ヤフーとLINEの経営統合発表は、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)や中国IT大手など、世界の巨大プラットフォーマーが伸張することへの、強い危機感が背景だと解説されている。日本経済新聞の11月19日第1面は、そうしたトーンで解説しながら、ネット企業の時価総額ランキングを載せて、ヤフー+LINEの時価総額合計が米中大手の足元にも及ばないことを示していた。統合発表の席で語られた「東アジアから(米中に次ぐ)第3極をつくっていきたい」とする構想についても、米中大手との戦力比較から、かなり“懐疑的”なトーンで、「日本のネット史に残る動きだが、ダイナミックに動く世界の競争で勝ち抜くシナリオがはっきり見えたわけではない」と締めた。
本当に「敵」はGAFAなのか
確かに、米中IT大手の投資力は桁違いであって、今後も国内大手との力の差は開いていく一方であることは誰が見ても明らかな状況だ。そもそも米中はマザーマーケットの規模が全く違う上に、市場自体の拡大基調に支えられているのだから、基盤となる本国市場に恵まれない日本企業はどうしても防戦一方になるのもある意味仕方がない。ヤフーとLINEがどう、というよりも日本国内の情報系企業全てを統合しても、GAFAの資金力には遠く及ばないことなど初めから分かっている。そうした厳しい評価の中ではあるが、ヤフーとLINEの統合は、グローバルな規模だけでは測れない潜在力があるように思うのだ。それは顧客の重複ということだと考えている。
ヤフーはポータルサイトYahoo!を軸に多様なサービスを展開することで、国内に多くのYahoo! ID保有者を構築してきた。このIDは携帯キャリアであるソフトバンクとも相乗りしている。このグループのキャッシュレス決済を担うのが、PayPayなのだが、後発ながら消費税引き上げの直前あたりから加盟店拡大、利用者拡大に成功して、スマホ決済のトップに躍り出たことはご存じの方も多いだろう。
「100億円相当あげちゃうキャンペーン」なる販促を大々的に展開して話題となり、ソフトバンク流の“焦土戦術”は相変わらずインパクトがあった。そうした派手な告知もさることながら、PayPayはソフトバンク、ヤフー連携での地味な下地づくりもやっている。例えば、ソフトバンクキャリアの長期契約者にはポイント還元があるのだが、この還元は基本的にはPayPayでしか受け取れないようになっているので、必然的にPayPayのアカウントを持たざるを得ない。そして、ポイントはPayPayで使うことになるが、たまるのは少額なので何か買い物をする際には追加チャージして使うことになる。ソフトバンクユーザーであるわが家でも、半ば強制的にPayPayをダウンロードすることになり、今では結構使うようになってしまった。
並行して、消費税キャッシュレス還元のタイミングに、小売チェーンへの販促協力を惜しまず加盟店を増やしたPayPayは、100億円キャンペーンの第2弾として、ソフトバンク系キャリアの利用者などに、Yahoo!ショッピングの利用で数十%のポイント還元も行っている。要はYahoo! ID保有者に対して、さまざまなサービスを重複的に利用してもらうことで各サービスの利用者を囲い込んでいこうという狙いなのだ。
ユーザーの「財布の中身」をチェックできる仕組み
だから何だ、と思うかもしれないが、これがデータプラットフォーマーの王道の戦略である。例えば、あるYahoo! IDの検索履歴とソフトバンク携帯の位置情報、そしてPayPayの購買履歴、Yahoo!ショッピングの購買履歴を統合するだけでも、その人の生活が垣間見ることができることは想像がつくはずだ。特にキャッシュレス決済の情報を取得することは、これまでは把握できなかった、「グループ外での顧客のお金の使い方」までも蓄積することができるため、ビッグデータとしての価値が飛躍的に高まったといっていいだろう。
IDでくくったさまざまな行動の履歴を統合すれば、その人の生活や考え方が分かるようになる。これをビッグデータとして活用してマネタイズしようというのがプラットフォーマーの本質である。ここにLINEの持つSNSやLINE Pay、付随するサービスの履歴が統合されることの重要性は言うまでもないはずだ。ヤフー+LINEの強みは、ヤフー(+ソフトバンク)+LINEのサービスが、国内消費者の滞在時間が最も長いプラットフォーマーになれる可能性を持っているということである。形だけでいえば、Google(検索)、Amazon(ショッピング)、Facebook(SNS)を統合したIDをドメスティックに実現する可能性がある、という言い方もできなくはない。
米中プラットフォーマーの経営資源からみれば、周回遅れの「井の中の巨人」かもしれないが、小なりといえども1億人超という規模の日本市場において、このように統合的なデータを収集できるとしたら、ID単位の分析に適したビッグデータを一定量収集できる可能性がある。ID単位でのマーケティングが可能になってくれば、新しいデータ活用やビジネスを生み出せる可能性がある。マザーマーケットが貧弱である日本のプラットフォーマーにも、「重複による深掘り」という活路はあるのではないだろうか。
標的となるのは金融業界だ!
