産後で慌ただしい生活を送っているであろうはあちゅうさんが見舞われた、例の「血液クレンジング」問題につきまして、ネットは大騒ぎになっていました。
某日早朝、満員電車乗車中に便意を催し駅のトイレで踏ん張っていたところ、腸に詰まっていた難物が思わず全部流れ出ていってしまうような記事がBuzzFeedからぶっ放されているのを知りました。さすがははあちゅうさん。まさにサバンナ高橋もニッコリの宿便キラー、下剤のごとき即効性高らかな話題性であります。
はあちゅう、血液クレンジング拡散を謝罪「ステマではない」「何も信じられない」 https://www.buzzfeed.com/jp/ryosukekamba/hachu
なんだこれは。
しかも、長いインタビュー記事の中に、素敵な人物代表として、この私・山本一郎と、昨年悲しい事故で命を散らしてしまったHagexさんとが例示されているじゃないですか。
これは呼ばれましたかね。
アンサーソングになる本件記事を、書かずにはいられないですよね。
もちろん、はあちゅうさんがインタビューの中で長々と語っている「ステマではない」という釈明は、それはそれとして受け入れたいと思います。ステマではない? そうですか。やはり世の中「北朝鮮が核兵器を放棄したと言っている」と報じられれば「そうですか」と応じ、また「アメリカ海軍は横須賀には核兵器を持ち込んでいない」と言い放てば「そうですか」と受け入れるのが大人の対応だと思いますので、これはもう、はあちゅうというコンテンツとして受け取る側も粛々と「そうですか」と正面からプロレス的に受け取るのが筋であろうと思っています。
やっぱこう、私たちも大海原のような広い心で荒波を受け入れる気持ちがなければいけないと、常々感じているんです。
そうでなければ、はあちゅうさんの「人生全部コンテンツ」というコンセプトを受け止めきれない。「プロレスって、ヤラセでしょ?」という永遠の問いに対する人類からの納得のいく答えは導き出せないと思うのです。
ところで、神庭亮介さんと岩永直子さんの取材によりますと、「ブログ『はあちゅう主義。』では『血液クレンジング』という言葉の入った記事が、2012~2013年に46本も投稿されていました(現在は削除)。「これはステマではないのですか?」と、はあちゅうさんを牽制するものの、結果として、はあちゅうさんの言い分を垂れ流すような記事になってしまっているのは残念でした。
釈明の本筋を見ますと、トレンダーズの美容クーポンサイト「キレナビ」の編集長として活躍しておられたはあちゅうさんは、今回例示されている医療クリニックから無料で対価を貰っていなかったので、2012年から2013年にかけて46本の「血液クレンジング」の記事を執筆しても「ステルスマーケティングには当たらない」という内容になっています。そうですか。
しかしながら、実際には、一連の「血液クレンジング」記事をせっせとはあちゅうさんのブログ「はあちゅう主義。」で書き続けている最中の2012年10月19日にトレンダーズ社は東証マザーズ市場に上場し、はあちゅうさん自身もまた9,000株を持ち、当時5,000万円ほどの株式上場益を得ています。
その後、何があったのか詳しくは存じませんが、当時の経営者であった経沢香保子さんが経営から離脱、はあちゅうさんも編集長を降りて退職し、この美容サイト自体も他社に譲渡されてしまい、この企業の個人持ち株上位であったはずのはあちゅうさんの名前は大量保有計画書から忽然と消えて、全米が泣いた。どういうことなんだよ。もちろん、現在は経沢香保子さんもはあちゅうさんもトレンダーズ社にも「キレナビ」にも無関係になり、もう問題はありません。あくまで2012年当時、の話です。
一連の流れは、これらの美容サイトの大口顧客であるクリニックからの売上を何とか積み、マザーズ上場に漕ぎ着け、そして上場即下方修正などという話にならないよう編集長として頑張って売上を確保するため自ら身体を張ったのでしょうか。なお、問題になった医療クリニックは、クーポンランキングの上位であり、一部掲載料が発生していたことを、私は2012年当時直接取材をして確認済みです。
最前線でフランス国旗を振りながらステマまがいに騙された人の死体を踏み越え民衆を率いる自由の女神の面目躍如だと思うんですよ。真面目に取り組んだ結果、はあちゅうさんに「あっ、自分のメディアを駆使してでもバンバン煽ってイカれたキラキラ女子動員して美容クリニックに連れていかねば」的な気持ちがあったのではないかと。
このあたりの話を突き詰めれば、はあちゅうさんが力強く喝破する「人生全部コンテンツ」というテーマは、極めて強い覚悟表明だと思うのです。この人、すげえこと言い切りやがったぞ。
