日曜の昼下がり、東急線に乗ってぼーっとしていたら、1枚の吊り広告が目に入った。
「新そばまつり」
『また、深大寺か高尾山でやっているのだろう……』と目を離そうとしたとき、「しぶそば」という文字が飛び込んできた。
12月1日(日)まで、しぶそば(本家しぶそば、蒲田店、長津田店、市が尾店、二子玉川店、青葉台店、中央林間店、武蔵小杉店、大井町店、池袋店、あざみ野店)で新そばまつりを開催するというわけである。
しかも、秋田県羽後町産のそば粉「にじゆたか」を使用しているという一歩踏み込んだ記載。
秋田県羽後町と聞いて、そば好きの諸兄ならすぐ、「西馬音内(にしもない)そば」とピンとくるだろう。
秋田県羽後町は秋田県の南部、奥羽本線湯沢駅から西方へ行った奥羽山脈の麓に位置する豪雪地帯で、古くからそばの産地として有名である。
西馬音内(にしもない)そばは冬でも冷がけで食べることで知られている。冷がけそばの発祥の地といわれている。そば「にじゆたか」は倒伏しにくく、粒が大きく白い良質なそば粉がとれるそうだ。まさに「秋田美人そば」とでもいえばいいのだろう。今年の台風でも耐え抜いたそばというわけである。
そこで、有難くいただくべく、18日の朝9時半過ぎ、「本家しぶそば」を再訪した。するとすでに食券を求める人で行列しているという人気ぶり。入り口には、新そばまつりの幟が置かれている。
花番さんに聞くと、すべてのそばのメニューは新そばを使用しているという。
新そばだから、そばの香りを味わいたいと思い、まずは「もりそば」(370円)を注文した。
花番さんの「もーりぃー」の声がマイクで厨房に伝わる。綺麗な声だ。神田藪そばの花番さんを彷彿させるが、ここは「本家しぶそば」だ。
テーブルに着くと、「もりそば」があっというまに到着した。このスピーディな配膳が「本家しぶそば」の真骨頂だ。激しく速いのが特徴である。
「もりそば」の全体の姿はなかなかよい。そばを数本食べてみると、激しくうまい。風味が実によい。老舗のそば屋の新そばのもりそばの味である。
つけ汁(辛汁)は、返しが濃すぎることはなく、甘すぎることもなく、出汁が十分に伝わる上品なタイプでなかなかうまい。
あっという間に、完食してしまい、そば湯を飲んでいると、花番さんの「おすすめーーー」という弾んだ声が聞こえて来た。
そこで、花番さんのところへ行き聞いてみると、おすすめは「ごぼう天と春菊天そば」(580円、※提供他店では520円)のことだという。
思わず、「それ1つください」と2杯目を注文してしまうというハイな展開に。
また同じテーブルに戻ると、あっという間に「ごぼう天と春菊天そば」が着丼した。さすが「本家しぶそば」だ。
京野菜の堀川ごぼうの天ぷらと秋田県産の春菊の天ぷらがのる。そばはもちろん新そばのコシのある麺で、量も十分ある。つゆ(甘汁)は返しがさっぱりとして、出汁が香るタイプで、新そばとの相性がよい。堀川ごぼうもホクホクの揚げ具合である。
朝の15分間、「本家しぶそば」でささやかなそして贅沢なひとときを過ごすことができた。
ところで、前にも書いたが「しぶそば」は最後の本流的な風格がある、本格的な駅そば店だ。最近はほとんどの店に椅子が用意されており、居心地のよいサービスを提供している。また、東急線のない池袋にも店を展開している。
昔、「二葉」として営業していたころは、旧二子玉川駅中の階段の踊り場に店があってよく通ったものである。そのころから味は定評があった。
運営会社が(株)東急グルメフロントとなり「しぶそば」として生まれ変わってからは、女性客や家族連れにも支持されている一つ格上の人気そば店となっている。
従業員がクリアマスクをつけたり、接客も申し分ない。麺は生麺を使用し、新規メニュー開発も盛んで、利用客を飽きさせない名店である。花番さんがいる駅そばは他にはないと思う。
ビジネス的にも開かれた姿勢が心地よい。「箱根そば」とのコラボキャンペーンを行ったり、今回のような新そばまつりを開催したり……同業にも「みんなで頑張っていきましょう」という雰囲気があるし、綺麗な店内でスピーディな心地よい接客を提供している。
これからも、美味しいそばを食べに、手軽に利用させていただこうと思う。
写真=坂崎仁紀
INFORMATION
本家しぶそば
住所 東京都渋谷区渋谷2-24-1 東急百貨店東横店西館2F内
営業時間 平日 7:00~23:00(L.O.15分前)
土日祝 7:00~21:00(L.O.15分前)
http://www.shibu-soba.jp/
(坂崎 仁紀)