【高堀冬彦】NHKの民間会長がたった「1期3年」しかもたない理由 人事のカギを握るのは、時の政権

NHKの新会長に、元みずほフィナンシャルグループ(FG)会長の前田晃伸氏(74)が就任する。現会長の上田良一氏(70)=元三菱商事副社長=が1月24日で任期満了となることから、その後任として計12人の委員で構成されているNHK経営委員会が任命を決めた。

では、会長を選べる経営委員たちはどうやって決められているかというと、両議院の同意を得て、首相が任命している。このため、間接的とはいえ、前田新会長は安倍晋三首相(65)の意向に沿う形で決められたと考えていい。なにしろ、前田氏は安倍氏を囲む財界人の親睦会「四季の会」のメンバーでもある。
前田氏に限らない。NHK会長人事のカギを握るのは、時の政権。現在の上田会長も安倍政権が事実上決めた。にもかかわらず、上田氏は1期3年で御役御免になった。上田氏の前任者3人もまた1期で退任している。
以下、ここ約30年のNHK会長の一覧と任期だ。
■15代会長 島桂次(NHK、報道出身)1989年4月~1991年7月■16代会長 川口幹夫(NHK、制作出身)1991年7月~1997年7月■17代会長 海老沢勝二(NHK、報道出身)1997年7月~2005年1月■18代会長 橋本元一(NHK、技術出身)2005年1月~2008年1月■19代会長 福地茂雄(元アサヒビール社長)2008年1月~2011年1月■20代会長 松本正之(元JR東海社長)2011年1月~2014年1月■21代会長 籾井勝人(元三井物産副社長)2014年1月~2017年1月■22代会長 上田良一(元三菱商事副社長)2017年1月~2020年1月■23代会長 前田晃伸(元みずほFG元社長)2020年1月~
経営委員会や監督官庁の総務省はNHKに対し「業務のスリム化」や「ガバナンス強化」など時間のかかる改革を求めている。それなら会長には2期、3期とやらせるべきではないか。まして19代会長の福地茂雄氏以降は外部から招いた人材なのだから。
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NHK社会部記者や国際放送局デスクなどを歴任し、現在はジャーナリストの立岩陽一郎氏(52)はこう語る。
「会長が財界から5代続けて来て、なおかつ1期3年というのは少し異様。NHKの会長には(局内の)人事権があるだけではなく、名目上のことになりつつあるとはいえ、(番組全体の)編集権もあるのですから。最初の1年は東京の放送センターの状況を見るだけで過ぎてしまうはずです。1期3年だけでは、受信料収納問題だけをやって終わってしまうでしょう」(立岩氏)
12年間で5回のトップ交替――。民間企業ではあり得ないだろう。政権と経営委員会は、まるでプロ野球チームの素人オーナーのようだ。満を持して就任させた新監督(新会長)であるにもかかわらず、すぐに不満を抱いたり、飽きてしまったり。そして3年が経つころには違う人材を欲しがる――。
ちなみに20代会長の松本正之氏は民主党政権下で就任したが、政権の思惑が見え隠れした点では同じ。民主党政権は当初、元東芝社長の故・西室泰三氏に会長を据えようとしたが、放送法は1年以内に放送機器メーカーの役員だった人物を会長にしてはならないと定めているため、計画は白紙に戻る。
民主党政権は放送法を読むより、自分たちの合を優先させてしまったわけで、政権運営の拙さを露わにした。

