「議員辞めろ」「弁護止めろ」の危険性 横行する「危うい正義」その5

林信吾(作家・ジャーナリスト) 林信吾の「西方見聞録」 【まとめ】 ・丸山穂高議員の発言、その責任は議席を与えた有権者にある。 ・京アニ容疑者に対しても法の精神は曲げてはいけない。 ・デュー・プロセス(適正な法執行手続き)を無視した正義は成立しない。 今年5月、北方領土問題をめぐって、日本維新の会(当時)の丸山穂高議員が、 「戦争しないと(戦争して取り戻さないと)どうしようもなくないですか」 などと発言したことは、未だ記憶に新しい。 当人に反省の色が見られなかったことから、野党は議員辞職勧告決議案を提出。与党が賛成しなかったため、可決はされなかったが、その後も同議員に対する世論の反発が高まる一方であったことから、6月4日、 「ただちに自ら進退を判断することを促す」 という糾弾決議案が、満場一致で可決された。戦後の国会において初めてのことである。 ただ、自民党の小泉進次郎議員だけは、 「みんなで糾弾するのは腑に落ちない」 として、棄権している。 いずれにせよ、こうした決議案は強制力を伴うものではないので、当人は今も議員を続けている。日本維新の会は除名されたが、今や「NHKから国民を守る党」の副代表だ。 この頃、公私ともに立て込んでいた私は、残念ながら自分の意見を文章化して発表する機会を逸してしまったが、実は、こうした決議案には賛成しかねる、という立場であった。 丸山議員の発言にはまったく賛成できないが、誰がその責めを負うべきかと問われれば、これは間違いなく、彼に議席を与えた有権者である。次の選挙でちゃんとオトシマエをつければよいことで、憲法で保障された議員の身分を、それこそ「数の力」で奪おうというのは、酒に酔っての放言以上に「議会の品位を傷つける」ことにならないだろうか。 さらに言えば、一度こうした前例ができてしまうと、たとえば天皇制に対して批判的な議員が現れたような場合に、ただちに辞任圧力がかかったりはしないか、との危惧もあった。それは「いつか来た道」である。 実際に戦前の帝国議会においては、1940(昭和15)年2月に、斎藤孝夫という議員が、郡部の横暴を厳しく論難する、世に言う反軍演説を行い、結果的に衆議院を除名されている。大日本帝国憲法の下では、これが制度的に可能であったのだ。ちなみに、当時の有権者は斎藤を支持し、次の総選挙で返り咲いたが。 ▲写真 斎藤孝夫氏 出典:国立国会図書館

林信吾(作家・ジャーナリスト)
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・丸山穂高議員の発言、その責任は議席を与えた有権者にある。
・京アニ容疑者に対しても法の精神は曲げてはいけない。
・デュー・プロセス(適正な法執行手続き)を無視した正義は成立しない。

今年5月、北方領土問題をめぐって、日本維新の会(当時)の丸山穂高議員が、
「戦争しないと(戦争して取り戻さないと)どうしようもなくないですか」
などと発言したことは、未だ記憶に新しい。
当人に反省の色が見られなかったことから、野党は議員辞職勧告決議案を提出。与党が賛成しなかったため、可決はされなかったが、その後も同議員に対する世論の反発が高まる一方であったことから、6月4日、
「ただちに自ら進退を判断することを促す」
という糾弾決議案が、満場一致で可決された。戦後の国会において初めてのことである。
ただ、自民党の小泉進次郎議員だけは、
「みんなで糾弾するのは腑に落ちない」
として、棄権している。
いずれにせよ、こうした決議案は強制力を伴うものではないので、当人は今も議員を続けている。日本維新の会は除名されたが、今や「NHKから国民を守る党」の副代表だ。
この頃、公私ともに立て込んでいた私は、残念ながら自分の意見を文章化して発表する機会を逸してしまったが、実は、こうした決議案には賛成しかねる、という立場であった。
丸山議員の発言にはまったく賛成できないが、誰がその責めを負うべきかと問われれば、これは間違いなく、彼に議席を与えた有権者である。次の選挙でちゃんとオトシマエをつければよいことで、憲法で保障された議員の身分を、それこそ「数の力」で奪おうというのは、酒に酔っての放言以上に「議会の品位を傷つける」ことにならないだろうか。
さらに言えば、一度こうした前例ができてしまうと、たとえば天皇制に対して批判的な議員が現れたような場合に、ただちに辞任圧力がかかったりはしないか、との危惧もあった。それは「いつか来た道」である。
実際に戦前の帝国議会においては、1940(昭和15)年2月に、斎藤孝夫という議員が、郡部の横暴を厳しく論難する、世に言う反軍演説を行い、結果的に衆議院を除名されている。大日本帝国憲法の下では、これが制度的に可能であったのだ。ちなみに、当時の有権者は斎藤を支持し、次の総選挙で返り咲いたが。

▲写真 斎藤孝夫氏 出典:国立国会図書館