堀江貴文がミュージカル『クリスマスキャロル』で仕掛ける「新時代の舞台ビジネス」

ホリエモンこと堀江貴文が「演劇界の常識破り」に挑戦している。12月11日から15日まで東京キネマ倶楽部で、 12月24日から25日まで大阪市の味園ユニバースで計6日間、英国の作家チャールズ・ディケンズ原作のミュージカル『クリスマスキャロル』を公演する(昼と夜の2部構成)。

堀江が同公演に取り組む理由、堀江が考えるAI(人工知能)時代の仕事の在り方や働き方についての考えは「僕の足を引っ張らない社会を作る――ホリエモンが演劇をアップデートする理由」として2018年にレポートした通りだ。

今回は12月10日に実施された関係者向けの「ゲネプロ公演」を取材した。公演実施に際して、堀江が演劇を取り巻く状況をどのように捉え、今回の再演に際してどんな対策をしてきたのかをビジネス的な観点からインタビューした。

保守的な業界への革新
「既存の演劇界はとても保守的だと思います。演劇というものが一般の人にとってすごくハードルが高い状態なんですよ。僕は大学時代に演劇を見るゼミに入っていたので、実は観劇歴がかなり長いんです。でも普通の人が突然、演劇を見に行ってエンタメとして楽しめるかというと、どうしても小難しく感じられる部分が出てきてしまいます。

だから僕は、演劇を普段は見ないような人たちをいかに連れて来られるかが重要だと考えています。サッカーやラグビーなどスポーツでもそうですが、『にわか』と呼ばれる人たちを大事にしなきゃいけないんですよ。そういう人たちに刺さるような新しい取り組みをしていきたい。演劇のマーケットにはまだまだポテンシャルがある」

記者が堀江に『クリスマスキャロル』再演の狙いを尋ねるとこんな答えが返ってきた。同公演の大きな特徴は「観客が公演中に飲食ができる」というスタイルにある。これは以前の記事「僕の足を引っ張らない社会を作る――ホリエモンが演劇をアップデートする理由」でも触れた通り、歌舞伎の文化を踏襲した観劇方法であり、演劇のことをよく知らない人が来場しても気楽に、そして自由にミュージカルを楽しめるようにする仕掛けなのだ。

観劇しながらディナー席に出される食事は東京都文京区のイタリアン、インボスコの渡部敏毅シェフによるもので、良質な和牛が使われている。劇の進行に合わせて最適なタイミングで食事が配膳されるように工夫が懲らされていた。堀江は、飲食と劇が一体となった新しいミュージカル体験を創出しているのだ。

「ものすごく商業的だと思われるかもしれないけど、いいじゃないですか。じゃあ芸術的な部分が一切ないかというとそんなことはない。クリスマスキャロルはとてもいい脚本なんです。間口を広げることで、この物語を知らない人にも知ってもらえます」

同公演は堀江が演じる主人公・スクルージがお金に執着した偏屈な生き方を見つめ直し、”素直な自分に回帰する”ことをテーマにした作品だ。「IT企業の経営者として未曾有の成功を収めたものの、 社内では『お金が全ての守銭奴』と恐れられ、 クリスマスに対し憎しみとも取れるような感情を持っている」という設定になっていて、「人間ホリエモン」を体現するようなストーリーになっている。「プロ野球の球団を買収しようと思ったこともあったなあ。大人の都合でやめたけどな」といったせりふなど、堀江ならではの笑いを誘う場面も多々あった。

堀江は公演を実施するに当たって、吉本新喜劇や2.5次元ミュージカルのように、舞台にそれほど詳しくない普通の人でも純粋にエンタメとして楽しめるものを目指したいと語った。

「商業的に成功しないと続けられない」 堀江のプロデューサー観
再演に当たって最大の課題は集客だろう。堀江は「僕は経営者。経営者は事業を赤字にしちゃいけない」と語気を強める。

「死んでも黒字にする。僕は集客のために『タダで良いから来てください』と知人を呼ぶようなことは基本的にやりません。そこはプロデューサーであり経営者ですから。商業的に成功している演出家には必ずいいプロデューサーがついていると思う。裏方としてしっかりビジネス面を見ている人がいる。だから僕自身、ありとあらゆることをやりました」

クリスマスキャロルは、総動員可能数2400席で、食事なしの安価な席でも7000円(以下、税込み)だ。それにアリーナ席と2階テーブル席が4万円、展望ビューシートが5万円、VIP席は15万円。15万円というと非常に高額なので苦戦しそうな印象も受けるが、堀江は「それは違う。むしろそこにニーズがある。高い席から売れていくんです」と否定した。

「まだまだこの国にはいろんな種類の富裕層の人がいて、どうやってお金を使えば分からないという人も多い。僕はそういう人たちに演劇ってこんなに面白いんだよ。僕たちを支援してくれたら演劇界の若手が育ちますよ、ということを伝えたいんです」

