12月下旬、某所にあるマンションから1人の女性が出てきた。髪は胸辺りで切り揃えられ、黒のロングブーツに茶色のコートに身を包んだ彼女は、透き通った白い肌に健康的な表情を浮かべている。
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彼女は “熱海刃傷事件”で注目を集めた美魔女モデルの岩本和子(43)だ。4カ月前に拘置所で面会したときには頬がこけ、憔悴しきった姿だったが、本来の美しさを取り戻したようだ。記者が「ご無沙汰しています」と声をかけると、戸惑いながらもしっかりとした口調で語り始めた――。
2019年5月18日、岩本は熱海駅で当時交際中だった男性A氏をカッターナイフで切り付けた。事件が起きたのは湯治客が行き交う新幹線の改札だ。新幹線ホームから駆け下りてきたA氏の頬を、うしろから追いかけてきた岩本が切りつけた。目撃した売店の店員は「真っ赤な切り傷からは、骨みたいなものも見えました」と語っている。
事件直前、岩本はSNSに取り乱した様子で《皆さ、あお母さんさようなら どうか〇〇〇〇に極刑を……傘¥み様……かみさmあ》《警察は殺されないと来てくれない》《助けてください 殺されます》《相手 〇〇〇〇 理由 レイプによる妊娠》などと投稿している。なかには《2019年5月13日 16週4日》という直筆のメモとともに、胎児が写ったエコー写真もアップされていた。現役モデルが起こしたサスペンスドラマを彷彿させるこの事件は、連日ワイドショーで取り上げられる騒ぎになった。
岩本容疑者が被害者男性に切りつけた新幹線の改札 文藝春秋
これまで「週刊文春デジタル」では7回にわたってこの事件について報じた。岩本自身にも拘置所での6回の面会と15通の手紙を通して取材を重ねてきた。
事件の発端となったのは2019年5月。岩本はA氏との子どもを妊娠していることを知った。予期せぬ形ではあったが、岩本は取材で「人生で初めての妊娠だったんです。あの時は、女としての幸せに満たされていました」と妊娠した歓びを語っている。
しかしその後、A氏と出産するか否かについて路上で話をしているときに1人の女性が通りかかる。その女性はA氏の妻で、岩本はそこで初めてA氏が既婚者であると知った。岩本は取材にこう答えている。
「私がその女性に『どちらさまですか。お友達ですか』と聞いたら、『いいえ、嫁ですけど!』とおっしゃいました。すると、その瞬間、Aさんはその場から走って逃げ出したのです。その後2人で近くのお店へ移動した。私が妊娠していることを伝えると、奥さんから『私たちに何を要求する気ですか』『お姉さん、堕してくださいね』と言われました」
その後、岩本は堕胎。堕胎しているにも関わらず、A氏に『熱海で堕ろすから同意書を書いてほしい』と嘘をついて熱海駅に呼び出し、カッターナイフを振り上げるに至ったのだ。
これまで、事件当日の足取りや堕胎したことへの悔恨、拘置所での辛い生活について、仔細に語ってきた岩本だが、2019年9月6日に届いた15通目の手紙を最後に連絡が途絶えてしまっていた。
《本日このお手紙は沼津拘置所最後の夜に書いております。まだ今後どうなるかは決まっておりませんので急いでしたためております(中略)今日はちょっと明日移動のため文章がうまく書けず申し訳ございません》(9月4日消印の岩本からの手紙)
手紙が届いた日、静岡新聞は社会面で《静岡地検沼津支部は5日、JR熱海駅で男性を切り付けたとして殺人未遂と銃刀法違反の容疑で送検された大阪市北区の無職女性(43)について、殺人未遂の罪名を傷害に切り替えた上で不起訴処分とした。同支部は「証拠を総合考慮した結果」と説明している》と報じた。心神喪失者等医療観察法に基づいて静岡地裁が不起訴の審判を下したということだった。
拘置所を出所した岩本の消息はしばらく掴めずにいたが、12月8日から岩本和子を名乗る人物の書き込みがSNSにアップされはじめた。
《その後どうなったかどこにも知らされておりませんので書いておきますね 私は不起訴で特に何事もありませんでした。充分すぎるほどの禊も終えました。今はもう、心が傷ついているなどございませんしとても元気に暮らしております。けどまあ今後はもうこの件には特に触れずにおこうと思います (写真は)納豆ふりかけだよー》(12月8日岩本和子のフェイスブックより)
《親孝行、語学、家事能力全般のスキルアップ、仕事というかお金儲け、ダイエット(笑)・・・やるべきことが沢山あります。あやうく意味の分からない人生に突入するとこでしたので、これからは慎重に、丁寧に、なにごとも素晴らしく、過ごして参りたいと思っております。今日もおつかれ様です!》(12月10日岩本和子のフェイスブックより)
《しばらく行けてなかった美容室やエステなどを廻ってきました。みなさま、めちゃ歓迎して下さってプレゼントとか下さった。誰もが優しいです。本当に感謝。私も人に優しくしたい、優しい自分でありたいと改めて思いました》(12月18日岩本和子のフェイスブックより)
SNSでは過去の写真や日々の暮らしが頻繁に更新されていた。取材を進めると、岩本は現在、東京から離れた場所で新生活を送っているということがわかった。記者が自宅マンション前で岩本を待っていると、彼女が現れた。それが冒頭の場面である。岩本は「私が刑務所に入っていると思っている方はいますよね……」と静かに語り始めた。
――体調はどうですか?
