山口組、高山若頭の「日本統一」作戦とは 「通夜欠席」山健組組長は”造反”か

11月30日、尼崎市の福祉施設で行なわれた「三代目古川組」の古川恵一総裁(59)の通夜には2015年8月に「六代目山口組」から離脱した「神戸山口組」の井上邦雄組長ら20人を超える幹部らが参列。しかし、そこに井上氏の最側近とされた山健組の中田浩司組長の姿がなかった――。
山口組ナンバー2の高山清司若頭(72)の出所から2カ月弱。3つに割れた山口組を取り巻く環境は風雲急を告げている。
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阪神尼崎駅から程近いアーケード商店街に銃声が鳴り響いたのは11月27日午後5時頃のことだった。
「古川氏は息子が経営する居酒屋の前で撃たれ、現場からは空薬莢が15発、不発弾が13発みつかっています。犯行に使われた自動小銃は模造銃の疑いもある粗悪品でしたが、全身に撃ち込まれた弾はいずれも身体を貫通しており、即死状態でした」(社会部記者)
古川氏は今年3月と7月にもバットや傘で襲撃されており、当初から“標的”にされていたとみられる。
古川氏を知る暴力団関係者が明かす。
「山口組分裂時、古川氏は収監中だった高山氏に代わって組織の引き締めに動いていた竹内照明若頭補佐から“激励”の訪問を受け、カネを受け取った直後に、神戸山口組に寝返ったとされています。その後は求心力が低下し、17年4月に神戸山口組からの離脱組が『任侠山口組』を設立すると、傘下の組員の多くが移籍しています。最近では特殊詐欺事件で逮捕された息子の店を自ら切り盛りし、買い出しから調理までこなしていました。年内には引退の意向で、危機感を感じている様子はなかった」
警察の意図を巧みに利用
凶行に及んだ朝比奈久徳容疑者(52)は元山口組系竹中組幹部で、昨年12月に覚せい剤絡みで破門処分を受けていたという。
「今年8月に覚せい剤取締法違反の罪で起訴され、保釈中でした。下見がてら数回古川氏の店を訪れ、『私もヤクザでした』などと語って一緒に飲みに行ったこともあったようです。逮捕後、彼は『一人でやった』と供述していますが、周囲には『極道としての死に方を全うしたい』などと漏らしている。偽装破門の疑いが濃厚です」(前出・社会部記者)
山口組関係者が語る。
「武闘派として鳴らした竹中組は分裂後に“名跡復活”として再興された組織です。ただ、3年前に姫路市内にある“武器庫”が摘発を受け、拳銃や散弾銃などが押収されたり、一年前には情報管理の問題で執行部から責められたと言われている。追い詰められるなか、10月18日に高山氏が出所。高山氏からも厳しい言葉を浴びせられ、もはや選択の余地はなかったのだろう」
高山氏は「ワシがおるところが本家だ」と豪語
古川氏襲撃に先立つ11月18日には福岡にある山口組二次団体「二代目伊豆組」系組員が、熊本の神戸山口組系組織の会長を切り付け、翌日には北海道でも三次団体「福島連合」系組員が神戸山口組系組織の会長宅に車で突っ込む事件を起こしている。いずれも団体のトップが高山氏から“激励”を受けた後の犯行だったとされる。
「当初警察側は高山氏が“懲役ボケ”であるかのような情報をしきりに流し、山口組を再統一するには抗争も辞さないとする高山氏と抗争を避けたい司忍組長(77)ら現幹部との“温度差”を煽り立てていました。高山氏はその意図を巧みに利用して組織の締め付けを図っていったのです。出所当日は首にコルセットを巻き、体調が悪いかの様に装っていましたが、実はあれはブカブカでコルセットの体を成していない。いわばカモフラージュのようなものです」(同前)
三つ巴による抗争で神戸にある山口組総本部などの事務所が使用制限を受ける逆風のなか、高山氏は放免祝いの席で「ワシがおるところが本家だ」と豪語、復活の狼煙を上げたという。
「プラチナと呼ばれる本家直参が集まる定例会を中止し、当番という名の名古屋詣でを強制。しかも、運転手やお付きの待機を禁じ、単身で指定場所に入るよう指示しています。表向きは警察対策で、情報漏洩を防ぎ、集合場所を特定されないためとされますが、そこで直参の親分の自由を奪い、あれこれ仕事を言いつけるのです。高山氏は好んで“馴致(じゅんち)”という競馬用語を使うようですが、飼い慣らして忠誠を誓わせることが目的です」(警察関係者)
高山氏は組織内の統廃合にも着手。11月13日付で解散した二次団体「極心連合会」を巡る動きは、内外に驚きを持って受け止められた。
「極心連合の橋本弘文会長と言えば、島田紳助の引退の引き金になった大物ですが、もともとは神戸山口組の中核組織である山健組の出身。分裂後は二つの組織の間で“板挟み”となり、厳しい立場に追い込まれていました。11月上旬、高山氏は極心連合の若頭から直参に昇格した『極粋会』の山下昇会長を連れて橋本氏の元を訪れ、『お前の引退を認める代わりに山下に跡を継がせろ』と迫った。橋本氏は最後の意地をみせて、これを拒否。『それなら組を解散させる』と開き直り、引退の道を選んだのです」(前出・山口組関係者)
高山氏は粛清と並行して出身母体である弘道会の人事を刷新、自らの組織作りの方向性を示してもいる。
「注目は若頭の交代です。実は高山氏の放免祝いは弘道会の前若頭、中野寿城組長の事務所で行なわれる予定で準備を進めていたのですが、直前に中野氏が岐阜刑務所で山健組の中田氏と兄弟分になっていたことが問題視され、急遽別の場所に変更になった経緯があります。新たに若頭に就いた『野内組』の野内正博組長は資金力が豊富で、弘道会の切り込み隊長として名前が轟いている存在。岐阜を拠点にしていますが、今では古川氏亡き後の尼崎を席巻しているとも言われます。この人事をみる限り、時計の針が、高山氏が恐怖政治を敷いていた5年前に戻ったと感じざるを得ない」(前出・警察関係者)
獄中で描いた“高山王朝”構想
戦闘モードにギアを入れる一方、高山氏は11月中旬に東京を訪れ、住吉会など他団体との友好関係を積極的に深めてもいる。
「高山氏は獄中で出所後の“青写真”をノート数十冊に書き留めていたそうですが、その骨格になっているのは組織犯罪処罰法の適用から逃れ、民事の使用者責任もかわす新たな組織像。山口組にホールディングス制を取り入れて名古屋山口組、畿内山口組などとし、朝廷の官名をまねた“東百官”に倣って官位を授ける“高山王朝”とでもいうべき構想もその一つです。最近は極道社会を描いたVシネマ『日本統一』シリーズを好み、天下取りの策を巡らせているようだ」(同前)
目下、山口組統一の鍵を握るとみられるのが、冒頭の山健組、中田氏の動きだ。
「今年8月に弘道会系組員が銃撃された事件後、井上氏と中田氏の関係は修復不能なレベルまで悪化したとされています。報復を巡る見解の相違が根底にあるとみられますが、12月13日のヤクザ社会の新年行事にあたる“事始め”までに中田氏が組織を割って出る観測すら出ています。高山氏がこの造反の動きをどう捉えているかが、一つの試金石になるとみられています」(前出・山口組関係者)
抗争か和戦か。運命の期限は刻々と近付いている。
※本記事校了後の12月3日、兵庫県警は中田浩司容疑者を殺人未遂と銃刀法違反の疑いで逮捕した。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2019年12月12日号)