糖尿病をはじめとする予防医療の啓発や具体的なアクションを行なう一般社団法人予防医療普及協会は10月16日、RIZAP(ライザップ)グループの瀬戸健代表取締役社長と、ホリエモンこと堀江貴文氏のトークイベントを東京都港区のDMM本社で開催した。
モデレーターを務めたのは、予防医療普及協会顧問でITをフル活用した“次世代クリニック“ブランド「クリニックフォア」を展開するLinc’wellの金子和真代表取締役。前編記事「ホリエモンがRIZAP社長に聞く――顧客の意識を変えてきた戦略の秘密とは?」では、RIZAPがダイエットビジネスで顧客の意識を変えてきた秘密に迫った。後編ではなぜRIZAPが結果にコミットできるのか、その戦略を聞く。
費用が高額だからこそ結果にコミットできる?
堀江:医療業界はおそらく、生活習慣病になった人たちを、そこまで効果的には救えていないのではないでしょうか。1回診察して終わりとか、継続しても1カ月に1回指導するくらいですから。真面目な人はそれで行動変容すると思いますが、できる人は一握りだと思います。
ほとんどの人は行動変容ができなくて、重症化して、人工透析や足を切断しないといけなくなるじゃないですか。そういう人たちをどうすれば変えていけるのかが、今日ここで議論したいことです。
RIZAPは料金が高いですよね。高いコースに入れば成果も出せるし、トレーナーもいい人をマンツーマンでつけることができると思いますが、たぶんそんなに高い料金は払えない人が多い気がします。そこをどうすればいいのかなと思います。
瀬戸:われわれは行動経済学に基づきながらやっています。着目しているのは「損失回避のバイアス」です。人間は得られるメリットよりも、失う損失の方が大きいと感じます。だいたい2.5倍くらいの差があるそうです。2カ月でお支払いいただく金額が約30万円からですから、「元を取らないと損をする」という意識がお客さまに生まれるのは事実です。
堀江:なるほど。高額であることは、結果にコミットできる理由の1つですね。
瀬戸:ただ、ダイエットの結果を商品として販売していますが、来ていただいている方はそこまでふくよかではありません。フィットネスジムで運動している方や、走っている方は、どちらかというとスリムな方が多いですよね。意識が高い方は、このいい状態をキープしなければいけないと思っているので、よく来ていただけます。
問題なのは、スリムではないけれども「それでいいや」と許容している方が、生活習慣病になっていることです。そういった方々にどうやって参加していただくかが重要なテーマです。堀江さんが糖尿病の恐ろしさを伝える映画を制作するとおっしゃっていることには、非常に共感しています。
ビジュアルでデメリットを見せる
堀江:ありがとう。映画の話は置いておいて、いま来ていない人に対して、どうやって行動変容を起こそうと考えているのですか。
瀬戸:健康でいられることのメリットを謳(うた)っても、参加いただける方はある程度限定されています。そこで不健康になってしまうデメリットを通して、普段は動かない方に動いてもらうことが重要だと思っています。
当社のテレビコマーシャルは、一見ビフォーアフターに見えますが、実は「問題提案型」のコマーシャルです。アフターは得られるメリットだけですよね。でもビフォーによって、不健康であることがあまり幸せそうに見えないことと、このままだったら不幸になってしまうと感じてもらうことで、行動変容を促しています。
堀江:動くのがつらいとか、汗をすごくかいていやだと感じてもらうということでしょうか。
瀬戸:どんな方にも、自己暗示というか、自己肯定をしてしまう傾向があります。若いころは痩せていたけれども、だんだん体重が増えて、40代、50代になった方がいるとします。最初は嫌だと思っていたのに、「熊さんみたい」などと言われているうちに、人がよく見えるのかなとか、いいキャラクターなのかなと思って、自分の現状を肯定しようと思ってしまいます。
この状態が10年、20年続くと結構大変です。痩せようとして頑張っているときに、多くの方が「痩せてよくなったね」と言ってくれるなかで、たまに「前の方が優しそうに見えた」と言われると、強いダメージを受けてしまいます。
だからトレーナーが、過去を否定する言葉をかけてあげないといけません。ずっと自己暗示がかかっているので、そこから抜け出すような否定をしっかりする必要があります。
堀江:なるほど。糖尿病や生活習慣病の方に対しては、どのように否定をすればいいですか。
