【本日会見】ゴーン氏が逮捕前に語っていた「2022年のルノーと日産と私」

きょう1月8日、カルロス・ゴーン氏がレバノンで記者会見を行う予定だ。月刊「 文藝春秋 」に掲載された、ジャーナリストの井上久男氏によるゴーン氏本人のインタビューを再公開する。

筆者は2018年4月19日、当時、日産会長だったカルロス・ゴーン氏にインタビューした。月刊「文藝春秋」の取材で、主なテーマは「自動車産業の将来展望」についてだった。
また、2015年にフランス政府がルノーを介して日産への関与を強めようとして、フランス側と日産の関係がこじれそうになって以来、両社の関係が今後どう変化するのかも筆者の関心事だった。
インタビューの後半に思い切って提携関係の今後を聞いてみたら、ゴーン氏はいつもの調子でまくしたてるように積極的に語ってくれた。このインタビューは日産とルノーの関係に変化が現われ始めた時に何らかの形で使おうかと思っていた。
今改めてインタビューを読み直し、11月19日にゴーン氏が逮捕されて以来続けてきた関連取材で得られた証言などを整合していくと、ゴーン氏がインタビューで言わんとしたことと、その狙いが見えてきた。
――日産とルノーがいずれ経営統合する可能性があるとの報道もあります。ゴーンさんはこれまでアライアンス(同盟)の重要性について、お互いが独立したうえで人材や技術などの経営資源を持ち寄る形態が、日産とルノーの提携が成功した原因だと言い続けていましたが、少し考え方が変わったのですか。

ゴーン とんでもない。考えは変えていません。アライアンスを成功に導いたのは、様々な文化、様々な会社の人間が一緒に協力をしてきたからに他なりません。日産はアライアンスとともに成長しました。利益も出て力強い会社になりました。ルノーも然りです。三菱自動車もアライアンスのパートナーに加わり、成長や豊かさを追求しています。3社の関係は維持したいと思っています。私は別に気が変わったわけではありません。
ただ、3社の提携が持続的に成功しているのは、「一部の人たちのおかげではないか」「その人たちが退任したらどうなるのか」と言われ始めているのです。
「唯一の手段はやっぱり合併するしかない」と言う人もいます。それは唯一の手段ではないと思いますが、確かに一つの選択肢ではありますよね。しかし、他にもいろいろ手段は考えられます。アライアンスはすでにもう絶対に不可逆的だと私自身は思っているんです。なぜなら、みんなアライアンスから利益が生まれているからです。メリットを享受しているのに、どうしてわざわざ疑問視しなければならないのですか。
ただ、中には「ゴーンさん、あなたが居るからそう思うんでしょう」と言う人もいるのです。「各社のことを分かっているゴーンさんが居るからうまくいっているんだ」と言う人がいます。「では、あなたがいなくなったらどうするのか」と。
――ズバリ聞きますが、ゴーンさんが退任してもアライアンスが続く体制を考えるということですか?

ゴーン そうなんです。まさにその通りです。今問われているのは、私と改革を進めてきた世代がいなくなった後、どうするのですか、ということです。新しい世代の人たちは、過去のアライアンスの発足時の精神のことは分かってないかもしれない。そうした指摘自体は無視できません。もし私が自己中心的だったら無視してもいいんですよ。「私の後なんか私の問題じゃないからいいや」と思ってもいいわけです。しかし、そんなことは言えません。私には、5年後、10年後のアライアンスの将来に備える責任があります。
私は気が変わったわけではありません。19年間にわたり、私のことをご存知でしょう? 見ていらっしゃいましたよね。私はマネジメントの原則、そして価値観についても申し上げて、それを実践に移してきました。そんなの今になって変わりませんよ。
いずれにしても、アライアンスをどのように進化させるのであれ、やはり全面的に日産とルノーと三菱の賛同を得なければならない。それに加えて、2カ国の賛同が必要です。アライアンスのベースである日本とフランスの合意がなければ、どのような進化もあり得ません。合意が形成できなければ、はっきり言って現状維持です。それしかない。今申し上げた関係者が全員合意をした上で初めて動くということなんです。ですから別に緊急性があるわけでもないし、火事が起こっているとか、そういうことではありません。
多くの憶測が乱れ飛んでいます。「絶対に合併だ」とか「フランス政府が求めている」とか「日本政府は嫌だと言っている」とか。結局それは一部のメディアが騒いでいるだけなんです。短期的にそんな緊急性があるわけではありません。