役者をやっていてもその多くは生活の糧を得ることができずに苦労を強いられている。堀江はそんな演劇界の収益システムの現状に一石を投じたいと考えている。では今回の再演では具体的にどんな対策を取ったのか。1点目は意外にもDM(ダイレクトメール)による知人への声掛けという非常にアナログな手法だ。経営者にとって大事なのは「しつこさ」だという。集客などに際して、自身ではなかなかこうした行動を取らなくなる経営者も多いというが、堀江はその姿勢を否定する。泥臭い営業努力が実を結ぶのだという。

「LINEやFacebookで友達に連絡したり、キャストの人たちにも(知人に)声掛けをしてもらったり、手は尽くしました。地道なことをやっていない人が実は結構多い」

また、チケットの販売方法も工夫したという。法人や大口顧客向けに「堀江貴文を講演会に呼ぶ権利」を付けたアリーナ席60席の「まとめ買いチケット」を264万円で販売している。「去年は赤字だったけど今年は違う」と胸を張った。

堀江のミュージカルは観客の男女比が7:3。女性が9割といわれる芝居の世界では珍しいのだという。この男性比率の高さを生かして湘南美容クリニック(本院・東京都新宿区)の協賛を得た。既存顧客の大半が女性で「男性向けに新しい市場を開拓したい」という同社とのニーズが一致したのだ。

「花より団子」 ご飯を食べながら忘年会気分で
「花より団子」という言葉もあるが、ミュージカルの演出に劣らず、観客を魅了する飲食の仕掛けが多々あった。堀江の食へのこだわりを感じさせる。観賞中にはアルコールの飲み放題付きの「スペシャル和牛フルコース」が用意された。今回の工夫は2点あるという。「前回は英国式の料理に寄せていたが、ワクワク感が足りなかった。今回は和牛の『ミニ牛丼』を入れています。牛丼って、すごくそそるじゃないですか」

もう1点は料理が冷めないようにするための工夫だ。18年の公演での反省を踏まえて工夫したという。季節柄、料理は冷めてしまいやすい。調理設備を会場に設置できない中で100人以上に料理を提供しなければならない。

「例えばスープは魔法瓶から直接入れるようにするなど温かいままで提供できるようにしました」

先述した通り豪華料理付きのチケットは4万円からで、15万円の「VIP席」では堀江が休憩中と終演後に同席して歓談ができる。今回は、休憩中の幕間を15分程、昨年より延長し、40分間ほど取っていた。幕間の時間を延ばすことで、よりコミュニケーションの時間が取れ、「忘年会」的な演出ができる。それが顧客満足につながるのだという。

富裕層をターゲットにした高額チケットには伏線もある。堀江がかねて携わっている和牛を広める事業の「WAGYUMAFIA」では、3万5000円の神戸牛カツサンドなどを展開している。堀江は「(そういう取り組みとも)連携が取れている」と答えた。従来はなかったような富裕層のターゲットを創出することで収益化につなげている。

また幕間の時間に「キャスト応援チップセット」を販売し、チップ3枚(1500円分)で一部のキャストとチェキ撮影ができるシステムを導入した。「AKBでいう『握手券』的な位置付けです。キャストが直接サービスをすることによってインセンティブになる」。また、チップ1枚で「おてやすみ」というハンドマッサージも受けられる。

興味深かったのは、耳が聞こえにくい人でも字幕で演劇を見ることができる「字幕グラス」が用意されていたことだ。飲食など楽しめる要素を作ることによって間口を広げつつも、少数の人にきちんと配慮する堀江のセンスを感じた。また今回初となる12月24日、25日の大阪公演では、バーレスク東京(東京・六本木)のダンサーを起用するなどしてダンサーの数を増やしエンターテインメント性をさらに高めたいという。

以上が堀江のクリスマスキャロルへの取り組みだ。演劇と飲食を一体化させた斬新な発想の背後には、DMによる声掛けなど一見すると地味で泥臭い営業活動があった。

演劇界を巡る現状は厳しい。19年6月には上川隆也が所属していた劇団「演劇集団キャラメルボックス」の運営会社が破産開始決定を受けるなど(関連記事を参照)、観客動員数の伸び悩みから業界全体で苦戦を強いられているのが実情だ。だが、堀江は独自の取り組みを発想し、実行することによって、従来とは異なる演劇のポテンシャルを提示し開拓しようとしている。

国内市場が縮小していく業界もある中、苦戦を強いられている経営者も少なくない。だが、従来のやり方や視点を変えることによって潜在的な可能性を引き出そうとする堀江のまなざしは、将来へのヒントになるはずだ。(敬称略、文:今野大一)