【高安雄一】不景気な韓国が、日本より成長率が高いのはなぜ…? その「謎」を解く 最新の数値で考えます

1月22日に韓国の2019年10-12月期の四半期GDP成長率が公表された。同時に2019年通年での経済成長率も公表され、その数字は2.0%増であることが明らかになった。
〔PHOTO〕South Korean Presidential Blue House via Getty Images
以下ではこの数値を日本の経済成長率と比較してみたいのだが、四半期GDP成長率を公表するタイミングは、韓国は四半期が終了してから3週間を少し超す程度である一方、日本は1カ月半かかる。つまり、日本で2019年10-12月期と2019年の経済成長率が公表されるのは2月中旬。
そこで次善の策として、IMFの「世界経済見通し」から、2019年における日本の経済成長率をみてみる。そこでは、日本の経済成長率は1.0%増と予測されている。
韓国は2.0%増、日本は1.0%増。2019年の経済成長率は、韓国が日本より1%ポイント以上高いという結果となった。

ここでひとつ疑問がわくはずである。日韓の景気を比較すれば韓国のほうがより悪い状態である…というのが専門家の共通した見解だ。韓国は米中貿易摩擦により中国経済が減速した影響を大きく受け、一昨年の秋より景気が減速し始め、2019年には内需も設備投資が大きく減少するなど本格的に景気が悪化した。
他方の日本は、韓国と同様に中国経済の影響を受けたものの、内需が堅調であったため、景気後退に陥る寸前か軽い景気後退といった状態で踏みとどまっている。明らかに言えるのは、2019年の景気は韓国が日本より悪かったということである。
景気が悪かった韓国の成長率が2.0%、韓国と比較すれば景気が悪くなかった日本の成長率が1.0%と聞くと、いったいなぜなのかと疑問に思う人も多いのではないだろうか。
〔PHOTO〕Tomohiro Ohsumi/Getty Images
この疑問は「潜在成長率」を知ることで解ける。潜在成長率とは潜在GDPの変化率である。潜在GDPとは、生産に必要な要素である「労働」と「資本」をフル回転させた場合に生み出されるGDPの水準である。
潜在GDPは「完全雇用生産量」とも呼ばれ、需要が足りないことにより失業が発生しない状態–つまり需要が十分にあり、その社会のみんなが失業せずにフルで働き生産している状態でのGDPの水準と言える。
潜在GDPは、投入可能な労働量と資本量、および生産性の組み合わせによって決まる。投入可能な労働量や資本量、生産性は毎年変化するので潜在GDPも変化し、その変化率が潜在成長率である。
潜在成長率は、(1)労働投入量の伸び率、(2)資本投入量の伸び率、(3)生産性の伸び率で決まる。(1)~(3)は構造的な要因により徐々に変化するため、潜在成長率も中長期的にゆっくりと変化する。

なお実際の経済成長率は景気の変動により、潜在成長率を上回ったり下回ったりするが、潜在成長率から長期間大きく逸れることはない。つまり潜在成長率が高い国では、景気が悪くても成長率が高く、潜在成長率が低い国では景気が良くても成長率は低い傾向が見られる。
具体的に両国の潜在成長率をみてみよう。日本の潜在成長率は内閣府によれば2016~2018年の平均で0.9%、韓国は韓国銀行によれば2016~2020年の平均で2.7%と予測されており、日本より1.8%ポイント高い水準である。
ただし、それぞれの国の潜在成長率を実際の経済成長率と比較すると、日本は潜在成長率と等しく、韓国は潜在成長率より0.7%ポイント低い。つまり韓国は日本より実際の経済成長率が潜在成長率より下方に乖離しており、失業増などの問題が発生していることがわかる。

ではなぜ韓国の潜在成長率が日本より高いのであろうか。韓国といえば三星(サムスン)やLGといったグローバル企業の躍進ぶりが日本でも知られており、半導体メモリーやスマートフォンなどIT製品を中心に日本企業を凌駕している。このような韓国企業の勢いが日韓の潜在成長率に差をつけていると考えている人も多いのではないだろうか。
しかし、韓国の潜在成長率が日本より高い主な理由は、高齢化が進んでいないといった人口学的なものである。
繰り返しになるが潜在成長率は、(1)労働投入量の伸び率、(2)資本投入量の伸び率、(3)生産性の伸び率で決まる。そして、(1)による部分を労働投入の寄与、(2)による部分を資本投入の寄与、(3)による部分を生産性の寄与とすると、日韓の潜在成長率に大きく差をつけているのが資本投入の寄与である(資本投入とは、大雑把に言えば、新たに工場を建てたり機械設備を導入したりすることなどをイメージしてもらえるといい)。
具体的には、韓国は資本投入の寄与が1.4%であるが、日本はこれが0.3%に過ぎない。韓国の潜在成長率は日本より1.8%ポイント高いが、資本投入の寄与だけでその6割以上を占める1.1%ポイントの差がついている(ちなみに、労働投入の寄与の差は0.1%ポイントに過ぎず、生産性の寄与の差は0.5%である)。
〔PHOTO〕iStock

韓国の資本投入の寄与が高い理由として高齢化が進んでいないことを挙げることができるが、これには説明が必要である。資本投入の伸びは投資に左右される。資本蓄積は新たな投資による増加部分から資本廃棄による減少を引いた分だけ変化するが、資本が資本蓄積の一定比率で廃棄されるとすると、投資が多いほど資本蓄積の増加率、すなわち資本投入の増加率が高まる。
さらに貯蓄率と高齢化率との間には負の相関関係があることが知られている。「ライフサイクル仮説」によれば人々は高齢期には貯蓄を取り崩すため、高齢化が進むとマクロでみた貯蓄率が低下する。これは「高齢化が進む→貯蓄率低下→投資率低下→資本投入の伸び率低下」といった流れに整理できる。
つまり高齢化は資本投入の伸び率の低下をもたらす。2019年における高齢化率(全人口に占める65歳以上の人口の比率)をみると、日本は28.4%、韓国は14.9%であり、日本のほうが高齢化が進んでいることがわかる。もちろん資本投入の寄与の差のすべてが高齢化の進み方の差で説明できるわけではないが、重要な要因であることは間違いない。
韓国では今後、高齢化が日本を上回るスピードで進み2049年には韓国が日本を上回る。これは朝鮮戦争後、長期間続いたベビーブーム世代が2020年より順次、65歳以上になるからである。

そして急速な高齢化を背景とした資本投入の寄与の縮小などにより、2030年代には韓国の潜在成長率が2%を切ると予測されている。
現在の韓国は潜在成長率が日本より高い。よって、日本より景気が悪くても日本より経済成長率が高いといった一見すれば謎な現象が生じている。
しかし、将来的には日韓の潜在成長率の差は大きく縮小することが見込まれ、このような現象は生じなくなってくるであろう。