江戸川に残る唯一の渡し船「矢切の渡し」(千葉県松戸市下矢切)が、10月の台風19号と21号に伴う記録的大雨で被害を受けた。増水した川に船着き場の桟橋が流され、往復運航ができずにいる。台風19号上陸から12日で1か月となったが、船頭らは今も復旧作業に追われている。(矢牧久明)
矢切の渡しは江戸初期に始まり、松戸市矢切地区と対岸の東京・柴又を結んでいる。映画「男はつらいよ」や小説「野菊の墓」の舞台となったほか、1983年に細川たかしさんの同名の演歌が日本レコード大賞を受賞して脚光を浴びた。近年も年間6万~7万人の観光客らが乗っている。
10月12日に東日本を襲った台風19号では、江戸川の水位が上昇し、矢切の船着き場付近は水没。土は大きく削り取られ、木製の桟橋は跡形もなく流された。運航休止を余儀なくされたが、観光客の要望に応え、今月から対岸の柴又側のみを発着点にして再開。川を渡りきらずに、途中で折り返すコースで運航している。
その傍ら、船頭の杉浦勉さん(62)は矢切側の船着き場で復旧工事を進めている。7日も仲間と作業にあたり、「40年やっているが、こんなひどいことになったのは初めて」と語った。
被害は桟橋だけではなかった。10月19日朝、船着き場へ行くと、全3隻のうち2隻の船外機がなくなっていた。係留していたロープや鎖も切断され、船もろとも流されそうになっていた。松戸署に被害届を提出。窃盗容疑で捜査が行われているという。
杉浦さんは「今回の台風ではもっと大きな被害に遭った人が多い。このくらいは自力でなんとかしたい。楽しみに待っているお客さんのためにできるだけ早く桟橋を作り直したい」と語る。今月中に、本来のルートでの運航再開を目指す。