――フランスのフロランジュ法(2年以上株式を保有すると議決権が2倍になるなどの法律)の関係で、フランス政府の意向が強くルノーに働き、それが日産にも及んでくるのではないかとの危惧があると多くのメディアは受け止めています。
ゴーン それは分かっているんです。ただ、一つ申し上げたいことがあります。私はどのようなことであろうとも、私の信条に外れたことは決してしませんし、あるいは、私のこれまでのマネジメントの経験から外れたことは決していたしません。さらに、日産、ルノー、三菱のそれぞれの利益に反することは決してしません。これは明快に申し上げておきます。もし何か動く場合でも、先ほど申し上げた通り完全に3社が合意したうえでないとやりません。全面的に各社が賛同しなければ、何もやりません。
――ゴーンさんのルノーCEOの任期は2022年までですが、それまでに人に依存しない新しい組織はできますか?
ゴーン そうしたいと思っています。まだ時間はあります。妥当な合理的な期間だと思います。22年までに最終的に解決策を見出す、それによってみんな快適に感じられる、安心を持てるというようなものはできると思います。
――分かりました。ゴーンさんは今64歳です。経営者を辞めた後のことは考えていますか。
ゴーン ご存知のように、私は日産と三菱の会長、そしてルノーCEOですが、最も重要な役割は、三社アライアンスの会長兼CEOであるということです。日産は西川(廣人社長)さんにやってもらい、三菱は益子(修CEO)さんに統括してもらっている。そして、ルノーではCOOを任命しました。ティエリー・ボロレです。私もサポートしています。

私は、3社がうまく連携をして、ちゃんと機能統合をさせて、そして前進させるアライアンスの仕事に注力しています。2022年まではアライアンスのトップを務めますが、他の仕事は替わるかもしれない。
――リタイアした後の人生の目標はありますか。「日本は私のアイデンティティの一部だ」と言われていますが、日本ともずっとかかわっていこうと思っていますか。
ゴーン もちろんそうしたいと思っています。まず、私の任期が2022年までと申し上げましたが、だからといってリタイアするという意味ではないかもしれないですよ。任期は2022年までですね、ということだけです。
日本に住んでもう19年ぐらいになりますでしょうか。私がリタイアするのはいつか分かりませんが、その時でも私はやはり日本とかかわり合っていきたいと思っています。今までとは違う側面で。日本には思い出もあるし、友達もたくさん居ます。私は人生の大きな部分をここで過ごしました。幼い時に日本で過ごした子どもたちはよく今でも日本に来ています。日本の文化との間に絆があります。日本はまさに私の人生の一部です。
――ということは、2022年以降もアライアンスのトップをやっている可能性はありますか。
ゴーン ちょっとまだまだ先のことじゃないですか。生き残っていて健康であったら、それだけでも大きな目標じゃないですか。ただ、私は役に立つ限り奉仕し続けます。アライアンスと各社に奉仕を続けます。ただ、役立つ限りにおいてです。

この中でまずポイントとなるゴーン氏の発言は、提携が続くのは「一部の人たちのおかげではないか」という点だ。一部の人たちとは、ずばりゴーン氏を指す。3社アライアンスは、強大な権力を持つゴーン氏に依拠しているという意味だ。フランス政府もその点を見抜いていて、ゴーン氏に対して退任後も日産とルノーの関係が継続することを求めた。
ルノーと日産の提携は、株式の論理上は日産に43%出資するルノーが実質的に日産を支配しているが、お互いが独立した組織として存在し、強みを持ち寄りながらシナジー効果を出すことに主眼が置かれていた。
「アライアンス(同盟)」という表現はそれを象徴している。たとえば、日本と米国は「同盟関係」と呼ばれるが、軍事力など国力は米国が上だが、外交上は対等な関係で協力し合うことと少し似ている。
アライアンスの中に三菱も入ってきて、独立した3社が、ある分野では共同戦略を取るものの、利害関係が生じることもある。たとえば、共同開発したクルマの生産拠点をどこにするかだ。日産は国内雇用を守りたい時には国内での生産を目指すが、ルノーも同様に自国での生産をしたいと考える。こうした綱引きの局面では強大な権力を持つゴーン氏が微妙なパワーバランスの上に立って裁定してきた。
ゴーン氏は経営統合しなくても自身の力で日産を完全に制圧していることをフランス政府にこれまで見せつけてきた。ところが、ゴーン氏の任期が長くなったことで、いずれ退任することを見越して、仏政府は「ポストゴーン」のマネジメント体制の構築をゴーン氏に要求した。ゴーン氏のようなパワーを持つ経営者は今後出ないと見て、「形での統合」を求めたのである。