さて、ここからは妄想の世界でしかないのだが、こうしたIDデータの深掘りがマネタイズしやすいとしたらどんな業界なのかを考えてみた。ID単位で個人の生活の履歴がくくられるとすると、そうしたデータを真っ先に活用したい筆頭は、どうしても金融業界ということになるのではないだろうか。
個人スコアリングというものが、徐々に広がりつつあるようだが、データの精度を上げるには、個人生活履歴データを積み上げていくことが必要になるだろう。最も「滞在時間の長い」IDを持ったプラットフォーマーの提供する金融サービスが、個人金融サービスのおけるリスク(貸し倒れなど)を極小化できるだろう。そうなると、既存インフラに依存するこれまでの金融機関は、そのビジネスのかなりの部分をこうしたプラットフォーマーに持っていかれることになる可能性が高い。
地銀、個人向けマーケットに地殻変動が起こる?
ヤフー、LINEのニュースとほぼ時を同じくして新聞紙面で見かけたのが、地方銀行の収益悪化と、それに伴う新たな再編の動きだ。地域経済の縮小や低金利の長期化によって、収益源が失われつつある地方銀行は、軒並み減益トレンドに陥り、これまでにはなかった業界の外との再編も進み始めている。
SBIホールディングスは第4のメガバンク構想と称して、地銀をグループ化して再編の受け皿として名乗りを上げ、島根銀行に続き、先ごろ福島銀行とも資本提携を発表している。こうした厳しい環境にある地方銀行では、最近、再び不良債権処理費用(与信コスト)が倍増したことも、業績悪化の原因となっていると報じられている。
一時期、話題となったスルガ銀行は異常な事例だとは思うが、一般論でいえば、貸し出し需要が落ち込んでくると、限られた需要を奪い合って、貸し手側が過当競争に陥り、貸し出し債権の質は低下する(つまり、需要が十分な時代には貸さなかった相手にハードルを下げて貸してしまう)ため、貸し倒れリスクは上昇するというのが一般的だ。こうした厳しい経営環境が続いていけば、少しずつ与信コストが上昇していく傾向は避けられないであろう。その上、SBIのように地銀再編を進めようとする新規参入者もあるなかで、デジタルプラットフォーマーによる金融サービスが本格的に実施されるとなれば、地銀のみならず、個人向け金融のマーケットは再分割される可能性がある。
意外に“ずぼら”だった与信管理
既存金融機関の個人向け貸し出しのノウハウは、歴史とともに蓄積してきたものがありはするが、そこまで精緻なデータに基づいて判断されたものではない。ローンの審査を経験されたことがある方なら分かると思うが、基本的には本人確認書類、年収の分かる書類、勤務先、勤続年数などのデータぐらいしか聞かれないことを覚えておられるであろう。カードローンなどになれば、年収資料さえいらない場合もあるように(過去の他人のデータの蓄積からの類推されていることが多い)、金融機関は、実は大したデータを分析しているわけでもない。そこに、膨大な個人単位の生活履歴のデータと貸し倒れとの関係を分析することが可能な新たなプラットフォーマーなどが、新たな金融技術(フィンテック)でビジネスを進めていけば、既存の金融機関の手法は確実に過去のものとなるのである。
失われつつある債権管理のノウハウ
プラットフォーマーなどの新規参入者により、個人金融のマーケットがさらに侵食されていけば、地銀などの既存金融機関の貸し出し債権の質はこれまで以上に劣化することは避けられない。そうなれば、2000年代の金融危機のように、不良債権管理や回収といった業務が再び重要性を増してくることになるだろう。
しかし、近年、収益獲得競争の中で、「セールスマン化」している金融業界の人材には、債権管理のノウハウは既に乏しいように思われる。バブル崩壊後に債権管理に携わった世代は、50代となり大半がセカンドキャリア(いわゆる“片道切符”出向)へ転出してしまっている。こうしたノウハウの再構築は簡単ではないはずであり、なんともタイミングが良くないな、と思わざるを得ない。
最近、筆者がメガバンクに勤務していた時代の近い年代の知人たちも続々とセカンドキャリアに移行して、ほぼ現役銀行員ではなくなったようだ。彼らの中には債権管理の高いノウハウを持った人材も多いが、そのほとんどが現在はそうした能力を使うことなく新しい仕事についている。彼らの大半は、銀行のあっせんによる再就職というルートで、セカンドキャリアに移るので、個々の過去のノウハウはその時点で埋もれてしまう。幸か不幸か、債権管理というノウハウが再び必要になるのなら、彼らを何らかの形で呼び返して、そのノウハウを活用することができればいいのにと思う。一度、セカンドキャリアに出て、世間での自らの評価にも触れた人材なら、そんなに身の程知らずの処遇も要求しないと思うのだが、なにかいい方法はないだろうか。
著者プロフィール
中井彰人(なかい あきひと)
メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。