私が好きなはあちゅうさんの書き込みにこんなのがあるのですが、彼女はものすごい頑張り屋で、向上心が人一倍強く、志がはっきりある人なのです。で、どんどん上に行こう、もっと先に進もうと、はあちゅうさんは常にもがいている。自分の地位が社会的に上がることを志しているのに、上がるのはネットで炎上した黒煙ばかりな気もしますが、そういうネットに残るスティグマこそ、はあちゅうさんが懸命に、私たちと同じ時代を生きた証なのではないでしょうか。
[引用] 志が同じ人とだけつるめばいい。全方位にいい顔することない。自分が上にいけば、これまで同じ場所にいたはずの人たちが悪口を言ったり足を引っ張ることもある。それでも自分が目指す場所だけ見て進めば景色が変わる。気づけば足を引っ張る人たちは、はるか遠くでまだ誰かの悪口言ってるだけなはず。 https://twitter.com/ha_chu/status/951038083088003072
確かに、振り返ると結果としてはあちゅうさんはネット民のネタにされるようなことしかしていない。今回と同じBuzzFeedで女性の隠れた性的被害を訴える #metoo 活動に乗っかって電通時代の体験をブチ撒けるも、横から「はあちゅうさん自身が知人女性を広告代理店上層部に斡旋してきたのではないか」と懸念を投げかけられたり、「お前が性被害を訴える前に、あれだけさんざん童貞を馬鹿にしてきたのに、それはないんじゃないか」とほうぼうから批判をされて、しまいには凄くいい人風のAV男優しみけん師との事実婚が明らかになると、日本の #metoo 活動全体を強制お通夜にしてしまったりする。何という破壊力。
今回の血液クレンジング然り、脱税発覚の青汁王子然り、各種はあちゅう有料サロン然り、薬物で逮捕されてしまったKAZMAX(吉澤和真)さんとの交遊然り、高知で消滅しそうなイケダハヤト師然り、謎の幻冬舎刊行ラッシュ後の総帥・見城徹さん大炎上然り、はあちゅうさんが関わった先は阪神先発陣なみの高確率で燃え上がってしまいます。
歩くデスノートばりに、はあちゅうさん自身が突撃していった先は手あたり次第にぶっ壊れてしまうのはなぜなんでしょうか。それも、別にはあちゅうさんが主体的に悪い、というわけではないのです。単に、行った先がなぜか自動的にアカンことになる。はあちゅうさんのツモが悪いのは、はあちゅうさん本人がそういうものを呼び寄せてしまうのか、妙な人たちばかりがはあちゅうさんと志を同じくしてつるむのか、あるいははあちゅうさんの目利きが悪いのか。
むしろ、みんなで掛け声挙げながらはあちゅうさんの足を引っ張ってあげないと、行く先々で惨事が起きてしまう。私たちは、はあちゅうさんのアンチ活動をしているのではなくて、大炎上を食い止めているんですよ。みんな誤解しているんですけど、ここまで一度しかない人生であますところなく身体を張り続ける女性はいないと思います。はあちゅうさん、めっちゃ頑張ってる。頑張ってるけれど、付き合う友人が良くないのか本人に目利きのセンスがないのか、ろくでもない物事やツモばかりでボロボロになってるんじゃないかと感じます。だから、何をしても、いつの間にか大炎上しているのです。
格闘家の青木真也さんが「はあちゅうはアントニオ猪木」とその本質を余すところなく表現し、ネット民すべての首が縦振動する感動巨編の一節がありました。が、はあちゅうさんの、その「自分の思うように、他人は自分を評価してくれないと死んじゃう」雰囲気というのは、単にはあちゅうさんに対して「いや、さすがにそれはやめておいたほうが」と100%ピュアな善意で声をかける私たちをもアンチと位置づけ、ブロックの対象とされてしまう悲劇を常に引き起こします。
常識的にはね、そういうことはしないんですよ。大丈夫ですか。そういう心配する声もはあちゅうさんの目や耳にはアンチ発言と捉えられてしまいます。つまり「それは不適切なことだからやめておけ」という老婆心からの忠告も、はあちゅうさんの猛る突破力からすれば抑止にならないということだと思います。
例えば、いままでどれだけはあちゅうさん個人がさまざまな活動や発言を理由として炎上したとしても、それは個人の問題であり、それでもはあちゅうさんが好きだとサロンに入っておカネを投げ込んでくれる養分がいたとしても、それは適法な活動である限り「面白いじゃないか」とはあちゅうさん人生全部コンテンツを受け入れます。笑いあり、悟りあり、はあちゅうさん、時として良いこともたくさん言うのです。それがはあちゅうさんの高い作家性ゆえだと、私たちも凄く評価する部分は、あるのです。
しかしながら、生まれてくるお子さんは別です。さすがに、まだ自我もないお子さんやご家族を揶揄する気にはなれない。『旦那観察日記』とか、確かに面白いわけですよ。妊娠期間というものは、普段だったら気にも留めないことでイラついたり、ちょっとしたことで不安になったり、ご主人が愛おしい奥さんと子ども置いて夜遊びしててムカついたり、いろんなことがあって当然だと思います。しみけん師はいいから早く帰って来いよ。ネットではあちゅう暴れて大変なんだぞ。
