(写真はイメージ)
(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)
今年(2019年)の8月28日の「しんぶん赤旗」に、なかなか衝撃的な一文が掲載された。「『しんぶん赤旗』と党の財政を守るために」と題する岩井鐵也財務・業務委員会責任者の訴えである。次のように始まっている。
「いま、全党は、志位和夫委員長の日本共産党創立97周年記念講演『共闘の4年間と野党連合政権への道』での解明を力に、『日本共産党の躍進こそ、野党連合政権への最大の力』『共闘の力を強め、日本を救うためにも、日本共産党を強く大きく』と決意を固め、党の自力強化への奮闘が広がりつつあります」
「日本共産党の躍進こそ、野党連合政権への最大の力」とは、ずいぶん大きく出たものだが、もちろんそれが証明されたことはない。「党の自力強化への奮闘が広がりつつあります」というのも、共産党では何十回、何百回と繰り返されてきた虚勢を張るときのセリフである。「いま全党は党大会決定を力に、意気高く前進を始めています」とか、「党幹部の訴えに感動した党員が、広範な国民への入党呼びかけ、『しんぶん赤旗』の購読を呼びかける活動に参加し始めています」などという景気づけの文章が発表されるというのが、共産党の常套手段なのである。
この景気づけの文章と共に、「党勢拡大月間」とか「機関紙拡大運動」などが提起されるのだ。この種の文章だけ見ていると、共産党が日々党の勢力を伸ばしているかのような錯覚を受ける程である。
だが実態はと言えば、ほとんど成功したことがないのだ。志位氏自身が1970年代中頃以降は、「○○月間」「○○大運動」が提起しても一度も成功したことがないこと、ほぼ半世紀近く成功していないということを率直に認めている。党員の数は減り続け、機関紙である「しんぶん赤旗」も減り続けてきたのである。
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岩井氏の訴えに戻ろう。
「率直にお伝えしなければならないことがあります。それは、『しんぶん赤旗』は、安倍政権に立ち向かい、日韓問題はじめ国際政治の真実を明らかにし、憲法と暮らしを守るとともに、市民と野党の共闘を発展させ野党連合政権への道を切り開いていくうえでかけがえのない役割を発揮していますが、その日刊紙・日曜版の読者が8月1日の申請で100万を割るという重大な事態に直面し、この後退が『しんぶん赤旗』発行の危機をまねいていることです。そして、『しんぶん赤旗』の事業は党の財政収入の9割をしめるという決定的な役割を担っています。『しんぶん赤旗』の危機は、党財政の困難の増大そのものです」
わずか1年半前の2017年1月に行われた第27回党大会で志位氏は、「しんぶん赤旗」の部数を113万部と報告していたので13万部以上減ったと言うことである。
新聞の発行部数というのは、共産党だけではなく、どこの新聞社も正直には発表していないはずだ。共産党もかつては350万部と言っていたこともある。ちょうど手元に1994年に行われた第20回党大会の報告があるが、そこでは読者数が250万人を超えたと述べている。350万部も250万部も大雑把な数字ではあるが、少なくとも現在の2倍以上、あるいは3倍以上の読者を有していたことは間違いなかろう。
それが100万部を割ったということを正直に明らかにしたというのは、共産党としては画期的なことである。もはやなりふり構っていられないということだろう。
岩井氏も正直に述べているように、共産党の活動を財政面で支えてきたのは「しんぶん赤旗」の購読料である。発表されている政治資金収支報告で一番新しいものは2017年分である。これによると党費収入は6億2841万円(収入に占める比率は3%)、寄付が8億3732万円(同3.9%)なのに対して、機関紙誌・書籍等事業収入は、179億8771万円(同84.6%)となっている。月刊誌や幹部の書籍も含まれているが、圧倒的に「しんぶん赤旗」である。その機関紙が減り続けているというのは、共産党が財政面で大きな危機に直面しているということだ。
岩井氏の訴えの一番の趣旨は、だから党員は頑張って新聞を増やせということなのだ。岩井氏はこう言う。
「『しんぶん赤旗』の現状打開は急務です。参院選のたたかいは党勢拡大の新たな条件と可能性をつくりだしています。それは、ともに選挙戦をたたかった方々の入党や、『しんぶん赤旗』購読の報告が、各地から次々寄せられていることからも明らかだと思います。この8月、党員拡大を根幹としつつ、党の財政の困難をなんとしても打開するために、読者拡大で必ず前進をかちとり、党勢拡大の連続的な前進・飛躍へと転じる契機にするための奮闘を心から訴えます。
全党の力で『しんぶん赤旗』と党の財政を守ってください。お願いします」
またいつもの調子なのである。「党勢拡大の新たな条件と可能性」などどこにもないからこそ減り続けているのだ。「『しんぶん赤旗』購読の報告が、各地から次々寄せられている」なら、どうして減るのか。いつまでこんなデタラメを言っているつもりなのか。無責任の極みと言うしかあるまい。
100万部を割った「しんぶん赤旗」の内訳は、毎日発行の日刊紙が20万弱、週1回発行の日曜版が約80万部くらいだそうだ。相当前からそうなのだが、日刊紙は赤字なのだ。当然である。全国紙なのに20万部程度では、どうあがいても黒字にはならない。その赤字分を日曜版の黒字で補ってきていたのだ。党員が約28万人と言われているので、3分の1の党員が日刊紙を読んでいないということである。私が入党した半世紀前には、日刊紙を読まない党員など皆無だった。それだけで党員の資格がないと見なされたものだ。
今から8年前のことになるが、「『しんぶん赤旗』日刊紙発行の危機打開のために――全党の同志のみなさんに訴えます」という文書が日本共産党中央委員会名で出されたことがある。そこには次のように書かれていた。
「日刊紙の読者数は、この10年余の間に36万人から、24万人余に後退しています。『しんぶん赤旗』は(中略)読者からの購読料が収入の中心です。読者数の後退は収入の減少に直結します」
「日刊紙をすべての党員が購読することです。一人ひとりの党員の日刊紙未購読の状況にはそれぞれの事情があると思いますが、日々の『しんぶん赤旗』を読み、日本共産党員として誇りと確信をもって生き、活動するためにも、ぜひ、みなさんが日刊紙を購読することを訴えます」
だが、この訴えが実ることはなかった。
新聞読者数の減少は、一般紙も同じことだ。私宅の真向かいに若夫婦が住んでいるが、新聞は取っていない。私は集合住宅に住んでおり、定期的に古新聞回収業者が回ってきて、ゴミ袋、トイレットペーパー、ポケットティッシュなどと交換してくれる。1階の階段脇に降ろしておくだけで大丈夫なので重宝している。一度、どのぐらい出ているか見回ってみたが、ほとんど出ていない階段もあった。いかに新聞が読まれていないかがよく分かった。
今やニュースはスマホやパソコンでいくらでも見ることが可能な時代である。別に共産党の前途を心配しているわけではないが、赤字垂れ流しの日刊紙の廃止も真剣に検討すべき状況になってきたということだろう。共産党はすでに「しんぶん赤旗」の電子版を発行している。いずれ日刊紙は、電子版だけに切替える──。岩井氏の訴えは、おそらくそのことを見通してのものではないか。
筆者:筆坂 秀世