京急「快特」が衝突脱線、踏切は安全だったか

踏切でトラックと衝突し脱線した京急の電車。フロントガラスが割れている(記者撮影)
東京都心と横浜、三浦半島を結ぶ京浜急行電鉄の踏切で9月5日午前、トラックと衝突して列車が脱線する事故が起きた。
京急や横浜市によると、事故は11時43分ごろ、神奈川新町―仲木戸間の神奈川新町第1踏切(同市神奈川区)で発生。青砥10時47分発の下り三崎口行き快特(8両編成)が踏切内で立ち往生したトラックに衝突した。
快特には約500人が乗車していた。トラックの後方部分に衝突して1~3両目が脱線。トラックから投げ出された運転手とみられる男性が死亡、乗客など30人以上が重軽傷を負った。現場では火災が発生したが、13時に鎮火。事故の影響で先頭車両は約45度傾いた。同社は京急川崎―上大岡駅間の上下線で運転を見合わせた。
現場は神奈川新町駅の改札のすぐ前にある踏切。周辺は住宅が密集している地域で、駅周辺にはスーパーやファーストフードなどの飲食店が数店舗ある。踏切の先には京急の車両基地の新町検車区がある。
踏切でトラックと衝突し脱線した京急の電車(記者撮影)
京急によると、すべての乗客の避難は12時28分に終わった。近くで勤務する女性は「黒煙が上がっていて、踏切のところから『早く逃げろ』と叫んでいる人いた。電車からどんどん乗客が降りて線路を歩いてきた」と話し、不安そうに現場を見つめていた。
同社の脱線事故で乗客にけが人が出たのは2012年9月24日以来。この時は横須賀市内の追浜―京急田浦間を走行中の特急が線路脇の斜面から崩れた土砂に乗り上げ、先頭3両が脱線。運転士と乗客合わせて56人が負傷した。
国土交通省の「踏切安全通行カルテ」によると、事故が起きた神奈川新町第1踏切は4本の線路と横浜市道が交差し、長さは19.4m。ピーク時の遮断時間は48分で「開かずの踏切」に区分されている。同カルテの作成時点では、過去5年間の事故発生件数は0件だ。
京急の踏切数は、2019年度の安全報告書によると全線87kmに86カ所で、関東の大手私鉄の中でも少ない。とくに都内の本線は立体交差化が進み、品川付近に残るのみだ。ただ、今回事故が起きた京急川崎―横浜間は踏切が比較的多い区間で、列車のスピードも速い。
踏切の安全対策は長年の課題だ。国は1961年に「踏切道改良促進法」を制定し、踏切の改良や安全対策を進めてきた。1960年に全国で7万カ所以上あった踏切は、2017年度には3万3250カ所まで減少。踏切事故の件数も同期間に年間約5500件から248件まで減ったが、現在も1日に1件近く発生している。
踏切は神奈川新町駅のホーム近くで、画面奥が横浜方面。脱線した電車の後尾はホームにかかった状態だった(記者撮影)
鉄道各社も安全対策を進めている。京急はすべての踏切に警報機と遮断機を整備済みで、車の立ち往生などを検知する装置も63カ所に設置。車が通行する踏切には事故の際に列車の脱線を防ぐガードレールを設けている。また、衝突や脱線の際に先頭が重い方が安全性が高いとして、電車の先頭車両を重量のあるモーター付きとしているのも特徴だ。
だが、踏切で車や人が動けなくなった場合、列車が近づいていれば間に合わない。鉄道側の対策には限界があるのも事実だ。
京急は「乗客にけが人が出るような事故はこのところ起きていなかった」と説明する。各社は、鉄道イベントで「非常ボタン」を押す体験ができるコーナーを設けるなど、踏切での安全意識向上を訴えている。踏切の数を減らすことが簡単には進まない中、こうした地道な取り組みを続けていくしかできないのが現状だ。