最速57秒 民宿おかみ「ムキムキみっちゃん」の妙技

福井市の民宿「白浜荘」のおかみ、板倉美津子さんは同市の鷹巣海岸のすぐ近くで民宿を始めて39年。カニの早むきの最高記録は1杯57秒だ。素手で手足の関節をうまく曲げて胴体からはがしていく妙技から「ムキムキみっちゃん」の愛称でテレビ番組にひっぱりだことなっている。2010年には当時、大リーガーだったイチローさんともテレビコマーシャルで共演し話題となった。「お客さんがカニをむくのが下手くそでむいてあげるようになったの。次から次へとむかなくちゃならないからむくのが早くなった」と笑う。宿泊客はみっちゃんの愛情を求め、白浜荘は連日にぎわう。
小学2年の時に母親を突然亡くした。さみしい思いをしたことから「50人くらいが集まれるにぎやかな民宿を作りたい」と決意。「チャンスは必ずくる」と友人や親戚に夢を公言し、30歳の時、鷹巣の自宅で7人ほどが泊まれる民宿を始めた。鷹巣海水浴場は海水の透明度が高く夏は海水浴客でにぎわい、冬は越前ガニを求める宿泊客で客室は埋まったが、秋の集客が悩みの種だった。
当時、福井県内の工業地帯の埋め立て工事が盛んで、作業員が宿泊先に困っていた。他の温泉宿では、仕事終わりに温泉ではなく別の風呂に案内され、食事も冷たいという話を聞いた。「平等にもてなされないのはおかしい」と白浜荘への宿泊を勧め、温かい料理と明るい接客でもてなすとあっという間に満室に。33歳の時には「100人が泊まれるように」と現在の白浜荘の建物を建てた。

「人との巡り合わせが良い」と話す。「宝」と書かれた封筒から大事に取り出したのは、昨年10月にあった全国大会に参加した千葉県障害者チームの団長の妻からの手紙。手紙には、がんでいつ倒れるか分からないような状況で福井に行った夫が「これまでに見たことがないぐらい」の笑顔で白浜荘から帰宅したことへの感謝がつづられていた。チームは金メダル50個を獲得し、全国3位の好成績を残したという。「最終日はみんなで万歳三唱してバスを見送った」と懐かしむ。「手紙を読み終わったあとは涙が止まらなかった。普通にもてなしたつもりだが、元気を与えられたのかな。この手紙はダイヤモンドにも変えられない宝物です」とほほえむ。
毎朝3時に起床し、神棚に「今日も世界中の人が幸せになりますように」と祈ると忙しい一日が始まる。「ありのままで生きてきただけ。見た目ではなく中身を見て、愛情と元気をたっぷりあげる」【横見知佳】
板倉美津子さん
1950年、福井市出身。「ムキムキみっちゃん」の愛称は常連客に名付けられて広まった。20代のころ、結婚相談所長を務め、5年で120組を成立させた記録も。2代目の長男克治さんも「ムキムキ王子」の愛称で親しまれる。白浜荘は福井市西二ツ屋町2の1。問い合わせは0776・86・1316