京都勝牛は“牛カツ戦争”を制するか 焼き肉とステーキを経てたどり着いたビジネスモデルに迫る

牛カツ最大手の「京都勝牛」が攻勢に出ている。

2014年に京都市内に1号店をオープンして以来、伝統的な洋食のビフカツやトンカツとは異なる、和テイストの新しい感覚の味わいとクイックに提供するスピーディーさが受けてヒット。インバウンドの好調も後押しして、東京(21店)、京都(8店)、大阪(8店)をはじめとする全国主要都市や主要なショッピングセンターに展開中。わずか5年間で、77店(国内60店、海外17店)にまで急成長している(19年11月末現在)。

旗艦店の京都駅前店(席数35席)は1日に平均して20回転するほどの繁盛店だ。運営会社であるゴリップ(京都市)の原信吾社長は、「牛カツを和食の新定番、世界のGYUKATSUに昇華させたい」と意気込んでおり、現状16店あるフランチャイズ店の展開を加速して国内の地歩を固めると共に、海外展開を積極化する方針。海外は現地の有力企業と国単位でフランチャイズ契約等を結んで出店しており、既に韓国(10店)、台湾(6店)では軌道に乗ってきている。

さらに、11月22日にはカナダのトロントに出店して、北米初進出を果たした。既に、香港とタイのパートナーとは契約を済ませ、20年には海外5カ国体制となる予定だ。

同社が使用するのは主に米国産の牛肉。メキシコ産や和牛も使う。和食や和牛のブランド力は世界に轟いており、和のイメージを前面に出すことによって、牛カツの需要を喚起していく。海外では既にトンカツは知名度を得てきているので、次は牛カツを、と考えている。

原社長は大手居酒屋チェーンの一角、チムニーの役員としてIPO(株式公開)を経験するなど経営者として実績を積んできた。同社の年商は京都勝牛の成功により、過去5年で8億円から73億円へと9倍を超える拡張をしていて、今最も勢いのある外食ベンチャーの1つに数えられている。

今回は、京都勝牛チェーンの成長力の秘訣に迫ってみたい。

リピーターが大半の店もある
京都勝牛は京都の老舗が立ち並ぶ伝統ある飲食街、先斗町(ぽんとちょう)に本店を構える。京都、そして日本を想起させる店づくりが身上。のれんをくぐって店内に入ると、一枚板のカウンター席が目立つ店が多い。テーブルや椅子も木を使っており、高級そうな和食店の雰囲気を持っている。実際に先斗町本店を訪れると、店構えからして、相当に昔からあった老舗のような表情をしている。

ミドルクラスのトンカツ専門店にも似ており、店づくりではベンチマークをした感もある。

麦ご飯と赤だしが付いた定食スタイルで提供され、千切りのキャベツとわさびが添えられている。「京玉」という独自開発のだしが効いた半熟玉子や、大根おろしにポン酢が掛かったみぞれポン酢付きの膳もある。なお、麦ご飯、赤だし、キャベツはお代わり自由となっている。

肉は塊から一枚肉として切り出されたものだ。衣に使う、打ち粉、パン粉、卵液はオリジナルの素材を開発している。油切れが良く、短時間で肉汁を閉じ込めてサクサクに揚げられるようにするためだ。野菜の甘みが溶け込んだソースも、創業70年の京都の老舗メーカー・創味食品との共同開発である。

新しい店舗は25~30坪で、40~50席の店舗が多いが、今後はさらに大型店も出店する方針だ。

顧客層はビジネスパーソン、ファミリー、訪日外国人と幅広く、男女比は55:45と拮抗している。顧客単価は1000~1500円ほどで、ミドルクラスのトンカツ店とほほ同じ。ビジネスパーソンのランチとしては高価だが、後述する食べ方のバリエーションでお得感を演出。大半の顧客がリピーターの店もあるほどだ。

部位を選べる画期的なシステム
ブランディングに携わってきた洪大記副社長は、「屋号に京都を名乗る以上、めったなことはできない。寿司、ラーメン、天ぷらなどに続く和食の代表格として認めてもらえるように日々精進している」と、業態の改善に力を注いでいる。

最近の顕著な改善例を示そう。

京都勝牛は、同業他社ばかりでなく一般的なトンカツ店にもほとんどない、部位を選べる画期的なシステムを有している。部位を選ぶというと焼肉やステーキを想起するが、それをカツのような揚げ物でできてしまうのだ。

