藤沢駅前の再開発で50年続く「立ちそばの名店」はどうなる?――自家製コロッケそばの味を守れるか

藤沢駅の改札を出ると、すぐ目の前に南北に貫通する地下通路がある。
昭和40(1965)年以前、ここには開かずの踏切があって社会問題になっていた。地下通路ができて、南北の往来が楽になり、市民から便利になったと大変喜ばれたそうだ。
その4年後の昭和44(1969)年、この地下通路の一角に、立ち食いそば屋「新月」が開業した。自分が中学生だった昭和47~49年頃、「新月」に行ってそばを食べていた記憶がある。大変懐かしい店である。
3年ぶりに「新月」を訪問してみた。
南口から地下通路に入る。そのまま少し進んで通路を右に曲がると、すし屋などがある名店街があり、その奥の場所で「新月」は元気に営業していた。
今の店舗は富士ビルの地下の名店街にあるのだが、以前はその先のビックカメラ(元は丸井)の入っているビルの地下通路で営業していた。非常に狭いカウンターだけの店であった。
今の店は椅子席もあり、だいぶ広くなった。
入口には紺色の暖簾、そして、移転する前の店からのものだと思うが、「自家製麺 立喰いそば 新月」と屋号の看板が輝いていた。
訪問したのは11月に入った最初の土曜の午前11時過ぎだったが、学生さんや常連のお客さんが来店していて、人気なことがうかがえる。
「新月」は女将さんと息子さんと従業員の方で切り盛りしている。
女将さんは以前、移転する前の元丸井近くの狭い店で働いていたそうで、平成16(2004)年に先代社長から店を引き継いで、今に至っているという。

店の入り口にずらっとお品書きが書かれている。冷やしのメニューもたくさんあり、目移りするのだが、「新月」に来ると頼むのは「コロッケそば」である。
大宮駅東口のすずらん通りにある「つくば本店」同様、コロッケは自家製でイモがゴロっとしていて、ずしりと重い。柳家喬太郎師匠にも是非食べてもらいたい一品である。
「新月」はそばもうどんも自家製麺している。つゆもコロッケも自家製、手作りである。天ぷらそば用の天ぷらは仕入れているそうだが、日替わりの天ぷらは自家製でそれを楽しみに来店するお客さんも多いという。
つゆはきりっとした返しの利いたタイプで出汁が香る。そばは平打ちの自家製麺で、この平打ち麺が「新月」の代名詞だ。
つゆと平打ちのそばとコロッケの味がバランスよく三位一体となって、旨さを伝えてくる。
「豚カツそば」(470円)、「コロッケそば」(390円)、「天ぷらそば」(390円)、「わかめそば」(340円)などが人気メニューだそうだ。「豚カツそば」は薄切りした豚ヒレ肉にパン粉をつけて揚げたカツがのったそばである。若者には人気がある。
そして、なんといってもサイドメニューが豊富なのが「新月」のうれしいところだ。しかも、ミニとかチビとかの文字が躍る。
カレーだけでも「カレーライス」(380円)、「ミニカレー丼」(220円)、「チビカレー丼」(110円)、「カレーそば」(440円)、「ミニカレーそば」(220円)とラインナップ。

他にも立ち食いそば屋ではおめにかかれない「なめたけごはん」(220円)、「ミニとろろ丼」(220円)、「ミニ煮込豚丼」(220円)、「玉子かけごはん」(170円)までそろっている。牛すじが手に入る時は「ミニ牛すじ丼」(220円)などの人気メニューも登場する。
「なめたけごはん」(220円)を追加注文してみたのだが、このなめたけも自家製だった。なめこやえのきだけに返しやみりんなどを合わせて炊いたもので、まさに街のそば屋さんの味である。
「ミニ煮込豚丼」(220円)は豚モツなどを炊いたもので、しょうがが十分に利いた甘辛い味がなかなかよい。
そばうどんのメニューにもかけそばの「ミニ」(140円)、「冷しミニ」(150円)がある。お年寄りや子供などたくさん食べることができない人への配慮だ。ホスピタリティにあふれたサービスである。
うどんも自家製である。別の日に「もりうどん」(300円)や「冷やしミニうどん」(150円)を食べてみたが、このうどんはもちっとした弾力とコシがあり、加須うどんに近い食感である。女将さんに聞いてみると、やはりうどんは隠れ人気メニューになっているようだ。
ところで、「新月」に向かう地下通路だが、今また改修拡張などの話が持ち上がっている。藤沢駅地下通路リニューアル事業だ。事業の中心はさいか屋前からビックカメラのあたりの東西地下通路の拡充なのだが、それに合わせて「新月」のある南北地下通路も改修をするという。令和2(2020)年にリニューアル工事に着手し、令和3(2021)年度中の工事完成を目指すという。

その間、「新月」はいったいどうなるのだろうか。営業を続けることはできるのか。また移転なんてこともあるのだろうか。
女将さんに聞いてみると「本当ですか。初めて聞きました」とびっくりした様子。地下通路は人の重要な動線なので、工事中も通行はできるのではないかとのこと。それなら店の営業は続けることができる。藤沢市から詳しい情報の発表を待つことにしたい。
藤沢駅には立ち食いそば屋が多く、激戦地といわれている。そんな中、「新月」が決して恵まれた場所とは言えない場所で、50年、手作り自家製の味を守って営業を続けることができたことは、本当に素晴らしいキセキ的なことだと思う。
「新月」は老舗の立ち食いそば屋といってよいと思う。今は初代から数え4代目の息子さんが中心になって営業しているようなので、まだまだこの味が楽しめる。また来ようと思う。
写真=坂崎仁紀
INFORMATION
新月
住所 神奈川県藤沢市藤沢388
営業時間 平日 9:00~20:00
土日祝 10:00~16:00
定休日 なし(正月は休みますとのこと)
(坂崎 仁紀)