「トランプ大統領に言いなりの安倍首相は、米国の要請で爆買いした兵器を地元に配備。報復攻撃のリスクのある米国の防衛前線基地として、自らの地元を献上することに喜びを感じる“自虐癖”の持ち主なのか」
こんな疑問がわき起こったのは、昨年の12月18日、イージス・アショア配備候補地の山口県萩市での全員協議会(市議への説明と質疑応答)を終えた防衛官僚に、囲み取材で「山口への差別ではないですか。安倍総理は納得しているのでしょうか」と問いただした時のことだ。
防衛官僚は一言も答えず、司会者が会見終了を宣言。控え室まで行って同じ質問をぶつけたが、防衛官僚は無言のままだった。
◆山口県知事、萩市長、阿武町長らも異論を唱える
総理大臣が一人も出ていない秋田県では、隣県(青森と山形)を含めてイージス・アショア配備候補地の再調査中だ。ところが、安倍首相を含めて8名の総理大臣を輩出した山口県では、早々と「陸上自衛隊むつみ演習場」(萩市・阿武町)が“唯一の候補地”だと結論づけられた。
昨年の12月11日付『東京新聞』は「地上イージス 秋田見直し 反発に配慮、政府検討」と題して「菅義偉官房長官は住宅地との距離を考慮するよう既に防衛省へ指示」と見直しの動きを報じていた。
安倍首相と関係良好の地元自治体トップさえ、今回の防衛省の対応には異論を唱えている。
全員協議会の前日の17日、山本朋宏・防衛副大臣が山口県庁で同じような説明をしたのに対して、村岡嗣政・山口県知事は「秋田県と山口県への配備で日本全体を最も効果的に守れる」という防衛省の説明を紹介。「もし(秋田の新屋演習場以外の)別の場所になれば、山口に置くことの意義について改めて確認する必要はあると思う」と述べた。
さらに、配備候補地の藤道健二・萩市長も「秋田県が再検討されている状況では、萩市長として配備に関する態度の表明はできない」と釘を刺すと、花田憲彦・阿武町長も「候補地の演習場は、住民の生活圏や生産活動圏にあまりにも近接しすぎていて住民の理解はとうてい得られない」と強調したのだ。
◆住民の意向は報告書には記載されず
翌18日の萩市全員協議会(市議への説明と質疑応答)でも、安倍首相の地元・山口県の住民を愚弄するような防衛官僚の発言が相次いだ。
「住民の意向も配備適地選定の判断材料の一つ」と防衛省は説明してきたのに、住民の意向は報告書に記載されていない。このことを問題視した市議に対して、防衛官僚は「むつみ演習場は現段階でも『候補地』であって、最終的な『適地』ではない」と返答。前日、山本副大臣は「むつみ演習場が唯一の適地」と説明していたにもかかわらず、である。
ある市議が、秋田県は青森県と山形県を含めて再調査中なのに、山口県の代替候補地として福岡県などの隣接県が調査されていないということを疑問視した。しかしこれにも、防衛官僚は具体的理由を挙げて答えることはなかった。
◆防衛官僚は「丁寧に説明をしたい」と繰り返すだけ
直後の囲み取材で、筆者は防衛官僚に質問した。
――住民の賛否を問うアンケート調査などを行う考えはないのでしょうか。
防衛官僚:私どもとしては、住民説明会の場でしっかりと丁寧に具体的に説明をしたいと考えてます。
――アンケート調査はしないのですか。理解が得られたのかどうかを知るために、何らかの調査をしないとわからないではないですか。
防衛官僚:私どもとしては、住民説明会の場で質問等に対して丁寧に説明をさせていただきます。
――防衛省が勝手に「(住民の)理解が得られた」判断する恐れがあるじゃないですか。客観的なアンケート調査はしないのでしょうか。
防衛官僚:私どもとしては、住民説明会の場などでしっかりと説明をしたいというふうに考えています。
防衛官僚は、木で鼻をくくったような答えを繰り返すだけだった。
◆秋田が候補地から外れれれば、「ペア」である山口も外れるのでは!?