その後、経営委員会は安西祐一郎・元慶応義塾長(73)に白羽の矢を立て、本人の内諾を得たが、「安西氏が待遇面で条件を付けた」などと週刊誌でスキャンダラスに報じられたことから、一部の経営委員が反発。安西氏も経営委員会側に不信感を抱き、ご破算となる。
安西氏の名誉を回復させることが目的ではないが、当時の記録を振り返ると、安西氏は不当な要求などしていない。「都心に居宅を用意できるか」などと経営委員会に尋ねた程度。なにより、どうして経営委員会と安西氏による水面下の交渉が、歪んだ形で外部に流れたのか? 百鬼夜行だ。おそらく、政権交代期で自民党系の経営委員と民主党系の委員が混在していたために起きた混乱だろう。
結局、会長には、安倍氏と近しい葛西敬之・JR東海名誉会長が推したという松本氏が就任した。葛西氏も「四季の会」のメンバーだ。民主党政権はここでも政治音痴ぶりを露呈した。経営委員会をコントロールできなかったのである。
ところが、この松本氏も1期3年で降ろされる。1期を終える時には既に安倍政権になっていたが、続投とはならなかった。表向きの理由は、「受信料値下げに消極的だった」という声が経営委員の中にあったからだが、背景には政財界の不満があった。

「NHKの報道は反原発」「歴史認識が自虐史観に基づいている」という批判が噴出していた。
前出・立岩氏は「松本さんを推した人たちは、松本さんが真っ当すぎて、不満だったとされています」と語る。民放も新聞社も適切なトップは報道内容に口出ししない。それは報道局長や編集局長の仕事だ。
そして現在の上田氏も3年で降ろされる。『クローズアップ現代+』が「かんぽ生命保険不正販売」の問題を報じた件で、郵政グループに謝罪文を届けさせた点が安倍政権の心証を害したとされるが、ほかにも理由はあるようだ。
野党の総務委員会関係者らによると、安倍政権は、放送内容をネットで同時配信するサービスの開始などにより、NHKが肥大化することを危惧している。職員数が1万人を超える巨大報道機関だけに、会長と経営委員会を握るだけでは不安らしい。
事実、既に安倍政権はNHKの締め付けを始めている。例えば放送内容のネットによる同時配信について、総務省は見直しを求めた。このため、NHKは2019年12月、24時間やる予定だった同時配信を縮小する方針を打ち出した。ネット関係の予算も最大で受信料収入の3.8%になるはずだったが、2.5%内に圧縮する。
NHKのお手本とされるイギリスの公共放送・BBCは、14年後の2034年を目途に電波を返上し、ネットに一本化する方針を固めている。もはや視聴者側にはネット環境さえ整ってさえいれば、電波など不要なのである。
それなのに、世界の潮流から外れてしまうような動きをしていて大丈夫なのか? 時代を読み、NHKの舵取りをするのは会長の役割だが、それが外部から来た人間に3年で出来るのだろうか。
「なぜ、みんな1期で降ろされてしまうかというと、その時の政治状況もありますが、NHK側の思惑もあります。大政奉還を実現させて、自前の会長に戻したい。財界から来た会長は3年で終わらせたいというのが、隠れた本音なのです。外の人間に大改革してもらっては困ると考えている」(前出・立岩氏)
NHKの人間は、どうやって会長を降ろそうとするのだろう?
「ふくろう部隊が常に動き、『今度の会長はダメ』という情報を流し続けています。また、大物会長だった海老沢さんは今でも局長クラスを集めて食事会を行っています。そうすると、外から来た会長の言うことなんて聞きません」(同・立岩氏)

ふくろう部隊とは、夜間に行動する情報チームの隠語だ。実際、NHKは会長や経営委員の不祥事が外部にすぐ漏れる。「政府が『右』と言っているのに我々が『左』というわけにはいかない」などの発言で猛批判にさらされた21代会長の籾井勝人氏の場合、局のハイヤーの私的利用が瞬く間にバレた。週刊誌などで大々的に報道されてしまった。局の意思があったからに違いない。
NHK会長の年収は3000万円以下で、上場企業と比べると割安だが、常に政権の影に怯えなくてはならず、局内の目にもさらされ続けなくてはならない。内憂外患のポストとも言えるだろう。
さて、前田氏は2期目の壁を破り、NHKを掌中に収められるのか。