2017年7月の九州北部豪雨で、被害が大きかった福岡県朝倉市の住民グループがまとめた被災者の証言集が今春発行され、増刷されるほど注目を集めている。時間の経過とともに災害の記憶が風化していくのを防ごうと証言集を作成。住民グループは「住民目線で見つめてきた被災地の実態を知ってほしい」と話している。
朝倉市の住民グループ、白木地区復興支援協議体が中心となってまとめた証言集は「未来への伝言 九州北部豪雨『7・5あの日の記憶』」。家族を失った住民も含め11人の証言を被災当時の写真とともに掲載している。
グループ代表の林清一さん(71)は自身や家族に被害はなかったが、犠牲者も出た白木地区でボランティアに取り組むうち、豪雨が残した爪痕の記憶と記録を残す必要性を感じた。仲間5人と被災者への聞き取りを始めると、豪雨になすすべもなく、古里が流されていく生々しい様子が住民の口から語られた。
「ごうごうと流れる濁流の音、バリバリと家が崩れる音がひどく、地獄を見る感じでした」(改装中の古民家を流された男性)
「夫の背後から濁流がものすごい勢いで流れたようです。声のした方向をみると、小屋の前には夫の姿はありませんでした」(目の前で夫が流された女性)
早期避難の重要性や、仮設住宅暮らしから住み慣れた土地への郷愁を募らせる声もある。
「自然にはさからえない。早く逃げることだ。災害後、荒れ果てた地にホタルが一匹飛んでいるのを見かけました。水のきれいな乙石川に再びホタルが乱舞するように復活させたい」(自宅を流され、ヘリコプターで救助された男性)
市内では、福岡県が「長期避難世帯」と認定した山間部の6集落91世帯は、いまだ認定が解除されず自宅には戻れないままだ。仮設住宅には、建設型の応急仮設住宅と民間賃貸住宅を自治体が借り上げるみなし仮設住宅があるが、点在するみなし仮設には支援の手が届きにくいという被災地特有の課題も顕在化した。
「復興に向けて、前向きな話ばかりじゃないのが実情。それだけ災害は地域を深く傷つけることを思い知った」と林さん。視察に訪れるボランティアらへの講演活動で被災地の現状をありのままに語っていたところ、証言集の購入者は増え、これまで増刷分を含め800部を発行した。
証言集はカラー62ページで1部500円。地元の図書館や小学校にも置いている。林さんは「災害の教訓を粘り強く語り継ぎたい」と話す。問い合わせは林さん(090・8626・7158)。【飯田憲】