かつて、テレビゲームは子どものおもちゃとして遊ばれてきた。ファミコンの発売から36年。近年ではゲームをスポーツ競技として捉える動きが盛んになってきている。それは「eスポーツ」だ――。アジアや欧米では、プロスポーツ選手のようにeスポーツで生計を立てる「プロゲーマー」が一般的な職業として広く認知されていることは、梅原大吾選手へのインタビューでもお伝えした通りだ。
2022年に中国・杭州で開催予定のアジア版オリンピックとも呼ばれる「アジア競技大会」では、正式なメダル種目になることが決定していて、オリンピックへの種目化も議論が進められている。国内も例に漏れず、「プロゲーマー」が新しい職業として注目を集めてきた。
そこで今回はeスポーツ界の最重要人物を直撃した。かつて「名人」と呼ばれた男がいたことを覚えているだろうか――。ハドソンの広報・宣伝マンを務め、「16連射」で名高い高橋名人だ。名人は近年、「一般社団法人e-sports促進機構」の代表理事を歴任するなど、国内のeスポーツ振興にも尽力している。日本のeスポーツはどうなっているのか。現状の問題は何なのか。eスポーツの今後の戦略は――。名人本人がITmediaビジネスオンラインの取材に応じた。前・中・後編でお届けする。
英語の「sport」は本来「娯楽全般」を指す
――名人は日本のeスポーツの現状をどのように見ていますか。
ここ3、4年でだいぶ広がってきたのではないでしょうか。いい環境になってきたと思いますね。例えば近年では部活動に「eスポーツ部」というものが登場してきて、学校の部活面での浸透も目を見張るものがあります。これは昔だったらありえなかったことです。プログラミングによってゲームなどを開発する
パソコン部というのは昔からありましたが、ひたすらゲームをする部活というのは、「ただ遊んでいるだけ」としか捉えられず、(こういう状況になることは)まず考えられませんでした。
――何が変わってきたのでしょうか。
スポーツに対する見方がここ1、2年で少しずつ変わってきている、というのが大きいと思います。スポーツという言葉を日本人が聞くと、汗をかく、身体を動かすというのがスポーツだという見方が非常に強いです。でも本来、英語のsportという言葉は、身体を動かすことだけでなく、楽しむもの、娯楽全般を指す意味もあります。ですから、海外ではチェスなど頭脳を使ったものもスポーツとする見方が伝統的にあるんですよね。
この考え方が、学校教育の現場や、若い世代などを中心に日本にも少しずつ浸透してきているのだと思います。「eスポーツ部」という正々堂々とゲームを練習できる部活ができるようになったことはとても良いことですね。ゲームメーカーにいた人間としても非常にうれしく思います。
とはいえ、この言葉のズレの問題はまだまだ根強いです。私の年代の50代以上を中心に、汗もかかないで手先でちょこちょこやっているのが「スポーツ」だと言っていいの、と違和感を持つ方も多いと思います。この言葉のわだかまりの部分から何とかしていかなければと思います。
メーカーが協賛することによって生じる危うさ
――毎日新聞社も今年3月に「第1回 全国高校eスポーツ選手権」を開催しました。第2回の開催も決定しています。こうした動きをどう見ていますか。
これもいい動きだと思います。「eスポーツ選手権」のように、ゲームメーカー以外がスポンサードする分にはいいですね。もしここに固有のメーカーが入ってきたりすると、「この大会の次もうちのゲームを使ってくれるんですよね」という話にもなりかねません。
例えば9月に開催された茨城国体では、コナミさんの「ウイニングイレブン(ウイイレ)」やセガさんの「ぷよぷよ」が採用されましたけど、どうしても大会の運営にはゲームタイトルのメーカーの協力が不可欠です。
仮にここにゲームメーカーがスポンサーに入ってしまうと、例えば「ウイイレ」と競合するサッカーゲームを出している他社の作品を使う大会を開こうとしても、難しくなってしまいます。ゲームメーカーが株式会社という形を取っている以上、こうした問題が生じますね。
また、賞金が出ない、純粋にスポーツとしての大会は、ゲームメーカーとしては宣伝になるのでありがたい話なんです。一方で将来のことを考えると、やっぱりプロのゲーマーをいかに育てていくかを考えなければなりません。賞金が出ない大会だけでは、プロのゲーマーを育てられないので。「プロゲーマーをいかにして食べさせていくのか」という問題を先送りしていることにもなりかねません。