そんな感じでみんな心配もするわけで、コンテンツとして、はあちゅうさんの繰り出す人生模様を心から楽しんでいる私たちも、そのあたりはうまく割り引いて、毛沢東のごとく「攻めて来られたら退き、引いていったら進む」という精神で程よく向かい合ってまいりたいと思うわけであります。
でもお子さんに関してだけは、どうかうまく線引きしてあげて欲しい。お子さんには、親とは別人格で、違う人生を歩み、幸せを追求する権利がある。ご懐妊やご出産をネタにコンテンツにしてやろうというところまでは良いけれども、今後本人にとっても多感な時代を過ごすにあたり、変なネタにならないといいなと思うのです。
翻って、はあちゅうさんの今後で言うならば、やはり女性作家の巨匠として、林真理子さんや西原理恵子さんのような、作品を通して読む人に力を与え、人として生きる道筋を示せるような、そういう立派な作家活動を目指してはあちゅうさんには頑張ってほしいと願っています。それは、書き散らかしたブログやSNSのテキストをまとめただけの粗製乱造本をファン向けに売りつけようと一杯出すなという話ではなく、はあちゅうさん、冴えているときは本当に驚くほどしっとりとした文章をすっと書くのですよ。
確かに私も故・Hagex師と同様に、出世作的な『さきっちょ&はあちゅうの恋の悪あが記』以降、傑作も駄作も刊行物はすべて読み、Twitter、Instagramもブログも欠かさず目を通してきました。その意味では、おおいに楽しませていただいている快便側の一人です。表現者として優れているからこそ、ときとして人を大笑いさせ、面白がらせ、悩ませ、納得させ、イラッとさせ、ああこれははあちゅうさんにしか言えないなと思えるような、ハッとする鋭い記事を書く。SNS依存じゃないかと心配になるほどたくさん与太話やステマまがいの書き込みを書き飛ばしている量の中に、他の女性ネット民では追随できないぐらいに質の高い文章を書く作家性がある。
だからこそ、多くの女性執筆者たちがネットで現れては、一定の期間で消耗し、飽きられ、消えていく中で、いまなおはあちゅうさんはネット民から愛される存在であり続けるのであって、それはひとえに書き手としての才能だと思うんですよね。
ことあるごとに、必ず何かをやらかし、話題になり、賛同も批判もたくさんやってきて、ネットではあちゅうさんがブチ切れているのを見て、みんな喜ぶ。ときとして大爆発して黒煙が上がり、信者ともども爆風に煽られてはあちゅうさんが天高く舞い上がり、BuzzFeedで記事にされる。そしてそれは、「原作や前作を知らなくても、このコンテンツは楽しめます」というぐらいに、1話完結で楽しめるのです。
やはり、はあちゅうさんには命ある限り思いの丈をぶつけて欲しいし、理想とする、金字塔となるような「作品」を手がけてもらいたいと願っています。それは、亡くなったHagex師と、かの残念なことになる10日ほど前、果たせなかった彼の独立相談の話を肴に酒を飲んだ際に出たはあちゅう論の核心でありました。
悲しいことではあるけれど、「あれだけ面白いと、人生退屈しなくて楽しいだろうなあ」って言いながら、彼は神の御許へ旅立っていきました。そんな彼を殺した人の初公判はありましたが、その犯した罪は許せなくても、人として、幸あれと祈ります。頭を掻きむしりたいほど残念ではあるけれど、彼の生き様を胸に焼き付けて、私たちはこの世を退屈しないように生きていかなければならない。
いまでも、最後に彼と訪れた月島の居酒屋の近くを通るたび、ネット談義に花を咲かせた彼の姿を思い出して血が引く思いをします。まだ、変な帽子をかぶってそこに座っているかのような。悲しいけれど、仕方がない。低能先生にも何か救いの手がなかったのか、いまでも思うことはたくさんあります。
確かに、ここに、ネットを通じていろんな感情を交錯させ、同じ時間を過ごしたぬくもりが伝わっていた。はあちゅうさんからすれば、目障りなアンチにすぎない私たちも、面白いからウォッチし、限りある人生の時間を使って意味を捉え、読み解き、そこから面白さをどう表現しようか話し合ってきた。大きなお世話だろうけれど、より広い意味で、そのままあけっぴろげに人生をコンテンツにするはあちゅうさんが、脱税を除いて好きなんだろうなと。
そして、最後になりますが、改めてはあちゅうさんご出産おめでとうございます。人の親となることは、私も人生に大きな転機をもたらし、新たな時の扉を開く旅の始まりを意味しました。それまでの乾き切った独身時代は何だったんだろうと振り返る余裕も少しはできて、慌ただしいながらも幸せな日々を家内と子どもたちで作り上げて毎日生き抜いています。小さな命を預かる一人の母親として、はあちゅうさんらしい独特で、それでいて共感の持てるいろんな書き込みが精力的に今後も続くことを期待してやみません。
人間模様も含めて、社会のキャンバスに描かれた人生全部コンテンツがある以上、その作品が続くまで、与えられた命のある限り楽しんでいきたいと思います。
(山本 一郎)