瀬戸:生活習慣病になったときにどんな損失が出るのかを、どれだけビジュアライズしながら認識していただけるかどうかが重要です。一般的には生活に支障がでることなどを文字で訴えると思いますが、当社のコマーシャルでは体重が何キロから何キロになったと文字ではあまり出していません。ビジュアルが中心です。
だから糖尿病になった時に、どんなダメージがあるのかをビジュアルで認識できればできるほど、損失を明確に認識できると思います。優秀なトレーナーは得られるメリットも、損失も、しっかりビジュアライズして伝える力があります。
サブスクなら何でも成功するわけではない
堀江:すごく変だなと思うのは、小・中学校のときの体育の授業です。恐らくいいことと悪いこととが半々あると思います。学校の授業で、集団で運動をさせることによって、太りにくくなるし、生活習慣病にもなりにくいのはいいことですよね。
同時に、運動が苦手な人は、体育の授業が嫌いになるという悪い面もあります。僕は勉強はずっとクラスで1番だったけど、正直なところ運動能力は平均以下だったので悔しくて、そのギャップが嫌でした。
だけども、あの半強制的に運動させられているシステムは、何かに応用できるのではないかとも思っています。大学生や社会人になってスポーツをしなくなることに、大きな問題がありますよね。
瀬戸:確かに社会人になると運動を強制される場がなくなるのは、課題だと思っています。お客さまでトレーナーに強制されることを喜んでいる方はとても多いです。
堀江:Mなんですね(笑)。
瀬戸:愛情が根底にあるからです。思いやりがあって、本当にその人によくなってもらいたいと思って発せられる言葉と、単純な理屈だけの言葉は違います。同じ単語でも、言い方が違うと全く違う意味になります。
堀江:RIZAPのトレーナーさんはそれが徹底していますよね。
瀬戸:コミットを本気でしようと思っていないトレーナーは、当社の商品を勧めることはできないと思います。2カ月が経(た)って、あと1カ月継続する場合はプラス10万円いただきます。迷っているお客さまがいた場合、トレーナーがその方には理想の姿になっていただくと思っていれば「そんなの安いですよ」と言えるんですよ。
そうでなければ言葉が弱くなったり、「他のものに比べて10万円は高いじゃないですか」とお客さまに言われて「そうですね」と答えたりしてしまいます。
堀江:ある意味ではサスティナブル(持続可能)じゃないとダメですよね。1回ダイエットをして、そのあとは続けませんでは意味がないですから。
サブスクは創業当時からやっていた
瀬戸:コマーシャルでは2カ月後の姿が出ていますが、その先に物語の続きがあって、3カ月後、4カ月後はもっとバキバキの体になっています。そのことを写真でお見せすると、その違いが分かって、「10万円は惜しくない」と言ってくださる方は多いです。人生で最高の体と自信を提供するのが私たちのミッションですから、お客さまがなり得る、最高の姿になるためのソリューションを提案させてもらいます。
堀江:継続率はどれくらいですか。
瀬戸:2カ月でお辞めになる方は、2割くらいですね。継続率は非常に高いです。
堀江:そうなると、プロテインや低糖質食品をサブスクリプションで売ることもできるのではないですか。
瀬戸:実はサブスクは創業当時からやっていました。おからで作った「豆乳クッキーダイエット」という商品だけで、創業4年目には売り上げが100億円になりました。最初は単発購入と定期購入を用意しましたが、いつでも辞められるサブスク1本にすると、購入率は30%落ちたもののリピートが70%まで伸びました。結果的に年間で使っていただける単価が上がって利益が出るようになり、一気に成長しました。
ただこの話には続きがあります。4年で100億円の売り上げになったあと、次は300億円を目指そうと広告宣伝費に100億円以上使っていたのですが、ちょうどその時期に似たようなおからクッキーや、「ビリーズブートキャンプ」のDVDが出てきました。その結果、売り上げは10億円まで低下して07年には倒産の危機になりました。
そのときに反省したのは、サブスクだからといって何でも成功することはないということです。お客さまに喜んでいただく肝心な部分が完全に抜けていました。ですから、本質的には「商品をいい」と思ってもらって、「元をとった」と思ってもらうことが必要だと考えています。
堀江:僕はずっと意識が低い人たちのソリューションしか考えていません。うまくいくかどうか分かりませんけども、糖尿病を予防するための1つの仮説として、糖尿病の恐ろしさを伝える恐怖映画を作ります。
今日はどうもありがとうございました。
(フリーライター 田中圭太郎)