売れるに決まっているダイハツ・ロッキーとトヨタ・ライズ

11月5日、ダイハツはAセグメントのコンパクトSUV、「ロッキー」を発売した。

ロッキーは、ダイハツ強靱化(きょうじんか)プログラムであるDNGAの第二弾であり、トヨタへのOEM提供を前提とした戦略モデルである。トヨタでは「ライズ」の名前で販売されるが、中身は全く一緒といっていい。

凝ったメカニズム
さて一瞥(いちべつ)したときから「これは間違いなく売れる」と思ったが、案の定その通りで、正味1カ月に満たない11月の車名別販売記録で、堂々4位の7484台(一般社団法人日本自動車販売協会連合会調べ)。しかも受注だけで見れば、発売後1カ月の12月4日時点でなんと驚きの3万2000台(トヨタ自動車発表)。全盛期のプリウス並みの売れ方である。

まあそんなに売れるのは予想通りトヨタのライズの方で、ダイハツ・ロッキーは16位の4294台(自販協調べ)。とはいいつつも、ライズと合計すれば先のランキング1位のカローラを抜くことになる。

何でそんなに売れるのか? 身も蓋もないことをいってしまえば、カッコと値段だろう。ヒット中のRAV4を縮小したようなクラス感を越えたデザインに、168万円から242万円という価格設定。なんとなく200万円くらいのクルマを……と思う人のツボにはまる値付けになっている。

ダイハツ自身の自己申告によると、サイズはAセグメント。なので、広大なリヤスペースは望むべくもないが、街中で使う分には実用には十分足りるし、ダイハツらしく後席の乗り降りをCピラーが阻害しない実用的な作りに仕上がっている。

さて、今回は珍しく機械構成に少し触れてみたい。というのも4WDと変速機がなかなかに贅沢(ぜいたく)な仕様になっているからだ。アウトラインを述べれば、基本的な構成は3気筒1リッターDOHCインタークーラー付きターボに補助変速機付きCVTを組み合わせ、4WDモデルにはRAV4に採用された電子制御式カップリング「ダイナミックトルクコントロール4WD」が搭載される。

まずはCVTからだ。このCVTはプーリーとベルトからなる主変速機と並列して遊星ギヤの副変速機が組み合わされるところがミソだ。ドリブン側のプーリーのシャフトは遊星ギヤ機構のサンギヤに直結する。このサンギヤと噛(か)み合うプラネタリーギヤを保持するキャリヤは、CVTと並列に置かれた一対の平歯車のドリブン側と共に車輪へと固定される。当然それを回す平歯車はドライブ側(クランク軸側)に直結されている。

分かりにくいだろうが、遊星ギヤを利用した機構なので構成は3要素ある。エンジンから入力されるドライブ側のシャフトにドライブプーリーとドライブ平歯車が、タイヤに動力を出力するドリブン側のシャフトにはドリブンプーリーとサンギヤが組み込まれ、その間にカウンターシャフトに組み付けられた平歯車とプラネタリーキャリアが挟まれて、ドライブ/ドリブン間の変速比を変える構造だ。

平歯車の変速比を司るサンギヤの制御因子はドリブンプーリー。つまり平歯車だけで動力を伝達したい時はCVTでドリブンプーリーの回転を落とし、サンギヤの回転速度を落とすことで、プラネタリーギヤキャリアの回転(つまりタイヤの回転)を加速することができる。また低速域はCVTに任せるために、平歯車の噛み合いを解除して使う。これについては「D-CVT」で検索すると作動原理を説明する動画がいくつもあるので興味のある方は探してみるといい。

機構の狙いは、高速巡航時のエンジン回転数の低減と、CVTの伝達効率の改善だ。CVTは2つのプーリーが隣接する関係で径の拡大に限界がある。だから最小ギヤ比と最大ギヤ比の比率(レシオカバレージ)が大きくできないのが構造的問題だった。そこに遊星ギヤを使うことでレシオカバレッジを拡大できる。

もう1つは、プーリーの巻き掛け径が小さい領域、つまりV字になった谷の底の方を使うときは、ベルトの曲がりがキツくなって効率が落ち、耐久性面でもマイナスだ。こういうシチュエーションでトルクを平歯車側に流してやることで、プーリーがベルトを挟み込む油圧を下げ、効率を上げることができる。

つまり低速域の加速時はレシオが自由に変えられるCVTのうま味を使い、高速時などには機構が単純で損失が少ない平歯車を使う。その間に自動的に両経路を併用して、最も効率良くトルクを伝える領域があるという寸法だ。この機構を考えた人はちょっと天才かもしれない。

さて、4WDは前後のデフの間に置かれるセンターデフを電制多板クラッチを用いて制御してやる方式で、リヤへのトルク伝達を0から50%まで可変制御できる。

ボディデザインのみならず、機構的にもSUVらしい凝ったシステムが使われているといえる。リヤサスはこのクラスで標準的なトーションビームアクスルなので、いわゆるクロカン4WDと同じことができるわけではないが、このクラスのシステムとしてはかなり走破性が高いはずである。