19年4月から東京で先行して導入し、検証を進め、5月から全国に展開している。

選べる部位は「リブロース」「ロース(ハネシタ)」「タン」「ヒレ」「黒毛和牛(ウチモモ)」の5種類。リブロース&ロースのような、2種類の部位を組み合わせられる相盛りも用意した(一部の店では相盛りは提供していない)。博多ラーメンやつけ麺の替え玉のような感覚で、カツのお代わり(追いカツ)も可能だ。

値段は「名物白 牛リブロースカツ膳」(並1280円、税別、以下同)、「元祖赤 牛ロースカツ膳」(並1380円)、「牛タンカツねぎ味噌膳」(並1780円)、「牛ヒレカツ京玉膳」(並1980円)、「黒毛和牛カツ京玉膳」(並2480円)など。4種以上の部位を食べ比べしたい人のためには「牛カツ欲張り御膳」(2680円)がある。ハーフ&ハーフには、「リブロース&ロース」(1480円)などがある。サイズは並が130グラム、大が160グラムである。追いカツは70グラムとなっている。

また、京都勝牛ではバラエティ豊かな薬味とつけダレがそろっている。わさびに加え、だしじょうゆ、牛カツソース、特製和風カレーつけ汁、山椒塩などがある。わさびじょうゆをはじめ、卓上に置かれたすりごまを牛カツソースに入れて、さまざまな味の変化が楽しめる。

牛カツは60~120秒ほどでクイックに揚げて提供される。火加減は、芯まで火が通って肉が硬くならないミディアムレアだが、顧客の要望により調整が可能だ。

揚がったカツは8ミリ幅に細かく切る。さまざまな薬味やたれで、味を変えて楽しんでもらいたいからだ。

「京都」を発信するのも京都勝牛が心掛けていることだ。例えば、山椒塩の山椒は京料理では定番の食材だ。外国人には宇治の抹茶を使った抹茶ビールがよく出る。スイーツには抹茶アイスを用意した。

締めも、カツカレー、卵かけご飯、カレー茶漬けと多彩に提案しており、一膳で値段以上の満足ができるように設計されている。単純にカツにソースをかけて食べるだけの料理ではないのである。

焼き肉やステーキを経てたどり着いたビジネスモデル
ゴリップは2006年、韓国風豚バラ肉の焼き肉「サムギョプサル」専門店の「ベジテジや」ブランドを京都市伏見区で立ち上げ、当時のドラマ「冬のソナタ」を頂点とする韓流ブームに乗って順調に成長。一時期は全国で21店を展開していた。

創業者の勝山昭氏は7年間韓国で貿易の事業を営んでいたことがあり、在韓中は韓国の国民食とされる好物のサムギョプサルを毎日のように食べ歩いていた。そうした勝山氏の体験に基づいた本物の味と、既存の焼き肉店と一線を画すカフェ風の明るい店舗、サンチュをはじめとするさまざまな野菜とチーズとのトッピングで肉を包む食べ方の提案が受けた。

しかし、しかし、1万通り以上ある包み方を提案するなど同業他社とは一線を画す業態開発を行ったにもかかわらず、韓流ブームの終息に巻き込まれて次第に失速し、「単一ブランドに頼るリスクの大きさを痛感した」と洪氏はしみじみと語る。

ぼうぜんとしていたゴリップの社員に、これから赤身の熟成肉のブームが来ると食肉メーカーからの提案があり、主力業態をミドルクラスのステーキレストランに転換。14年に「ゴッチーズビーフ」という顧客単価4000~5000円の熟成牛ステーキ業態を新たに開発。赤身の肉がヘルシーだという風潮に乗って、転換した1店当たりの売り上げが倍増し、ベジテジやに劣らぬヒットとなった。お店の厨房で8割を焼き上げ、残りを顧客が席で仕上げるシステムで、ベジテジやの焼肉用テーブルを生かした。

しかしゴッチーズビーフは、本格的なステーキレストランとしては安価だがそうそう何度も行ける価格ではない。そこで勝山氏の「トンカツはあるのに、なぜ牛カツはないのだろう」という疑問から、もっと日常的に牛肉を楽しんでもらいたいと考案されたのが、ステーキをカツにしたかような牛カツだった。

