本が誇るスーパースポーツを開発することができたのも、ゴーン被告の指示があったからこそであった。

今後はそうしたトップダウン型の経営ではなく、日産社内でも3人で協議して物事を進めていくことになる。それで果たして魅力的なクルマを生み出していけるのか、やはり大いに気になる。

三菱自動車とのシナジー効果はこれから発揮するか
一方で三菱自動車も、軽自動車作りにおいては、いつのまにか燃費偽装事件などに代表される、商品力追求より利益優先になってしまった。それによる魅力低下が顕著だ。そのため日産で販売されてきたOEMの軽自動車たちも、軽自動車であるという以外に魅力は伝わってこなかった。

ところが現行の日産デイズは、驚くほど出来が良い。今回から日産が開発を担当したことで、軽自動車に対する開発の姿勢がガラリと変わったからだ。

パワーユニットからして、考え方がまるで違う。ルノーエンジンの流用のような報道もあったが、実際にはボアピッチ、クランクベアリング位置などの基本骨格を共有しているだけで、エンジン自体は完全な新設計だ。これは、R35 GT-Rのデュアルクラッチトランスミッションを開発した子会社の愛知機械工業と、日産のエンジン部門のエンジニアが力を合わせて生み出した。

排気マニホールド一体型シリンダーヘッドや、1気筒あたり2本の燃料インジェクター、自然吸気エンジンは4層式EGR(排気ガス再循環装置)クーラーを採用し、ターボは電動アクチュエータと、本当に軽自動車かと思うほど、その仕様にはエンジニアのこだわりが感じられる。

新型ともなれば更なる軽量化を進めるのが常識でありながら、むしろ先代より重くなっているくらい、性能やフィーリングを重視したパワーユニット。そんな考え方は、車体のそのほかの部分にも感じられる。プロパイロットを搭載していることなど、日産デイズの魅力としては僅かなことだと思えてしまうくらい、根本のクルマ作りが渾身(こんしん)かつ入念に行なわれていることが伝わってきたのだった。

「技術の日産」の魂は、死んでいない。そう思えるほどクルマ作りの現場は、まだまだ情熱をもっていることが分かったのはうれしかった。

シリーズハイブリッドが、これからの日産三菱を救う?
三菱自動車のアウトランダーPHEVは、ほぼシリーズハイブリッド車であるという点において、日産のeパワーと近い構造にあるといえる。つまり両社ともEVとシリーズハイブリッド車の技術は、競合よりもノウハウを持っていることは間違いない。

EVや自動運転などの分野に関しては、実戦投入という点でリードしている日産自動車だが、この分野はいつでもゲームチェンジャーが現れる可能性があるだけに、研究開発に油断は禁物だ。冒頭の経営陣のゴタゴタは、開発環境にも少なからず影響を与えているようだ。

今回の東京モーターショーでも、日産自動車はコンセプトカー2台をステージ上に展示していた。しかし、前回までのような近未来の自動運転による走行をイメージするようなデモはなく、2タイプのEV(プロパイロット2.0は搭載されているらしい)によってお茶を濁している感は否めなかったのは残念であった。

プロパイロット2.0を搭載し、最も進んだ自動運転走行車両となったスカイラインも展示されているが、モーターショーという特別な舞台だけに、市販車とは異なる未来の日産の世界観をアピールしてもらいたかった。

日産ブースの向かいにはルノーが出展していたが、その内容と規模はとても自動車メーカーのものとは思えないほどささやかで、内容も市販車を並べただけのシンプルなものだった。

経営陣が新体制になっても、その周囲の役員の間にはさまざまな思惑がうごめいているという情報もある。だが日本とフランスの国策企業というプライドが、足を引っ張りあっていくなら、良いクルマやサービスも生まれない。

日産とルノー、三菱自動車の3社だけのアライアンス(実際にはルノー傘下のダシア、ルノーサムスンもある)だけでは、これからの熾烈(しれつ)な生き残り競争で勝ち残るのは難しい。いっそ以前破談となったFCAあたりと合体したら、と思ったのだが、この原稿を書いている途中でFCAとPSAの合併話が発表された。カルソニックカンセイによるマニエッティマレッリの買収は、ルノー日産とFCA合併の布石かと思っていたのだが、グローバル企業のM&Aはそんなに単純なものではなさそうだ。

(高根英幸)