「……体調はいいです。まだ疲れやすかったりとかというのはありますが、今までやれなかったことをしたりしていて少しバタバタで、夜は早く寝るようにしています」
――不起訴になった時の心境は?
「当初2カ月の予定だった鑑定留置が1カ月延びて、(9月5日に)検事さんから第一声で『今回の事件は不起訴とします』と言われました。今思えば、事件が起こった理由はたくさんあって、そのときの気持ちはまだ言葉にできないんです。ただ『そう(不起訴)だったのか……』と。不起訴でも、これから私が一生背負っていく重さを考えると、嬉しいと思える気持ちにはなりませんでした」
――拘置所を出てからどんな生活を送っていましたか?
「不起訴になったあとは、心身ともにとても傷ついた状態だったので、静岡の病院で心のケアを受け、ゆっくりしてから家に帰ることになりました。入院中はクロスワードパズルとか脳トレをしたり、母に手紙を書いたりして過ごしていました。それに、これからのことをいろいろ考えていました。3カ月間入院して、11月下旬に退院しました」
――12月からSNSを始めたのはなぜですか?
「今の家に住み始めて少しずつ日常生活が戻ってきました。普通の毎日を送れることの幸せを噛みしめているうちに、心配してくださった方に一言でもいいので思いを伝えたくなって、それでSNSを始めたんです。
事件を起こす直前、オーバードーズ(薬の過剰摂取)をして錯乱して、SNSを削除してしまったんです。モデルのお仕事をしていた頃や、あの時(事件)の心境や気持ちを毎日ブログに書いていたので、それがなくなってしまったのがショックでした。だからまたゼロから始めようと。今はがんばって生きている姿をみてもらいたい。私の生き様として配信していきたいと思っています」
――現在はどのような生活をしていますか?
「母と2人で暮らしています。今の家に引っ越したばかりなので、身の回りの物を片付けたり、お洗濯をしたり。(100日間の拘置所生活で)肌もすっかり荒れてしまったので、自分の外見と気持ちを整えるために、東京にある行きつけの美容院や親友がやっているエステへ行きました。するとみなさん『待ってたよ』って言ってくれて、とても嬉しかったです。新幹線で熱海駅を通りましたが、(気持ちは)大丈夫でした。母と2人で旅行へも行きました」
――被害者や事件について今どう思っていますか?
「たらればの話ですが、なんでこんなことになってしまったのかとものすごく後悔が押し寄せてくるので、正直振り返りたくないです。女性としても(堕胎するなどして)傷ついたし、仕事もなくなり、いろいろなものを失いました。前科がつかなかったことにはただただ感謝していますが、まだ嫌な気持ちは拭い去れません。今は『おかえり』って言ってくださる方がいるので、過去も含めて私なのだと受け入れて生きて行きたいと思っています」
――今後の予定は?
「(事件直後から)ずっとお母さんに抱き付きたかったんです。拘置所から出るときにお母さんが迎えに来てくれて、本当に安心しました。お母さんにはすごく苦労をかけてしまったので、これからは出来る限りの親孝行をしていきたいと思っています。
モデルのお仕事に関しては何も決まっていなくて、今はゆっくり今後を考えたいです。来年から仕事を探して、人間ドックにも行く予定です。いまは平穏な日々を早く取り戻して、本格的な日常生活の再スタートが切れればと思っています。本当にご迷惑をお掛けしました」
最後に岩本は「ありがとうございました」と言い残し、その場を後にした。
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(「週刊文春デジタル」編集部/週刊文春デジタル)