牛カツはどこまで伸びるか
京都勝牛が商材とする牛カツは、和食のスタンダードとして定着できるだけの潜在的な市場があると目される。しかし、一方でまだ牛カツを食べたことがない消費者も数多く存在する。トンカツはスーパーでも普通に売っているが、牛カツは売っていない。牛カツは普及段階にあり、大きな可能性を秘めている。牛カツはトンカツと比べても、衣が薄くて脂身が少なくヘルシー感があり、食感があっさりしていて日本のだし文化にも適合しているからだ。

外国人からの受けも良く、京都勝牛の京都にある店はどこもインバウンドの顧客で賑わっている。進出した台湾では、現地のランキングサイトで、台湾に進出している海外の外食ブランドのカテゴリーで2位に入るほどの好評ぶりだ。

洪氏は「まだまだブラッシュアップしなければならない箇所がたくさん残っている。ご飯の炊き方1つとっても改良の余地がある。お客さまの層を広げるために、アナゴのカツやエビフライをメニューに加えた。ビジネス街でも、利用機会を広げるために、串カツを夜のメニューに入れていきたい」と語る。京都勝牛はさらなる進化に秘策ありと見受けられた。

ゴリップが重視するのは、お店でなければ体験できない価値のある消費。価値の最大化を目指し、改善にはゴールがないとしている。今の成功に酔わないさらなる高みを目指している。

牛カツ競争の行方は
牛カツのルーツには諸説がある。戦後間もない1946年創業の日本橋人形町の「洋食 キラク」が開発した「ビーフカツ」が熟成肉をクイックかつミディアムレアで提供しており、源流の1つと目される。著名な料理評論家の山本益博氏がこの料理を発掘し広めたといわれており、同店から分派した「よそいち」と共に、名物料理となっている。

レアに揚げたカツを刺身のような感覚で、箸で食べやすいようにさらに細かく切り始めたのは、1996年創業の新橋「牛かつ おか田」と目され、わさびじょうゆで食べる現在の牛カツの形をつくったとされている。

主たる牛カツ専門店は、京都勝牛の他に、「牛かつ もと村」(27店)、「牛かつ あおな」(6店)がある。両チェーンとも13~14年頃の創業で東京を中心に行列ができる人気店となっている。

もと村のメニューは、「牛カツ麦飯セット」(130グラムで1300円、260グラムで2100円)、「牛カツ麦飯とろろセット」(130グラムで1400円、260グラムで2200円)、追加牛カツ(130グラムで800円)しかない。基本、牛カツ定食のみのシンプルなメニューだ。セットには麦ご飯、みそ汁、千切りキャベツ、ポテトサラダ、わさび、しょうゆとわさびソースが付いていて、まずはわさびじょうゆで食べることが推奨されている。卓上には岩塩が置いてある。麦ご飯は1杯のみお代わり無料。

固形燃料で熱する小さな石盤が1人1台提供される。レアに近い状態で提供された牛カツを、お好みの焼き加減に焼いて食べる。

もと村では「牛かつを日本の食文化にする」と豪語。台湾の台北に進出した。

あおなの牛カツは内ももの部位を使用し、ニュージーランドのオーシャンビーフと黒毛和牛から選べるのが特徴。黒毛和牛はさらにA5、A5霜降りが選べる。A5霜降りサーロインが提供される店もある。また、サイズが100グラム、150グラム、200グラムと3段階に分かれている。

この店の定食では、ご飯が白米と十六穀米から選べる。それに季節のサラダ、スープ(みそ汁)が付いている。十六穀米の使用や、キャベツの千切りに代わってサラダとドレッシングが提供されるのが、差別化のポイント。肉はレア感が非常に強く、ローストビーフのようだと形容する人もいる。しょうゆと特製のたれで食べる。すりおろしの国産わさびが添えられている。200円をプラスすればとろろが付けられる。

代表的なセットメニューは、ニュージーランドビーフが1150円、黒毛和牛が1480円、黒毛和牛霜降りが1680円などとなっており、全般に安価な設定だ。ニュージーランドビーフと黒毛和牛のミックスもある。

新宿の店舗ではステーキ、鉄板焼などもメニューに加えており、試行錯誤しているようだ。ここ数年で急速に広まった牛カツ。各社で切磋琢磨しながらブランドを大事に育てて、和食の代表的な料理にまで昇華させてほしい。

(長浜淳之介)