人がきちんと乗れて、荷物が積めて、車両感覚がつかみやすい。その上でSUVとして興味深いシステムを搭載している。商品性の高さに疑いの余地はない。

正しいポジション
さて、クルマに乗り込んでみる。DNGA第2弾であるこのロッキー/ライズにおいて、最も危惧していたのはペダルオフセットだ。すでに、ダイハツは軽自動車からBセグメントまで基本的に同じ設計を用いると発表している。こうしたケースではスケーラブルに、つまり拡大/縮小ができる可変代を取り、固定して動かさない部分と変化させる部分をあらかじめ織り込んで設計するものだ。

そして一般的にはバリエーションシャシーはフロントのバルクヘッド(エンジンルーム隔壁)を共有するケースが多い。人体でいえばここは骨盤のようなもので、これにさまざまな、例えばフロアとかエンジンルームとかピラーなどが建て込まれてシャシーが完成する。だからバルクヘッドは本来可変にしにくい部分だ。

もしバルクヘッドが軽自動車からBセグメントまで全て固定で展開されるとしたら、DNGAの全車種が軽自動車並みのオフセットを抱えることになる。だからそこが非常に気になっていたのだ。

結果からいえば、筆者の心配は杞憂(きゆう)だった。ステアリングもペダルも、ボディ外寸を考慮する限りは会心の出来といっていいだろう。オフセットを気にする必要はない。

シートも良い。小さいクルマなので室内空間の都合で、シートの前後長は少しだけ足りないが、左右の大腿骨(だいたいこつ)最後部、つまり臀部(でんぶ)の左右方向の支えはほぼ万全。コーナーリング時にインナーマッスルで支えてやらなければならないような情けないシートにはなっていない。

見た目は座面と背もたれの両サイドを、バケットシートのように盛り上げたサイドボルスター依存型に見えるが、実は見た目だけで大して効いていない。効いていないというのは褒め言葉で、それはつまり座面と背もたれという人体に常時当たる部分がちゃんと仕事をしていて、余計なつっかい棒などあまり必要としないという意味だ。その上、過去のダイハツのシートにありがちだった、海老反り型の背もたれではなく、肩が適切にシートバックに当たる。

前後長の不足については、オフセットがないことで合理的になったポジションのおかげであまり気にならない。「当代最良のシート」とまではいわないが、このクラスのコスト制約の中では望外によく出来ている。ちなみに主査の説明によれば、軽自動車用の足下広さがセンターから31センチに対して、ロッキー/ライズは34センチに拡幅されている。バルクヘッドも丁寧にチューニングされているということだ。

新世代CVTの完成度
走り始めてすぐ感じるのは、この種のクルマとしては軽いこと。1リッター3気筒98馬力/14.3kg-mという数値は昨今決してパワフルな部類ではないが、最軽量で970キロ、最重量でも1040キロという軽さのせいで、力不足は感じない。むしろ少しパワートレインが頑張り過ぎなところがある。

それはステアリングとの関連のところで一番ハッキリする。実は今回のロッキー/ライズは、ステアフィールが従来のダイハツと少し違う。スポーティな仕立てにしようとしている。従来、穏やかで誰が乗っても平和な仕立てを旨としてきたダイハツが、スポーツを意識したことでわずかながら齟齬(そご)が出ている。

まずはステアリングコラムの剛性が2019年デビューのクルマとしては少し足りない。微振動が入ってくる。コレに関してはちょっとしたオフサイドトラップに引っかかった感じで、1年前と状況が変わってしまった。デミオとスイフトは半歩先を行っていたが、少なくともヴィッツよりはちゃんとしていたのだ。しかしながらヤリスが著しく改良されて一歩先に進んだことで、気がつけば取り残されてしまった。

ステアリングの切り始めの遅れ感も少しある。これはブッシュコンプライアンスによる遅れで、ここでも置いていかれた。ただし、本来のダイハツの穏やかな仕立てであれば、トータルとして納得できたと思う。そこをスポーティにした結果粗が目立ってしまった。

かつ、前述のパワートレインの頑張り過ぎで、脱出でのアクセルオンでトルクがガツンと伝わる。味が濃すぎる。こういうところではレスポンスが過剰なのだが、レスポンスが消える場面もある。田舎道で遅い軽トラに合わせて速度制御をするような場面、特に「もう50センチ車間を広げて速度をそろえる」とか「もう50センチ詰めて速度をそろえる」という微細な制御をやろうとすると、アクセルのリニアリティが着いてこない。先代までのプリウスのような「踏んでも加速しない」「抜いても減速しない」といういわゆるグライディングの挙動がでる。

つまりある程度以上踏むとガツンとくるし、微妙な操作には反応しないということで、つまりはリニアリティがない。せっかくの新世代CVTなのでこのあたりのセッティングは一考を要したい。トヨタはもうそういうのを止めている。

さてさて、ロッキー/ライズ、いささか重箱の隅を突つき過ぎた感はある。クルマとして素晴らしいかと言われたらいろいろ細かい問題があるのは書いてきた通りだが、一方で買いかといわれればこれは買いだろう。購入を考える際に気になるのはCVTの制御だけだ。それ以外は、最新トレンドとの差分でしかなく、2年もすればまたスタンダードの方が動いてしまうだろう。まあ筆者が「買い」だなどという以前にすでに大ヒットしているわけだが。

(池田直渡)