高血圧治療薬や、老人介護施設での床ずれ治療に使う軟膏(なんこう)など、薬の欠品が業界で問題となっている。代替薬を手に入れると、それも欠品になるというイタチごっこだという。国防ジャーナリストの小笠原理恵氏が緊急寄稿した。
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「一部薬品の確保が難しくなってきた。昨日、Aが回収になったからBに変更したら、今日はBも回収になって何を採用したらええねん!」
薬局経営者のこんな嘆きを聞いた。薬局の経営だけではない。そこには治療中の患者さんがいる。処方薬が手に入らなければ治療に影響が出る。これは命の問題だ。
今年に入って、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」にもとづく行政処分が相次いだ。16日、新たに小林化工の12品目が製造販売取り消し見込みと発表された。届け出た製造過程の内容と齟齬(そご)があるなら処分は当然だ。薬は安全でなくてはならない。
2018~19年にかけて、日本では重要な抗菌剤が供給不足となった。薬価原価割れで、原材料を中国に依存した結果だ。中国の原末製造停止で全国的に抗菌剤不足になり、手術延期などの深刻な事例も起こった。
なぜ、こうも度々、薬の安定供給が阻害されるのか。
処方箋の必要な薬価は、製薬会社ではなく厚労省が決める。原価を下回る価格も要求される。
規定された製造工程を省略したり、ごまかしたりする企業があることは問題だが、業務停止や自主回収、製造販売取り消しで薬の供給が滞る。安全性が担保できるような投資や必要な人材を雇用できる適切な利益が出る薬価にしてはどうか。
政府は4月以降、新型コロナ禍で営業収益も悪化している製薬会社に、4300億円減の薬価切り下げを突き付けた。これでは、さらに薬の欠品、製薬会社の廃業、行政処分での業務停止が増えかねない。厚労省の責任を問いたい。