中国が政治利用、韓国は規制をもくろむ「ハリウッド映画」市場のインパクト

11月22日に日米同時公開されたハリウッド発のディズニー映画『アナと雪の女王2』。公開後、米国では早速興行収入1位を獲得し、日本でも全国映画動員ランキングで1位となった。

今年もハリウッドの映画は話題作が多い。4月に上映された『アベンジャーズ/エンドゲーム』は興行収入で世界歴代1位を記録し、『ライオンキング』『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』『キャプテン・マーベル』『ジョーカー』などが興行収入10億ドルを突破しているという。そして『アナと雪の女王2』も10億ドルを突破する勢いである。

英国では、映画の広告費も史上最大になっていると、つい先日報じられている。人気に合わせて、関連グッズなども世界中で売れることになり、その経済効果は大変なものである。ハリウッドの映画文化はビジネス業界だけでなく、私たちの生活にも恩恵を与えていると言える。

そんな世界的にも影響力が高いハリウッドの文化とビジネスが今、その影響力の高さゆえに、中国と韓国に絡んで物議を醸している。華やかなハリウッド映画の裏にある中韓での騒動をのぞき見てみたい。

中国政府の「主張」を無視できないハリウッド
まずは中国だ。中国では2019年9月、『アボミナブル』という米中合作のアニメーション映画が上映された。同作品は全米でも上映されており、初登場1位を記録している。製作は、中国企業のパール・スタジオとハリウッドが誇る制作会社ドリームワークスで、映画の完成度は高いとの評判だった。しかし、この映画は、東南アジアで大騒動になった。

なぜなら、映画に登場する「中国を描いた地図」が、中国側が強引に主権を主張している地域を含めた問題のある地図になっていたからだ。ベトナムやマレーシアは、抗議の意味で国内での上映を取りやめ、当時大きく報じられた。

米メディアはこの騒動について、「ハリウッドが中国政府に屈した」などと報じた。ただそもそも、中国の共産党政権は国外映画に対して警戒心が強い。

中国では毎年、基本的に外国映画は34作品しか興行できない決まりがある。そこに入れた作品だけが世界第2の映画市場を誇る中国で稼ぐことができる。その枠に入るには、もちろん中国政府に批判的であればアウトで、中国政府のさまざまな「主張」を無視することもできない。ちなみに収益は中国側と分け合う必要がある。

それ以外に、中国の企業に作品の権利を売って中国で上映するパターンもある。この種類の映画は、毎年50作品ほど輸入されているという(つまり外国映画は年間80本以上)。

政府の意向に従わないと「強烈なお仕置き」
中国の映画市場は現在、どんどん拡大しており、近く米国を超えて世界最大になると予想されている。中国側とハリウッド側は、5年ごとに映画上映の契約を結んでおり、その契約は17年に更新されたばかりだという。いずれにしても、中国で上映したいなら、ハリウッドの映画関係者も、中国共産党の意向には従わざるを得ないのが現実である。

従わない場合、中国政府から強烈なお仕置きが待っている。映画会社ではないが、例えば、中国でもホテルを展開する米ホテル大手マリオット・インターナショナルは18年、公式サイト内で台湾や香港を中国とは別の国であるかのように扱っていたことで、ひどい目に遭っている。同ホテルの予約などを扱うサイトが1週間にわたって当局によって封鎖された。

マリオットのように、中国政府の気に入らない「地雷」を踏んで謝罪する世界的な企業は、ちょこちょこ話題になる。とにかく、当局の逆鱗に触れるようなことがあれば、中国国内では映画どころか普通のビジネスもできないのである。

『アボミナブル』のケースは、世界的にも影響力のあるハリウッドが、カネのために中国政府の意向を言われるがまま取り入れた例だと言える。全てのハリウッド作品にそんな影響が及んでいると言うつもりはないが、ハリウッド側にも、中国とビジネスするにはその前提を受け入れる必要があると広く認識されているはずだ。そして中国共産党を極力、刺激しないような意識が製作段階でも働くことになる。

中国側にとっても、世界で大々的に上映される映画に、多少でも自分たちの主張を反映できることはかなり大きな勝利だろう。中国市場のデカさがなせる技ということだ。

ハリウッド映画の“占拠”を恐れる韓国
一方で、お隣の韓国では、中国のようにハリウッドの影響力を利用するのとは違って、なんとか国内でその影響力を削ごうとしていることが話題になっている。

11月23日、韓国でも『アナと雪の女王2』が封切られた。その人気ぶりはすさまじく、上映開始から10日間で6120万ドルの興行収入を記録。これは米国を含む北アメリカ、そして中国に次ぐ興行成績だという。

すると、この人気が思わぬ騒動に発展する。ソウルの市民団体「公共福祉委員会」が、ソウル中央地検にウォルト・ディズニー・コレア社を告訴したのである。同団体は、子どもたちが熱狂している『アナと雪の女王2』が

法律違反だと言うのだ。

どういうことか。韓国の独占禁止法では、韓国国内の個人や企業が、それぞれの分野でマーケットシェアの50%を超えると「市場支配活動」と指定される。そして同団体は、ディズニーが「映画館を独占し、短期間で莫大な利益を稼ごうと企て、消費者の選ぶ権利を制限している」と批判。映画については、どれほどの占拠率が違法になるのか数字の規定はないが、非常に独占的であると問題視されたのだ。

事実、『アナと雪の女王2』は、公開日に、韓国の劇場の88%以上を「占拠」するほどの人気だったという。そんなこともあって、地元の政治家などからも規制の議論が出た。ハリウッドの影響力が韓国人を「洗脳する!」という趣旨なのかどうかは分からないが、少なくとも韓国の子どもたちを支配しかねないと恐れたということだろう。

ただ反対に、例えば「ハリウッド映画」の占拠率(上映館や1日に上映する回数など)で上限を定めてしまうと、映画館などの経営側から苦情が出る可能性がある。韓国の議会はそんなことお構いなしのようで、ハリウッド映画などの占拠率を50%以下に規定する法案を審議中だと報じられている。

それが実現すれば、下手すると鑑賞したい映画を「法律」によって劇場で見ることができないような状態になる。そんなことになれば映画産業自体が衰退する恐れもあるため、現状では、慎重な議論を求める声も出ている。ただ独立系映画などの制作者らは、自分たちの作品を上映する機会が増えるために、議会の動きを歓迎しているらしい。

もともと韓国は1998年まで、日本文化の流入を制限していた。そんな歴史からも、流入する「文化」などには敏感なのかもしれない。

ハリウッド映画のビジネスの大きさ
いずれにしても、中韓のどちらのケースも、根底にはハリウッド映画の影響力が強いという現実がある。ちなみに米国では、ハリウッドの中でも、『アナと雪の女王2』などを送り出しているディズニーの人気が拡大を続けている。2015年から記録的な興行収入を毎年更新し続けている状態で、現在のマーケットシェアは33%を超える。

ただこれがどれだけ拡大しても、フェアに国民がその作品を求めている結果ならば、米国は規制などしないだろう。さらには、米国の政治的なメッセージをひそかに既成事実化して入れ込むようなこともしないはずだ。

とにかく、ハリウッドの影響力にそれぞれのアプローチで対応する中国と韓国は、ハリウッド映画を純粋に楽しもう、というわけにはいかないようだ。

(山田敏弘)