東京のベッドタウンや都心部でイノシシの出没が相次いでいる。農産物を荒らすだけでなく、豚コレラの感染源となる例もあり、畜産業への影響も深刻だ。さらに住宅地などでの「猪突(ちょとつ)猛進」に遭遇した人が大けがを負う事故も後を絶たない。
野生のイノシシは今月初めに東京都足立区から埼玉県富士見市などに出現したが、15日にもJR中央線国立駅前から立川市周辺で疾走する姿の目撃情報が相次いだ。
イノシシの目撃が相次いでいる背景について、動物行動学者の新宅広二氏は、「台風15号や19号の影響で北関東の生息地が荒れたことで川沿いに下ってきた可能性がある。通常は人の少ない地域で収穫時期の農作物を狙うことが多いが、つい道路に出てしまい警笛を鳴らされたりすると、パニックで方向感覚を失い、どんどん人里の方に出てしまうこともある」と解説する。
タレントのダレノガレ明美(29)が《食べるものがないから街に行くしかないのよね。(中略)危ないけれどもイノシシを殺さないでほしいな》とツイートしたところ、物議を醸す一幕もあった。
群馬県などでは野生のイノシシ十数匹から豚コレラ(CSF)のウイルスが検出されており、イノシシがウイルスを媒介したことで養豚の盛んな関東地方にも豚コレラの感染が拡大した可能性も指摘されている。
農林水産省の2018年度の「全国の野生鳥獣による農作物被害状況」の統計では、イノシシによる被害面積は5900ヘクタール、被害額は47億3300万円にのぼり、シカに次いで多い。
人への被害も怖い。今年11月には、神戸市北区の山中で73歳男性がイノシシにかまれて左指を骨折したほか、尻を複数回刺されるなどして重傷を負った。直後に約700メートル先の植物園で87歳男性が左手をかまれ全治2週間のけがを負った。
「2メートルの塀も登ることができるので、人間の生活圏に障害になるものはない」と新宅氏。「突進時は瞬間で時速約40~50キロ出て、乗用車が迫ってくるような恐怖感がある。ライオンと同程度の10センチ以上の犬歯を持ち、猟犬でも殺されることがある。相手の急所をよく知っていて、人間を襲う際には股の動脈付近を狙うこともある」というから恐ろしい。
駆除や捕獲をするのもひと苦労だ。「散弾銃を使う場合、散弾ではなくスラッグ弾(1発弾)を至近距離で撃たないとイノシシは即死しない。ただ、住宅街などに動きが速い動物がいると、獣害駆除であっても撃つ方角や弾丸の数が制限されるのでハンターも思うように撃つことはできない」と新宅氏は語る。
イノシシに出くわした場合、どうすればいいのか。「突進時にワンタッチ傘を広げるとひるむともいわれているが、建物や車中などに逃げるべきだ。離れた場所からスマホで撮影している人もいるが、方向転換して突進してくることもあるので危険だ」と新宅氏。くれぐれも野次馬根性を見せないほうがいい。