いつの時代も、「天才」ほど人の心を掻き立て、虜にするものはない。財界、学界、スポーツ界、芸能界のなかで、一体誰が「本物」か。発売中の『週刊現代』ではオールジャンルの異種格闘技戦で、真の天才について特集している。
「僕の中での天才No.1は桑田佳祐さんです。非常に長期にわたって老若男女、国民全体に大きな影響を与え続けている。世代を超越した存在だと思います」(元日本マイクロソフト社長・成毛眞氏)
「97歳の今も書きまくっている瀬戸内寂聴さんも天才でしょう。彼女がなぜ直木賞を取れていないのか、まったくわからない」(ジャーナリスト・田原総一朗氏)
いまの日本には経済界、学界、スポーツ界、芸能界など、様々な分野で「天才」と呼ばれる人が多くいる。だが、この「天才」という言葉ほど、定義が曖昧で、人によってイメージがバラバラなものはない。
ジャンルを超えて比較することがないため、その人が本当に天才なのか、確かめる術がないのだ。
そこで、本誌は各界の有識者16名に集まってもらった。すべての分野を超えて「誰が一番天才か」を決める、その名の通り「第1回 誰が天才か会議」を開催したのだ。もちろん、本邦初の試みである。
今回の会議では、有識者の意見を基に、天才の定義を「頭の回転が速く(地頭力)、質の高い努力を長期間にわたって続けることができ(努力力)、時代のニーズや空気を感じ取ることができて(感知力)、ひらめいたことを形にしたり、周囲を巻き込むことができる(実行力)人間」とした。
有識者には、この4つの尺度に対し、それぞれのポイントで評価をつけてもらい、総合ランキングを決めた。それでは、「天才会議」の一部始終をご覧いただこう。
まず名前が挙がったのが、スポーツ界の天才の代名詞、イチローだ。’19年3月に現役引退するまで、「日米通算4367安打」などの数々の不倒の記録を打ち立てたのはご存じの通りだ。
「イチローは『努力力』という点で最高ランクだと思います。彼がすごいのは、『完成などない』と考えていることです。
相手選手も変わるし、自分自身の身体も変化していく。そのなかで最大のパフォーマンスを発揮するために、毎シーズン、自分のバッティングフォームを変えていた。
ですが、彼自身は努力しているという感覚はないでしょう。とにかく野球が好きで、いつも上手くなりたいと願っていただけなのだと思います」(ジャーナリスト・大西康之氏)
スポーツジャーナリストの二宮清純氏が語る。
「’19年12月にイチローが草野球の試合に出たことがニュースになりましたが、その様子が本当に楽しそうでした。天才は『根っから、そのことが好き』という感情を持っていると思います。
イチローはいま46歳ですが、小学生の頃と同じ感情のまま、いまも野球をやっているのではないでしょうか」
この努力力に加え、イチローは、地頭力も各有識者から最高レベルの評価を受けた。
しかし、同時に求道者のようなタイプであるために、世間のニーズや周囲を巻き込むことに興味が薄いように見えることから、感知力と実行力が、相対的にかなり低い結果となった。
スポーツ界からは、同じくプロ野球選手の大谷翔平の名前が挙がった。上武大学ビジネス情報学部教授で、経済学者の田中秀臣氏はこう評価する。
「彼は身体能力ばかりが注目されがちですが、二刀流ということで、当然、練習量も多くなりますし、いまケガをしながらも懸命に頑張っている。努力力が高いと思います。
また、彼は高校時代に『曼荼羅チャート』というものを作成し、真ん中に『大リーグで活躍する』という最終目標を書き、その周辺に具体的な課題を書き込み、ひとつひとつクリアしていった。実行力も十分あると考えました」
しかし、大谷は多くの項目で、イチローと比較すると低い評価となった。大西氏はこう指摘する。
「イチローの凄さの一つがケガをほとんどしなかったことです。常に自分の身体と向き合い、コンディションを調整する。
一方、大谷は左ヒザと右ヒジのケガをしてしまっている。ここが本物の天才との差と言えるかもしれません」
学界にも多くの天才と呼ばれる人々がいる。田原氏が「彼は面白い」と名指ししたのが、山中伸弥氏だ。
「山中さんがなぜiPS細胞の研究を始めたかというと、彼がカリフォルニア大学サンフランシスコ校グラッドストーン研究所の研究員だった頃、所長から『研究者はVWだ』と言われた。Vはビジョン、Wはワークハードの頭文字です。
それで、彼は何を研究するか自分でビジョンを持たなくてはと思い、iPS細胞を対象に選んだ。周囲からは笑われたそうです。それでも、彼はそこから10年で研究を成功させてしまった」
この山中氏の先見性、未踏の分野を切り拓いていく能力は「まさに天才」という声が相次いだ。
「iPS細胞の研究は難易度が高く、みんな諦めていたのです。山中さんはそこを切り拓いた。頭が良いだけでなく、社会を変える存在こそが天才なのではないでしょうか」(ノンフィクション作家・山根一眞氏)
このあとも「第1回 誰が一番天才か会議」は白熱。孫正義、柳井正、三谷幸喜、中島みゆき、村上春樹らの名前も挙がった。はたして、トップに選ばれたのは?発売中の『週刊現代』で詳述している。
「週刊現代」2019年12月28日・2020年1月4日号より