秋の味覚の王様マツタケが天候不順で記録的な不作となった。長野県信州の木活用課によると、収穫期の9月は残暑、10月は少雨の影響を受け、県内の生産量は5・5トン。昨年(42・1トン)の8分の1に激減した。東信(1トン)、中信(0・8トン)と比べると南信(3・7トン)の収穫は多いが、飯田下伊那地域は不作で、ふるさと納税の返礼品の主力に据える同県豊丘村ではマツタケを初めて1本も送ることができなかった。【大澤孝二】
豊丘村の担当者によると、同村は平年で4~5トンを生産する「マツタケ王国」で、昨年は9トンと大豊作だった。豊丘産のマツタケは香りや風味が強く、サイズも大きいのが特長で、中には30センチまで成長するものもある。
同村は2008年のふるさと納税制度開始からマツタケを返礼品として採用。10万円の寄付に対し、マツタケ約300~400グラム(8本程度、1万8000円相当)と果樹など4品(1万2000円相当)を「マツタケセット」としてそろえ、毎年1000口を募集している。募集開始と同時に申し込みが殺到し5分で品切れという状況が続いていた。
しかし、今年は昨年から96%減の350キロしか取れなかった。内容も、傘が開き切ったものや虫食いがあり、村総務課は「とても返礼品として提供できない」と判断。1000口の寄付者には書面やメールで「今年のマツタケは贈ることができない」と陳謝した。
しかも、来年の収穫を今年応募した1000口分に回すため、今年11月と来年2月の各500口の募集は断念し、村は1億円の減収を余儀なくされた。しかし村総務課は、この非常事態にも「動揺したり悲観はしない」と自信を持っている。
その理由を、同課の長谷川雅さん(41)は「マツタケ以外の果樹や農産品のファンが増えた。一方の私たちも、寄付者の声に即応した返礼品の変更や改善のスピード、寄付者の都合に合わせた発送手配などを職員が直接丁寧に行うよう心掛けている」と説明する。
県内の各自治体はふるさと納税の受け付けや返礼品送付を「さとふる」「ふるさとチョイス」など代行業者に委託することが多く、同村もふるさとチョイスを利用しているが、全てを業者任せにせず、総務課の長谷川さんら3人が、寄付金の処理から返礼品の発送伝票作成、クレーム処理までを担っている。返礼品は旬の時期などを「寄付者目線」でJAや飯伊森林組合と綿密に打ち合わせ。毎年6月には全寄付者向けに、納められた寄付の使途や実施した事業を書面で必ず説明する。
長谷川さんは「寄付金のクレジット決済を14年にいち早く開始するなど利便性を重視し、寄付者の問い合わせには10分以内の対応を徹底した」と胸を張る。返礼品送付は寄付者が在宅する日を選ぶことを心掛けるなど信頼関係を構築。村のふるさと納税の固定ファンを地道に増やし「メールや電話で交流を深めると、寄付者の好みや個性も分かってくる」ほど。今年のマツタケの不作にも、逆に「自然相手だから気にしていません。来年に期待しています」と激励され、クレームや返金の要求は皆無という。
畑の作物と異なり計画的に生産できないマツタケを返礼品にするのはリスクを伴う。しかし、丁寧で素早い対応が寄付者との信頼関係を深め、一度の不作でファンは減らない。行政サービス改善のヒントがそこにある。