――「ウイイレ」や「ぷよぷよ」などのように、近年ではさまざまなゲームメーカーから「eスポーツ」を冠したタイトルが登場していますが、プロゲーマーの側からすると、ゲーム自体の人気や寿命にも左右されてしまう問題点もあがっています(「プロゲーマー「ウメハラ」の葛藤――eスポーツに内在する“難題”とは」参照)。これについてどう考えますか。
おっしゃる通り、実際にeスポーツに採用されているゲームタイトルはそのメーカーの持ち物ですから、同じ格闘ゲームというジャンルであっても、例えば「ストリートファイター」と「鉄拳」が同じ土俵では戦うことはできません。
これは他のスポーツでは見られない問題です。例えば今人気のテニスですが、テニスというコンテンツはどこのものでもありません。企業で争っているのは、ラケットなどのグッズに対してです。
ところがゲームの場合、そのコンテンツ自体がもうメーカーのものですから、これを何とかしようと思うと、例えばオリンピック委員会とか、日本eスポーツ連合(JeSU)というような運営組織が、競技用のゲームを作らない限りはどうしようもないんですよね。とはいえ、そうなってしまうと何のために各メーカーはゲームを出すのかという話になってしまう。現実的には難しいので、仕方のない部分もあると思います。
ですので、これは日本に限った話ではないのですが、eスポーツの大会をやろうとしても、結局そのメーカーがどこまで力を入れるかという問題が生じてきます。
景表法と賭博法の壁
――国内を見てもメーカー主催で賞金の出る大会はほとんどないように感じます。
もちろん各メーカーがどこまで宣伝費をかけるかという部分もあるのですが、日本の場合、実はメーカーが賞金を出してしまうといろいろな問題が出てきてしまうんですね。日本の法律では、例えば景品表示法(景表法)の場合、コンシューマーゲームではパッケージ金額が5000円未満であればその「取引価格の20倍」まで、5000円以上であれば「10万円」まで、または「懸賞に係る売上予定総額の2%まで」までしか賞金が出せないと法律で定められています。
ただ、このやり方だと、趣味でやっている人はいいかもしれませんが、「プロ」として生活していくには厳しいのが実情ですね。
こうした状況を受け、私が代表理事をやっていた「e-sports促進機構」では、第三者から大会にお金を寄付をしてもらい、その中から賞金を出す形を取っていました。本当に一番スマートなのは、海外の大会のように、大会の入場料の一部を賞金にすることなのですが、日本では賭博法に引っ掛かってしまうのが現状です。
――国内でeスポーツ大会を運営するには、法律の壁があるわけですね。
そういうことです。例えば米国の「EVO」という大会では、参加費や入場料から賞金が充当されるため、優勝賞金が1000万円を超えることも珍しくありません。優勝賞金が1000万円くらいあれば、上位に入賞するだけでも数百万の賞金にはなりますから、この金額だと「プロ」として賞金だけで生活していくこともできると思います。しかしこの「EVO」のやり方をそのまま国内でまねしようとすると、賭博法違反になってしまいます。国内で高額の賞金を出そうとすると、できないわけではないですが一筋縄ではいかないのです。
――他にはどんな法律に引っ掛かってしまう可能性があるのでしょうか。
ゲームの場合、ゲームセンターから来ている歴史があるため、風営法にも引っ掛かるんですよ。日本で高額賞金のeスポーツ大会を開こうとする場合、運営は賭博法、景表法、そして風営法の3つに抵触しないかを事前に把握しておく必要があります。eスポーツの国内普及において、法整備の問題も一つのネックになっていると思いますね。
――なぜ法整備が進んでいないのでしょうか。
恐らくですが、メーカーを中心に今のところは順調に動いているからではないでしょうか。大会そのものは開催されていますし、日本で高額賞金の大会が開催されなくても、米国の大会で勝った選手が日本に帰ってきて、ニュースになり、eスポーツそのものの知名度と人気は上がり続けています。eスポーツを国体でやったところで賞金が出るわけではありませんから、こうした法律が問題視される段階には、まだ来ていないということではないでしょうか。
