「専業主婦」と聞いて、皆さんはどんな人たちを思い浮かべるだろうか?
夫が一流の企業に勤めるサラリーマンで、経済的な理由で働く必要がない。小ぎれいな家に住み、子供が1人か2人、週に一度は友だちとランチ、趣味も一つや二つは持っている、もちろん料理は得意。ステレオタイプではあるが、こんな生活ができるとなれば、多かれ少なかれうらやむ気持ちを持つ人もいるのではないだろうか。
ところが、ある調査結果から、こうしたイメージからかけ離れた「専業主婦」たちもいることが明らかになった。夫の収入が低く、水道料金をしばしば滞納するほどの困窮ぶり。お金を節約するために「100グラム58円の豚肉をまとめ買いするため、自転車で30分走る」、「友だちから家庭菜園の野菜をもらう」。
これらは、どちらも実際の「専業主婦」の姿である。ただし、前者のような裕福な専業主婦は一握りに過ぎない。大多数は、経済的余裕のあまりない家庭の女性が、さまざまな事情から専業主婦を選んでいる。中には、夫の収入が貧困線以下にもかかわらず、専業主婦を続けている女性も少なくない。
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常識的に考えて、たとえ最低賃金であっても、働きに出た方が家計の足しにはなるはずだ。にもかかわらず、彼女たちが専業主婦を選ぶのはなぜなのか。
本稿では、2011年から16年までの間に4回にわたって、筆者が所属するJILPT(労働政策研究・研修機構)が行った「子育て世帯全国調査」をもとにして、経済的な困窮にあえぎながらも「専業主婦モデル」に囚われてしまう人々の実態を、前後編にわけて解き明かしていく――。
前編となる今回は、経済的に行き詰まる専業主婦たちの実態について明らかにしていこう。
いま日本の労働市場は、空前の「売り手市場」である。アベノミクスによる景気回復で人手不足が顕在化し、パートの有効求人倍率は、2011年の0.89倍から2016年の1.70倍へと急上昇した。
ところが、その好景気による人手不足の恩恵にまったく与れない者がいる。世帯所得が貧困線(4人世帯では244万円)以下にもかかわらず、不就業を選んでいる有配偶の女性たち、いわゆる「貧困専業主婦」という人口層だ。
2016年時点で、専業主婦世帯の5.6%、約21万人が貧困専業主婦と推計される。ピーク時(2011年)では、専業主婦世帯の12%、約54万人が貧困専業主婦だった。
夫が外へ働きに出て、妻が家事と育児を一手に引き受けるという男女役割分業規範に基づく「専業主婦」モデルは、1960年代の高度経済成長期になってから普及した歴史の浅いライフスタイルである。早い段階で工業化した欧米の先進国に比べ、日本の「専業主婦」は、遙かに遅く始まり、急速に浸透したライフスタイルと言える。
しかしながら、「日本は、いまでも専業主婦の多い国である」と言われると、驚く読者が多いかもしれない。
確かに、首都圏に住む筆者の身の回りでは、以前と比べるとずいぶん共働き世帯が増えている印象がある。筆者自身も、この研究を始める前までは、日本はすでに「共働き社会」に移行した国だと思っていた。専業主婦が主流だったのは昔の話で、現在は少数の裕福な家庭に限られていると思い込んでいたのだ。
共働き社会への移行を示す根拠として、しばしば引用されるのが総務省統計局「労働力調査特別調査」である。この調査によれば、専業主婦世帯数は、1997年頃にすでに共働き世帯に逆転されている。2016年時点で、夫が雇用者である世帯に占める専業主婦世帯の割合は37%までに低下し、1980年の65%に比べて28ポイントも下がっている。 しかし一方で、これは見方を少し変えれば、「専業主婦」モデルの健在ぶりを示すデータでもあることが分かる。
主婦パートとしてある程度の労働復帰をする「専業主婦」は、昔から多かった。メインの活動は家事や育児だが、その傍らでパートとして仕事をしている女性たちだ。
最新の国勢調査によれば、これら「主に仕事」をしているわけではない妻を加えて広義の「専業主婦」とすると、その数は全体(15-64歳)の63%を占めており、共働き世帯の数を上回る。つまり、労働市場に本格的にコミットする既婚の「キャリア女性」は、いまだに3人に1人程度しかいないのである(次ページ図1)。
この国勢調査の結果を裏付けるデータが、2015年に実施された「第15回出生動向基本調査」からも得られる。それは、出産前に働いていた女性の第1子出産前後の継続就業率である。
継続就業率は若い世代ほど上がる傾向だが、最近(2010~14年)に出産した女性でさえ、継続就業できた者は4割未満(38%)である。子どもを産み終えた無職の妻の86%が就業を希望するものの、そのうち9割弱がパート・派遣での就業を望んでいる。
かつて主流であった世帯形態である「専業主婦」モデルは、すでに「夫婦共働き」モデルにとって代わられたという認識は、大きな誤解だと言える。
女性が、妊娠・出産を機にキャリアの主戦場から離れ、家事・子育てを一手に引き受けて夫の仕事を支えるというのは、実は現在も一般的なスタイルとなっている。また、子育てが一段落したら、家事等の傍らでパートとして再就職するという専業主婦流のライフパターンは、今も昔もかわらず大多数を占めている。
図表1 雇用者世帯の妻(15~64歳)の就業状態