【外交安保取材】外務省がミス連発 日米首脳会談「共同記者発表」で日本側同行取材団立ち会えず

8月下旬にフランス南西部のビアリッツで開かれた先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)に合わせて行われた日米首脳「再会談」の報道対応をめぐり、外務省がミスを連発した。
再会談の終了直後、首相の同行記者団に「再会談」ではなく「共同記者発表」とする訂正を発表。しかも、この会場に呼ばれたのは米メディアと日本のワシントン支局の記者で、同行記者団には事前通告がなく、大半の記者が現場で取材ができなかったのだ。
記者発表は日米貿易交渉の妥結に向けた重要局面だっただけに、G7に同行した記者として、取材できなかったことは非常に悔やまれる。
米テレビ生中継に騒然
「事前に十分な連絡ができなかったことをおわびしたい」
8月25日午後、日米首脳会談に同席した西村康稔官房副長官は、日米貿易交渉をめぐる報道対応の混乱について、同行記者団にこう陳謝した。
G7サミットなど各国首脳が一同に集まる国際会議は、開催国が厳重な警戒態勢を敷くため、会談の冒頭取材や記者会見などで各会場の出入りは厳しく制限される。安倍晋三首相に東京から同行した記者団は、日米首脳会談の会場には代表以外入れず、他の多くの報道陣はサミット会場近くのホテルで待機しながら原稿の準備をしていた。
日米首脳会談は予定通り、25日午前に行われた。ところが、その後のG7関連会合をはさんで同日午後、突然、首相がトランプ氏と会談するとの情報が首相同行記者団に飛び込んできた。記者も含め、複数のメディアがその場にいた外務省職員に確認したが「よくわからない」と困惑した様子だった。そうこうしているうちに、首相とトランプ氏が日米貿易交渉に関し、記者団に説明している様子を米テレビが生中継し、慌ててメモをとるなど騒然となった。
政治取材の最も基本的で重要な仕事は国のトップである首相の動向を把握することだ。記者会見は生中継のネット配信で確認できる時代になったが、首相の表情や話しぶりも貴重な情報で、画面ではわからないことが多い。
しかも、日米貿易交渉では自動車と農産品の関税引き下げ・撤廃をめぐり日米の隔たりが大きく、交渉決着に至る過程は今後の日米関係に重要な意味を持つ。イラン情勢と並び、貿易が今回の日米首脳会談の最大のハイライトだった。その場に同行記者団が立ち会えない事態は、全くの想定外だった。
政府の説明によると、貿易交渉の実務を担った茂木敏充経済再生担当相とライトハイザー通商代表部(USTR)代表も含め、首相とトランプ氏が簡単な打ち合わせをしているうちに、よい会談内容になったとして、米国側の要請で急ぎ両首脳が並んで発表することになった。
外務省は「米ワシントン駐在の日本人記者が入っていたのみで、東京から出張している日本の報道各社がいなかったことは(共同記者発表が)始まった段階になって初めて知らされた」(幹部)という。
緊張感を欠く対応
海外出張でハプニングはつきものだ。今回、トランプ氏の“気まぐれ”で始めた記者発表を誰かが止めることは不可能だったと思う。事前通告されてもG7の関連会合が続く窮屈な日程の中、同行記者団が記者発表の会場に間に合うことは難しかっただろう。
しかし、そうした実態を踏まえても外務省は、同行記者団が事態を問題視し、経緯説明を求めるまで緊張感を欠いた対応をしていたと言わざるを得ない。首相官邸と大使館関係者、外務省、内閣官房の職員など、首相と茂木氏のそばについていた政府関係者は全員、共同記者発表を行う気配を察知できなかったのか。直前であっても次善の策を講じることは不可能だったのか。
日米関係は日本外交の根幹だ。日米両国の首脳が並んで話す場面を取材する機会を日本のメディアが失うことは、国民が知るべき情報を正確に届けることを難しくし、国益を損ないかねない。現場は米政府、米メディアの都合に染まりやすく、おのずと首相よりトランプ氏が目立つことになる。仮に首脳から不規則発言が飛び出しても、その場にいなければ対応できない。
首相はトランプ氏と親密な関係を維持しており、強固な日米同盟の下、今後も両首脳は北朝鮮政策やイラン情勢、世界経済など山積する課題で連携し、首脳会談も頻繁に行われるだろう。両首脳は最短で、9月下旬の米ニューヨークでの国連総会に合わせて会談する見通しだ。
今回のようなことはいつ起こっても不思議ではないが、外務省をはじめ報道対応を担う政府関係者は今後、どう対応するのか。首相は「地球儀外交」を掲げ、年々国際社会での存在感が高まり、発言は世界で注視されている。首相の声を届ける報道の責任は重みを増しているだけに、今回の事例は取材体制のあり方を考える契機になった。政府には今回の教訓を生かし、貴重な取材機会を逸することがないよう求めたい。
(政治部 小川真由美)