――法律やメーカー、スポンサーなど、さまざまな問題があると思いますが、これらを打開するにはどうしたらいいのでしょうか。
選手につくスポンサーの活動がより活発になっていけばいいなと思います。例えばいま「ウイイレ」のプロ選手にはコナミさんがスポンサーについています。また、対戦格闘ゲームであれば、そのメーカーさんであったり、コントローラーのメーカーさんなどがスポンサーについたりすれば、選手個人がその年の試合で成績が振るわなかったとしても、最低限支えていくことが可能になります。
――確かにその通りですね。昨今のゲームメーカーの動きを、どう見ていますか。
実はゲームメーカーの中でeスポーツ専門の部署ができて取り組めているのはバンダイナムコさんぐらいなんです。どういう部署かというと、さまざまなゲームを通じてeスポーツの大会を開催してもっと盛り上げようというのが狙いなんですけど、普通のメーカーだとそういう部署としては独立させず、広報部などが宣伝の一環として取り組んでいるケースがまだまだ多いようです。
長期的視点が不可欠
――広報・宣伝の一環だと、どのような弊害が考えられますか。
eスポーツを宣伝の一環として捉えてしまうと、年度単位の予算の見方が中心になってしまう問題があります。純粋にCMなどの広報活動であれば、1年でどれだけの収益になったかという見方でも問題ない一方、eスポーツの場合はすぐに結果が出るものではありません。少なくとも5年間は続けられるだけの予算が最初に取れないと難しいと思います。
広報部としてeスポーツを盛り上げようとする場合、例えばAというゲームを売るために、これはeスポーツとして売り出せないかということで、なんとか1年分の活動予算を取る形になると思います。しかしeスポーツの場合すぐに利益が出るものではありませんから、1年目でマイナス50%という収益にもなり得ます。そうなってしまうと、2年目の株主総会で予算の承認が降りず、それ以上eスポーツ活動が続けられない可能性も考えられますね。
――メーカーのeスポーツ活動の推進には、広報・宣伝とは違う長期的な視点が必要ということですね。
むかし私がハドソンでやっていた「全国キャラバン」というファミコン大会は、もともとは各おもちゃ屋さんでやっていたゲーム大会を全国でやったら面白いんじゃないかというのが始まりでした。初年度の夏休みにやってみたら人気が出たので、最終的に13年続いたんですが、あれも1年目は「スターフォース」、2年目は「スターソルジャー」というように毎年タイトルが違うわけですよね。その年の夏休みにハドソンが売りたい作品をキャラバンで宣伝するというのが題目としてあったわけです。
そういうことがないとなかなか予算の確保は難しいと思います。
10年計画ぐらいの投資
――広報・宣伝の枠組みでeスポーツの予算を確保するためにはどのような工夫が考えられますか。
例えば「ウイイレ」みたいに「2018」「2019」「2020」と毎年シリーズとして新作が出るものだったり、「鉄拳」や「ストリートファイター」のようにナンバリングタイトルであったりすれば宣伝費は出しやすくなると思います。そういう作品であればファンの支持も厚いでしょうから、そういうタイトルからeスポーツ活動を始める。経営者の方にもできれば最初から10年計画ぐらいの投資ということで、温かく見守ってもらえればと思いますね。
――現状としてeスポーツは、各メーカーの広告・宣伝という位置付けが多いわけですが、こうした取り組みを20年以上先駆けて続けてきた名人としては、この期間をどう振り返りますか。
基本的な流れは今も昔もあまり変わっていないですね。これはハドソンだけでしたけど、昔は「キャラバン」というタイトルでゲーム大会もあった。今では何でも「eスポーツ」って付ければそれっぽく見せることができます。
例えばメーカーが売りたいタイトルがあって、勝ち負けがついて大会に結び付きそうなものであれば、「eスポーツ」と付けるだけで盛り上げることもできます。「eスポーツ」には商標も何もありませんからね。そういう面では非常に環境が良くなってきているとは思います。
(河嶌太郎、今野大一)