日本マイクロソフト(日本MS)は2019年8月、「ワークライフチョイスチャレンジ2019夏」と称するプロジェクトの目玉として「週休3日制」を一時的に導入し、大きな話題となった。これを可能にした1つの要因が「30分会議」だ。
世界基準は「会議=30分」?
日本MSでは、もともと業務の効率化アイデアの1つとして、30分会議を取り入れていた。同社では07年に在宅勤務制度を導入したことを皮切りに、働き方の効率化を推進。16年には、いわゆる「コアタイム」を撤廃するなど、働く場所にとらわれない環境を整備してきた。その結果、10年ほどで年間60万時間の労働時間を削減できたという。
日本企業の中では先進的な取り組みを進めて成功しているかのように見える日本MSだが、一方で世界各国のマイクロソフトと比較するとまだまだ無駄は多いという。例えば、メールに費やしている時間は、各国と比較すると24%も多い。また、会議においても17%の時間と、11%の人員が各国と比べて多く費やされているというデータが出ている。
そこで、もともと一部で取り入れられてきた30分会議を推進。何となく「60分」に設定しがちな会議を一度見直し、時間を短縮できるものは30分に設定するようにした。日本MSの広報担当者は、「各国のスタッフと会議をするときも、よくよく考えると30分が基本だった」と話す。実際、マイクロソフトのソフトウエア「Outlook」で会議の設定をするときも、「30分」がデフォルトになっている。
キーワードは「権限委譲」
30分会議を取り入れる際に注目したのが「権限委譲」だ。例えば、メールで「とりあえずCcに入れておこう」と多くの人にメールを送信してしまいがちなのと同じことが会議でも起こりがちだという。意思決定を実際に行う人が会議に参加していれば、その上司となる人は参加する必要がない。それぞれの役割を切り出すことで、不必要な会議に参加する必要もなくなるし、無駄な伝達をする必要もなくなる。日本MSでは、30分会議と並行して、「会議は原則5人まで」という取り組みも推進している。
日本MSではワークライフチョイスチャレンジを行った19年8月のデータを公開しているが、30分会議の実施比率は前年同期比で46%増加した。一方で、時間を短縮したり、人数を絞ったりして会議をすることで別の問題は発生しないのだろうか。例えば「時間内に話がまとまらなかったので別の会議を開催する」「会議で決まった内容を別のメンバーに伝達するための会議を開催する」といったことだ。
この点については、「1カ月当たりの就業日数」を見れば“杞憂”だといえる。前年同期比で日数は25.4%減少した。広報担当者は「日数も時間も、30分会議の推進で大幅に増えた、ということはない。そもそも情報の伝達だけであればチャットツールで事足りる」と話す。「そもそもその会議が必要なのか」と原点に立ち返ることも、無駄な会議の削減には必要ということだ。
そもそも、なぜ日本の会議には無駄が多いのか。広報担当者は「グローバルの会議では、アジェンダや司会役などが明確化されており、進行がスムース。『会議は感情的ではなく論理的に議論をするもの」と割り切って単刀直入な意見もよく出る。一方、日本では他の人の顔色を伺い、本音が出づらい。役割が明確化してないケースも多く、議論があいまいになりがち」と分析する。
日々の業務を円滑に進めるために必要な「会議」。さまざまな業務の見直しがなされる中で、まだまだ会議の在り方に不満を抱いている人は多い。音声コミュニケーションプラットフォームを手掛けるBONX(東京都世田谷区)の調査では、35.8%の人が「会議に不満がある」と回答。「目的があいまいで雑談ばかり」「さまつな議題で打ち合わせが頻繁に設定される」といった不満が寄せられた。
パーソル総合研究所と中原淳立教大学教授との共同調査では、従業員数が1500人規模の企業では年間に40万時間ほどが会議に費やされているとの推計結果が出ている。このうち、「ムダ」だと思われている会議の時間は9万時間にものぼるというから驚きだ。
日本企業をむしばむ、無駄な会議。週休3日と聞くと縁遠いと思う人も多いかもしれないが、日々の無駄な会議をなくせば、日本MSのように案外すんなり実現できるのかもしれない。