台風19号の被災者の中には、無償の公営住宅へ移らず、浸水被害を受けた自宅に住み続ける人がいる。公営住宅の退去期限や住み慣れた自宅を離れることへの抵抗感があるとみられる。ただ、被災住宅にはくらしの不便や感染症の心配がある。【小林杏花、川島一輝、鳥井真平】
久慈川が氾濫し、深刻な被害を受けた茨城県常陸大宮市富岡地区。自宅1階が床上約1・4メートルまで浸水した秋庭まり子さん(58)は被災後、一家3人で2階での生活を続けている。
1階の台所や浴室は、掃除と消毒を繰り返してもカビが生えてしまうという。食器や調理器具はすべて処分したため、食事は弁当やカップ麺で済ませることが多い。洗濯機と風呂は故障し、自家用車でコインランドリーと銭湯に通っている。
元の暮らしを取り戻したいが、1階のリフォームは数百万円かかる。公営住宅への転居も考えたが、退去期限の存在がネックになっているという。秋庭さんは「期限までに生活の見通しを立てられるか分からない。でも健康への不安があるのでどうしようか」と悩んでいる。
那珂川の氾濫で自宅1階が床上90センチまで浸水した同県那珂市下江戸の自営業、小貫弘さん(57)は敷地内の物置で妻と生活している。自宅の室内を掃除しても、カビや悪臭がおさまらないからだ。物置も床上まで浸水したが、掃除すると悪臭は気にならなくなり、6畳ほどのスペースに冷蔵庫やテレビを運び込んだ。
カビで不衛生な風呂に代えて仮設の浴槽とシャワーを駐車場に設置したが、狭くて足は伸ばせない。物置での生活で疲れもたまるが、小貫さんは公営住宅への転居は考えていない。復興に向けて地域での役割があるし、「住み慣れた場所にいたい」との思いもある。
ひたちなか市枝川の50代男性の住宅も、1階が床上約40センチまで浸水した。1階足元のコンセントは発火の恐れがあるため使えず、高い場所にあって浸水を免れた冷蔵庫や洗濯機用のものを使うが、一般的な延長コードでは両親の寝室まで届かない。男性は「寒くなってきたので母に電気毛布を使わせたいが難しい」と嘆いた。
常陸大宮市富岡地区では先月末、自宅前に止めた自家用車で60代男性が家族と生活していた。自宅は平屋建てで、床上1メートル以上浸水して住める状態ではないという。知人に賃貸物件を探してもらっており、公営住宅は申し込まないという。
茨城県の7日時点のまとめでは、県内で浸水などの被害を受けた住宅は約3200棟に上るが、各地の避難所に身を寄せている人は約100人、公営住宅の入居契約は約200戸にとどまる。多くの被災者が自宅で生活しているとみられる。
県は、浸水被害が深刻だった住宅に住み続けると、もろくなった部材が崩れてけがをしたり、感染症にかかったりする恐れがあるとしている。このため公営住宅への一時的な転居を促しているが、被災住宅にとどまっている人数は把握していない。県の担当者は「一時転居した上で自宅の再建や修理を検討してほしい」と話している。