新人のOJTは順調に進んでいるでしょうか? OJTとは、On the Job Training(実務を通じたトレーニング)のことです。新入社員を育成する育成担当者のことをOJT指導員と呼んだり、OJTトレーナーと呼んだります。
気が付けば、すぐに次の新入社員の入社が待っていますので、少しでも早く一人前になって欲しいと願う指導者も多いのではないでしょうか。
早く一人前になってもらうために、今後ますます、多くの新しい仕事を新人に依頼することになると思います。その際に、新人にどのように仕事を教えるのが効率的なのか、連載第2回ではこの点について触れていきます。
仕事が忙しい中で、効率的に仕事を教える方法は?
効率的に業務を教えるOJTアプローチで最も大切なことは、「分けて教える」ということです。教える側としては、「一気に説明して終わらせたい」「知っていることを全部吐き出して自分の仕事に戻りたい」という思いに駆られた経験が一度や二度はあると思います。
しかし教わる側の新人は、多くの情報を一度に教わってもなかなか頭に入ってきません。指導者が効率を追求して、レクチャーを一気に済ませようとすればするほど、実は“非効率的なOJTの道”に迷い込んでしまう可能性があるのです。
仮に、新人に教える仕事量がそれほど多くなければ、一度に教えることもできるでしょう。しかし、仕事のボリュームが大きいと、一気に知識を詰め込むのは相当難しくなります。そんなときは、OJT場面で教える業務を分解し、順番に説明していくことで習得スピードを速めることができます。
新人に業務を教えるとき「業務分解のコツ」は?
私は前職の人材開発部門で主に社内研修を担当しておりましたが、研修を実施するまでには大きく3つのプロセスがありました。
・研修実施までの流れ
・研修を企画する
・研修を開発する
・研修を実施する
このように、自身の業務をプロセスで分けることができないかを考えてみます。研修業務を新人に教えるときは、まず研修実施までの全体像をつかませ、その上で1つだけ、例えば「研修の企画方法」のみをレクチャーしていきます。レクチャーを終えたら、すぐに新人の口から、研修の企画方法のポイントについて説明をさせ、気が付いたことをフィードバックし、質問もその場で受け付けます。また、「現状把握の進め方で、現場に確認する部分が不十分だったよ」「購買部門との調整の説明が抜けていたよ」など、気付いたことを指摘して、理解を深めていきます。
それができたら次のステップに移ります。次のステップである「研修を開発する」へと進み、同様にレクチャー、フィードバック、質問を繰り返していきます。このように、OJTにおいては、教える内容を分けてステップ・バイ・ステップで教えていくと、新人の迷いも少なくなり、育成スピードが格段に上がります。
この例では、研修実施までの一連のプロセスが明確に存在するので業務を分割しやすいといえるでしょう。
もし、仕事を分解しづらいと感じたら、無理やりにでも3つに分けたり、2つに分けたりしてみると、分解のきっかけがつかめると思います。私はOJTにおいて仕事の分解に困ったときは、自分自身に次のような質問を投げかけるようにしています。
「仮にこの業務を分けるとしたら、いくつに分けられるだろう?」
「仮にこの業務を3つに分けるとしたら、どう分けられるだろう?」
こう自分に質問を投げかけ、OJTで教えるべき業務を分解して、分かりやすくかつ効率的に新人に業務を教えていきましょう。
新人に手本を示すときに、注意すべきことは?
OJTで新人に業務を教える際に、手本を示して教える指導者は非常に多くいます。それは、多くの指導者が「業務を新人に習得させるには、まずは手本を示すのが近道だ」と考えているからです。この「手本を示す」というOJTアプローチと、レクチャーを通じて教えるというOJTアプローチは大変似ています。それは、一方的に情報を発信しているという点です。
手本を示している間は、伝えたい情報を一方的に発信し続け、新人にそれを一方的に見続けさせています。そして、なぜか多くの指導者は、新人に手本を一度示したら、「もう分かったはず」「理解したはず」と思ってしまいがちです。
しかしながら、いくら新人に手本を示しても、本当に見てほしいところを見ているとは限りません。例えば、OJTで自身の営業先に新人を同行させ、「商談の様子を見せたい」と思ったとき、あなたなら何と言うでしょうか?
指導者はよくこう言います。「お客さまと私のやりとりをしっかりと見ておくんだよ」。しかし、「お客さまとのやりとりをしっかり見ておくんだよ」という表現では、新人は、「ひとまず商談をしっかりと見ていればいいんだな」と、ぼんやりと接客全体をただ眺めているだけになってしまいがちです。そして、こちらが見てほしい肝心なところを見ておらず、いざ新人に1人でやらせてみると実践できないケースもあります。
そのような事態を回避するには、「しっかりと見ておくんだよ」ではなく、「お客さまのニーズを把握する具体的な言葉をメモにとっておいて」と伝えるなど、「見るべきポイントを具体的に指示」しなければいけません。それが、業務の習得スピードを早めることにもつながります。
OJTにおいて、何かをやってみせるときは、「どこに視点を定めればいいのか」をはっきりと示した上で手本を示すのが効果的です。
手本を示すときに、見るべきポイントを複数にしてもいいか?
新人がフォーカスして見ることに慣れてきたら、複数の見どころを伝えるようにしましょう。そうすることで育成効率が上がっていくからです。ここでは前職の研修の例で説明します。研修では外部から招いた講師に登壇いただく際、社員の前でオープニングの司会を務めることがあります。初めて新人にその司会のシーンを見せる際は、次のように伝えます。
「いまから外部講師を招いて、オープニングでの司会シーンを見てもらいますが、3つのポイントに注意して見てください。1つ目は、第一声の声量。2つ目は第一声を発するときの表情、そして3つ目は、参加者を見る際の視線の動かし方。まずは、この3つを見て、気が付いたところをメモしてください」。
このように指示して手本を示したら、別途時間を作って「私を社員と見立てて、先ほどの3つを意識して実際にオープニングの司会をやってみてください」と伝え、ロールプレイングを通じて、上記3つのポイントの理解度を確認していきます。OJTにおいて手本を示すときは、見どころを先に教えてから実践させたほうが効率よくスキルが身につきます。「取りあえず見てね」だけでは手本を示したことにならないのです。
以上、OJTにおいて新人を効率的、効果的に育成する方法を2つの視点からお伝えしました。業務を教えるときは「分けて教える」、手本を示すときは「見どころを教える」。ぜひ試してみてください。
著者プロフィール・島村公俊(しまむらきみとし)
人事系コンサルティング会社を経験後、2006年ソフトバンク(旧ボーダフォン)入社。ソフトバンクユニバーシティの立ち上げに参画し、研修の内製化をリードする。
日本HRチャレンジ大賞人材育成部門優秀賞、ソフトバンクアワードの受賞をはじめ、アジア初で米国教育機関よりPike’s Peak Awardを受賞。その他、千人規模の新人研修やエルダー(OJT、メンター)教育にも携わり、新人、若手の早期育成にも貢献する。
2015年に講師ビジョン株式会社創業。社内講師の育成トレーニング、OJTトレーナー研修、新人研修などを提供する。近著に『10秒で新人を伸ばす質問術』(東洋経済新報社)がある。