「残業が少ない職種」ランキングで「美容系」がなぜ1位? 残業時間のメカニズムに迫る

パーソルキャリア(東京・千代田)が運営する転職サービスdodaは11月、ビジネスパーソン1万5000人に調査した「職種別の残業時間ランキング」を発表した。「残業時間が少ない」職種では、事務系や医療系職種が上位に名を連ねた。だが、なぜかトップは「美容関連職(理美容/エステ/マッサージ)」(月平均10.3時間)と、ちょっと意外な結果になった。

逆に「残業時間が多い」ランキングでは、建築・土木系エンジニアや営業系の職種が上位に並んだ。残業時間と職種の偏りにはどのような背景があるのか。パーソル総合研究所(東京・港)で労働環境の分析などに取り組んでいる、主任研究員の小林祐児さんに聞いた。

美容職の「練習時間」は残業に当たらず?
まず、最も意外感があったであろう、「少ないランキング」1位の「美容関連職」について、小林さんは「近年、この業界では労働基準監督署によって是正されたり、大手エステサロンの労働者による組合ができたりしており、一定の改善が進んでいるのでは」とみる。

一方でこの残業時間データの見方には気を付けるべき、とも説明する。「理美容やエステなどは練習が必要な業種。慣習的に顧客対応の時間は残業になり得るが、練習時間は残業には当たらないことがある」(小林さん)。深夜まで美容室でカツラの髪を切って練習している美容師も少なくなく、彼らが店にいる全時間が必ずしも反映されていない可能性はある、とみる。

次に、「少ないランキング」で多くの職種がランクインした事務系・医療系業務については、やはり定型業務をAI(人工知能)などが代替するようになった、とみる。RPAが導入されやすい事務職に加え、医療系では製品検査のプロセスを、画像系の機械学習を取り入れたAIに行わせている可能性が高いという。

五輪が影響する建築・土木系エンジニア
「残業時間が長いランキング」でトップの「設備施工管理」(41.6時間)など多くがランクインした建築・土木エンジニア系の職種。小林さんは、やはり東京五輪などによる建設ラッシュの影響を指摘する。その上で「現場職のため天候などによる突発的業務が多め。しかも、現場にはいろいろな職種の人間が関わるため、『壁を立て終わらないと塗る作業ができない』など、職種同士の相互依存性が高く、以前から残業は多い傾向にある」と分析する。

同様に多めの傾向となった営業職については、「頑張れば頑張るほど成果が出る」職種の特性もあると分析。加えて、3位の「食品/消費財メーカー(営業)」は「今は小売りのプライベートブランド(PB)の力が強く、メーカー営業も業務が大変なのでは」とみる。

ちなみに本調査は7月、パーソルキャリアが20~59歳の正社員の男女1万5000人に対し、ネットリサーチ会社を通じてWeb上で実施。残業時間について105の職種別にランキング化した。

残業「時間」だけで判断は禁物?
多くのビジネスパーソンが関心を寄せ、苦労の種にもなっている残業時間。ただ、小林さんは「残業時間のランキングだけで、一概にその仕事が楽かどうかは言いにくい」とみる。美容関連職のように「残業」と見なされない時間があったり、手当がちゃんと発生しているのかもまちまちだからだ。

肝心の「残業を減らす方法」については、小林さんは「職種や業界によって残業の“起こり方”は全然違うもの。『残業時間』と1つでくくると決まった正し方があるように見えるが、起こっている現象は会社ごとに違う」と断じる。

例えば、会社全体の平均残業時間は低めでも、一部の部署だけに残業が集中しているケースもあれば、全体的に「帰りにくい雰囲気」があって全社員が残ってしまっている企業もある、という。

加えて、日本企業が残業削減をなかなか果たせない理由として小林さんが重視するのが「キャップを締める型」の働き方改革だという。「残業は〇〇時間まで」と制限を設けるだけの手法だ。

残業減らせない企業が陥る「悪循環」
「キャップを締めるだけだと、残業時間は必ず“はみ出る”。その前に、現場で何が起きているのかをまず見るべき」(小林さん)。人事や経営層による上意下達の働き方改革だけでなく、会社や職場ごとに残業が発生するメカニズムを直視して対策を立てるよう提言する。

会社員の労働環境について調査を重ねてきた小林さんが中でも問題視するのが、「中間管理職が割を食いやすい」実態だ。「職場のメンバー(一般社員)の残業時間が一見減っていても、リソースが足りていないため(残った仕事を)自分で巻き取ってしまう管理職が多い。彼らの労働実態の把握が非常に大事だ」(小林さん)。逆に人事などが残業時間の上限のみを設定して、現場に効率化を強いるだけの「働き方改革」には限界がある、と指摘する。

近年は、時間外労働上限の法規制が大手企業で先行して施行されている。既に働き方改革に長く取り組み、成果を挙げている大企業も出てきた。一方で中小ではまだまだ「残業頼み」の職場も少なくない。

小林さんは「時間削減のみを追いかけず、働き方改革で生産性向上を果たした大企業と、そのレベルまでいけていない中小との間で二極化が進んでいる。売り手市場の中で、働き方改革が進まない企業はさらに人手が足りなくなり、残業を増やさざるを得ない悪循環に陥る危険すらある」とみる。残業削減は従業員のためだけでなく、企業の生き残りをかけたテーマである。