山口県が、秋田県とは違う差別的対応を受けていることへの疑問も相次いだ。『萩新聞』の記者が「別冊の資料で『秋田県付近と山口県付近、新屋とむつみが最も適切な組み合わせと考えている』と、組み合わせを強調していると思うが、その中でむつみ演習場のみを配備に適当と発表された理屈を説明してほしい」と質問。すると、防衛官僚は「秋田のほうは再調査の時間を有しているが、山口は再調査が終わったから説明にあがらせていただいた」と答えた。
納得がいかない『萩新聞』記者が「あくまで『組み合わせ』『ペア』で日本全体を守るということで、秋田が動けば、当然、むつみも動く可能性もあるし、秋田が決まっていない中でなぜ、むつみだけ先行をしてOKが出せたのかを説明してほしい」と食い下がった。それでも防衛官僚は、以下のような紋切り型の回答をするだけだった。
「秋田についてはまさに再調査を行っているところで、その結果について今、言及することは差し控えたい。むつみについては本日のご説明でお話をさせていただきましたが、約1以上の面積があって、なるべく平坦な敷地であって、そして日本海側に位置しているという条件を満足する国有地がむつみ以外には存在しなかった。ということで、今回、配備候補地の説明をしている」
ここで筆者も「秋田から山形にずれれば、その『組み合わせ』は山口からずれるのではないでしょうか? (秋田より南の)山形が秋田の候補地になっているので、九州が山口の候補地になっても不思議ではない。なぜ候補地にならないのですか? 山口への差別じゃないですか。安倍総理は納得しているのでしょうか」と畳み掛けた。しかし冒頭で紹介した通り、防衛官僚は無言のまま囲み取材を打ち切ったのだ。
◆「面積要件緩和」をしない理由を語らない防衛官僚
防衛官僚が繰り返した「1以上」という選定条件については、花田町長は「イージス艦の上に(イージス・アショアと同じ)ミサイル迎撃システムが乗っているわけですから、大きな面積である必要はない」と見直しを訴えていた。
しかし今回の防衛省の再調査報告書には、花田氏提案の面積要件除外やイージス艦による代替に関する記載は一切なかった。そこで、囲み取材で筆者は「1の条件がおかしい。狭いイージス艦の中に(イージスシステムが)全部置けるのに、なぜ1も必要なのか。面積要件を緩めれば、もっと(候補地の)選択肢が広がるのではないか」と聞いた。しかし、防衛官僚は「レーダーとかVLSとか庁舎などが必要」と答えるだけで、納得できる回答えは返ってこなかった。
筆者がこの阿武町長の提案(面積要件緩和による代替案検討)を防衛官僚にぶつけたのには、理由がある。人口約3300人の阿武町はIターンUターン推進や子育て対策などの定住対策を進め、社会的人口減をほぼ食い止めることに成功したモデル自治体だったからだ。イージス・アショア配備は、その流れにストップをかけるのではないかと危惧されている。
しかし7月に岩屋毅防衛大臣(当時)は山口県庁で調査報告書の誤りを謝罪した際、「町の存亡にかかわる」と訴えた花田町長に対して、こんな暴言を吐いた。「自衛隊の施設が新たにできると、隊員二百数十名、家族を入れると数百名がご当地でお世話になります。町に溶け込み、町づくりに少しでも加勢できるようにしたい」
「自衛隊員移住による人口増で、定住政策へのマイナス要因を埋め合わせることができる」と説明したわけだが、花田氏は「自衛官が来るから地域振興になるという考えではない」と唖然とした。
防衛官僚は花田氏が提案した「面積要件緩和」をしない理由を語らないまま、従来通りの説明を繰り返すだけだった。
米国兵器を爆買いしている安倍政権は、地方創生のお手本のような阿武町の取組みを否定、代わりにイージス・アショア配備強行による軍事的地域振興を押しつけようとしているのだ。この姿勢は半年近く経った今でも、変わる兆しはない。
<文・写真/横田一>
【横田一】
ジャーナリスト。小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)に編集協力。その他『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数