懲役5年、執行猶予なし-。2019年12月2日、派遣型マッサージ店の女性従業員に乱暴したとして強制性交罪で逮捕・起訴された俳優・新井浩文被告(40歳)に対して東京地裁が下した判決は、厳しいものだった。
「強制性交罪は懲役5年以上と定められており、厳しい処罰を求める検察側の意志がそのまま受け入れられた格好です。減軽する事由も一切存在しないというシビアな判断になった」(弁護士法人・響の西川研一代表弁護士)
刑が確定すれば、新井が俳優として芸能界に復帰する道は完全に絶たれると言っていい。
今回、本誌は裁判の判決文を入手した。そこには、事件当夜、新井が女性に強いた行為が浮き彫りにされていた。
7月1日、午前2時。指名を受けた30代のセラピスト・Aさんは、都内にある新井の自宅を訪れた。
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施術の際の新井は上半身裸にトランクス型の紙パンツという出で立ち。いっぽう、Aさんは白いTシャツに黒のズボンで、特に刺激的な格好というわけでもなかった。
マッサージ開始から約1時間が過ぎた頃、新井は唐突に照明を消すと、Aさんの右手をつかみ、紙パンツの上から自らのペニスに押し付けた。
何度も「やめてください」と拒絶するAさんを横目に、行為はどんどんエスカレートする。
Aさんの証言。
〈抵抗したのに、ズボンとパンツを脱がされ、Tシャツをめくり上げ、ブラジャーをずり下げられて、直接胸をなめられ、陰部を手指で触られ、キスをされそうになり、被告人の上に乗らされた上で自分の陰部に陰茎を直接押し当てられ擦り付けられて、被告人の身体から離れようと立ち上がろうとしたが、足又は腰をつかまれ、頭を両手でつかまれ陰茎の方に引っ張られ、口の近くに陰茎を押し当てられるなどした。更に、ベッドに押し倒され、抵抗したのにその膝の間に身体を入れられて膣内性交された〉(カッコ内は判決文より引用、以下同じ)
事実であれば、新井に言い逃れの余地はない。ところが新井は、性行為を行ったこと自体は認めながらも、自ら出演する再現ビデオまで作成して「合意の上の行為だと思っていた」という趣旨の主張を展開する。
〈Aの手を自分の着衣の上から陰茎に押し付けた際に「やめてください」などと複数回言われ、手を引かれるなどの抵抗を受けた〉が〈口調は柔らかくて物静かだったし、力強いものでもなかった〉
また〈胸をなめたり、服を脱がしたり、陰部を触ったり、陰茎を挿入したりする際にAから特段の抵抗はなく、これらの積み重ねで、Aの合意があると思った〉
「合意性」をめぐって真っ向から食い違う両者の主張。密室での出来事ゆえ、証拠となる映像がないのはもちろん、他に見ている人間もいない。この状況で、「強制があったかどうか」を第三者が認定することは極めて難しい。
実際、過去の裁判でも、この「合意性」が罪を認定する上で高いハードルになってきた。
たとえば’17年、福岡市内の飲食店で、泥酔して抵抗ができない状態の女性に性的暴行を加え「準強姦罪」で起訴された40代被告の裁判では、「(女性が性交を)許容していると(被告が)誤信し得るような状況にあった」として、無罪判決が言い渡されている。
「被害者にとって合意がなくても、加害者が『合意があったと誤信するような状況』があれば強制性交罪の要件を満たさず、無罪になるケースが後を絶たず、批判が多かった」(前出・西川弁護士)
しかし、今回の判決において、「Aさんとの間に合意があったと誤解していた」という新井の主張は、明確に否定された。
これには、いくつかの理由がある。
まず、Aさんが働いていた店では、客に対して「性的な要求を禁止する同意書」へのサインを求めており、新井もこれに署名していたこと。
また、初対面である新井に対し、施術開始から1時間ほどのわずかな時間のあいだにAさんのほうから積極的にセックスを求めるような発言をしたとは考えにくいこと。
そして、何よりの証左とされたのが、事後、新井がAさんに7万円ものカネを渡そうとした事実だ。
〈「悪いことしちゃったね。これ、おわび」などと言って、(前払料金とは別に)現金7万円を執拗に手渡そうとしたが、受取りを強く拒否され、結局Aの所持するバッグに強引に押し込んだ〉
新井は、以前にも同様の店で同意したセラピストとセックスに及んでいたが、その際には追加でカネを渡すようなことはしていなかった。
つまり、カネを渡そうとした行為自体が、新井が「意思に反するセックスの強要」を認識していた証拠になるというわけだ。
こうした観点から、裁判所は新井による「強制性交罪」の成立を認定。〈犯行は、被害者の性的自由を侵害する卑劣で悪質なものというほかない。被害者の処罰感情が厳しいのも当然といえる(中略)。その経緯・動機に酌むべき点はなく、厳しい非難に値する〉と、断罪した。
この判決を聞いた新井は、内容を不服として即日控訴。750万円の保証金を支払って保釈され、控訴審に備えている。
今後、新井側が判決を覆すことは可能なのか。
「二人の間の『合意性』を認めるような新たな物的証拠が見つかれば別ですが、今回の判決は事実認定を丁寧に進めており、様々な角度から判断して有罪という判断が下されている。覆る可能性は極めて低いでしょう。新井氏が『合意があったと思いこんでいた』といういまの主張を繰り返す限り、事態は変わりません」(前出・西川弁護士)
やはり情状酌量の余地なし、というわけだ。
もっとも「被害女性と真摯に向き合い示談が進めば減刑の可能性もある」(西川弁護士)というが、被害者のAさんの側は示談に応じるつもりはまったくないようだ。
Aさんの代理人である永和総合法律事務所の寺島哲弁護士が言う。
「最初の段階で高額の示談金を提示されてもAさんが応じなかったのは、『自分がやったことの報いをきちんと受けてほしい』という気持ちが非常に強いからです。
彼女は、お客さんを癒やすマッサージの仕事を『天職』と考えていたにもかかわらず、被告の身勝手な行動により男性に恐怖心を抱き、別の仕事に就くことを余儀なくされた。
そうして一人の女性の人生を狂わせておきながら、法廷での姿を見ている限り、被告には謝罪の気持ちがまったく感じられない。心に響くものがまるでありませんでした。Aさんは『示談は絶対にしない』と言っています」
演技派で鳴らしただけに、法廷でもポーカーフェイスを貫くつもりなのかもしれないが、その往生際の悪さは、ますます自分の首を絞めるだけだ。
『週刊現代』2019年12月21日号より