次に大きなポイントは「私の任期が2022年までと申し上げましたが、だからといってリタイアするという意味ではないかもしれないですよ」「役に立つ限り奉仕し続けます」という発言だ。ここにはゴーン氏の本音が出ていると見る。
今回の日産の社内調査などから明らかになったゴーン氏の公私混同ぶりを見ると、会社のカネを食い物にしているが、氏の立場になれば今のポジションは「おいしい」わけで、その地位は手放したくないということだ。フランス政府に対しても、「人に依拠した提携」なのだから、私がこのままいれば、この提携を続けられると主張することもできる。
ただ、ゴーン氏はフランス政府が要求するルノーと日産の関係を不可逆的なものにすること、という条件を呑んで2018年、ルノーCEO職に再任された。ルノーCEO職が、3社アライアンスの共通戦略をつくる統括会社「ルノー・日産BV」のトップを務めるという規約が両社間にある。このため、ルノーCEOが事実上の3社アライアンスのトップであり、この地位にこだわったゴーン氏がフランス政府の要求を呑んだ。
不可逆的な関係について、ゴーン氏は「すでに提携は不可逆的な関係にある」と答えている。これも、自分の存在があるからだ、という意味だ。ただ、将来のことは考えていたようで、「合併は一つの選択肢であり、様々な手段がある」と答えている。

ゴーン氏はインタビューで「2022年まではアライアンスのトップを務めますが、他の仕事は変わるかもしれない」と語り、日産や三菱の会長には固執しない考えを示した。このインタビューから見えてきたことは、ゴーン氏は、日産会長やルノー会長の職はどうでもよく、何らかの形で3社アライアンスのトップに居座ろうとしていたということだ。
日仏両政府を巻き込んでのアライアンスの主導権争いは、そもそもフランス政府が民間企業の経営に介入してきたことに端を発する。
しかし、ルノーを介してフランス政府の意向が経営に反映されるようになることを日産の経営陣は嫌った。経営の独立性を維持することが、日産とルノーの提携維持継続の大前提だったからだ。資本の論理ではルノーに支配権はあるが、1999年の提携時の合意書には「ファーストバイスプレジデント(筆頭副社長)を超える役職は受け入れない」との文言を織り込んだのも、ルノーから社長を受け入れないためだった。しかし、この合意書は何回かにわたって改訂され、ルノー支配が強まる形となった。
2015年の「摩擦」の際には、ゴーン氏は日産側につき、フランス政府の要求を蹴った。当時の担当大臣がマクロン氏だったが、ゴーン氏との間に溝ができた。そのマクロンは2017年に大統領に就任。権力の頂点に立ち、ゴーン氏のルノーCEO任期が切れる時に、前述したような再任条件を改めて突きつけた。留任したかったゴーン氏は表面上、その要求を呑んだ。

同じく2017年に久々の日本人トップとして日産社長に就いた西川廣人氏の至上命題が「経営の自主独立」であり、権力の座に居座りたいがためにフランス政府側に付いたゴーン氏の圧力を跳ね返さなければならなくなった。側近の一人としてゴーン氏に仕えてきたものの、到底ゴーン氏の意向は受け入れられなくなった。
そこにゴーン氏に関する不正の内部告発があり、社内調査が進んで会長解任に値する不祥事と判定した。
最初から意図されたクーデターではないはずだ。しかし、「ゴーン氏およびフランス政府の圧力を跳ね返すこと」、「不祥事の処理」という2つのパズルが重なって、ゴーン氏の会長解任劇となり、これが結果として「クーデター」と映った。
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ゴーン氏の”チルドレン”と見られていた西川廣人日産社長と志賀俊之取締役。カリスマ「追放」の裏側に潜む、20年間にわたる3人の愛憎劇を、井上氏は「文藝春秋」1月号誌上で「日産クーデター劇・ゴーン追放全真相」と題して詳細にルポしている。あわせてお読みいただきたい。
(井上 久男)