―[言論ストロングスタイル]―
◆確かに敗戦から75年、「日本は悪い国だ」と洗脳され続けてきたが……
昭和20年8月15日。日本は戦争に負けた。しかし、これは戦争の終わりではなく、本番の始まりだった。日本の総力を破壊しようとするGHQの占領政策は、過酷を極めた。その要諦は三つ。
第一は、憲法強要である。政治体制を作り変え、政治家、官僚、マスコミを含めた財界の支配層を、自分に従順な人たちに入れ替えた。その人たちの末裔は、今も日本のエスタブリッシュメントである。
第二は、復讐裁判である。戦前日本の歴史、特に近代史の中でも昭和初期の戦争に関しては、徹底的な悪だとして断罪した。
第三は、洗脳教育である。教育に名を借りた洗脳とでも言おうか。GHQのやったことを正当化し、教育で刷り込む。その洗脳は何十年も続けられ、もう数世代に及ぶ。
つまり、敗戦から75年、「日本は悪い国だ」と教えられ続けたのだ。GHQがいなくなってからも、その教育は続いた。それどころか、固定化した。
これを安倍晋三首相の言葉を借りれば、「戦後レジーム」ということになる。そして、敗戦体制を固定化させたのは、1955年の体制だ。
1955年以降、政界では常に保守(っぽい)自由民主党が第一党で政権を独占する。実際に権力を振るうのは官僚であり、官僚に口利きをして欲しい財界は、自民党に多額の政治献金をする。これが政官財の鉄のトライアングルだ。
これに対して、マスコミと学界では革新(今のリベラル)が主流だ。政界には日本社会党を送り込む。この政党が野党第一党に居座ることで、自民党を脅かす政党は台頭することができない。自民党と社会党は癒着する。社会党の唯一の主張は、護憲だ。言論界では、社会党を支える革新勢力が、いかに「日本は悪い国か」を競う。
こうして、鉄のトライアングルとリベラル派、棲み分けができた。その体制を守る大談合である。彼らのすべてが戦後の体制側である。そして、どこにも「日本は悪い国ではない」とする保守の立場は生存できなかった。
ソ連が崩壊し、ようやく革新の言ってきたことが嘘だと、多くの日本人に薄々ではあるが、気づかれるようになった。
そして、決定的だったのが、2002年9月17日である。
この日、小泉純一郎首相が平壌に飛んだ。北朝鮮の独裁者・金正日と会うためだ。主要議題は、日本人拉致被害者の奪還である。その日の朝、「北朝鮮に拉致された中大生を救う会」の立ち上げ人であった私でさえ、半信半疑だった。それまで北朝鮮は「拉致問題など、日本の一部右翼勢力のでっちあげ」と主張していた。一人として返さないこともありえた。
ところが午後、金正日が事実を認めた。しかも謝罪し、5人の被害者を返すと約束した。この瞬間、日本は別の国となったかのようだった。
「本当に北朝鮮は拉致をやっていたのか?」「日本のマスコミや教育は嘘ばかり言っていたのか!」
敗戦以来、保守の言論が革新(リベラル)に優越した、初めての瞬間だった。
◆保守論壇村で、ネトウヨは「テレビに真実は無い。本当のことはネットで検索すればわかる」と真顔で語る
昔の出版界は「朝日・岩波」が王者だった。政界では自民党が常勝であるように、マスコミと出版界では朝日新聞と岩波書店が絶対の権威だった。ところが、この15年ほどは、リベラル勢力の雄である朝日岩波の凋落が著しい。岩波の『世界』と言えば日本一の雑誌と目されていたが、今やそのような名前の雑誌が存在すること自体が知られていないだろう。
代わって台頭したのが、「ウヨ」である。インターネットの普及で、右翼(保守)っぽい言論の発散の場が飛躍的に拡大した。「ネトウヨ」の誕生だ。出版不況の慢性化に伴って、ネットの世界で人気のある著者が本を出せる時代が到来した。
それは決して悪いことではないし、少しでも保守色があれば普通の出版社から本が出せない時代が去ったのは、喜ばしい。言論とは左右のイデオロギーではなく、質の高さで評価されるべきだからだ。表現の自由と健全な市場が無ければ、健全な言論は無い。
だが、あまりにも長すぎたリベラル全盛時代の反動で、「保守っぽいことを言っていれば、何をやっても許される」という文化が、出版界に定着し始め、それをネトウヨどもが支えている。一言、「日本は素晴らしい国です」「私は愛国者です」と言えば、嘘やデタラメを言おうが、何をやっても許される文化がだ。プロの水準に達していない著者の本が、世に流れることとなった。
保守の著者を招く講演会に、「日本は悪い国だと教えられてきたので、本当のことが知りたくて勉強しに来た」女性が来たとする。著者も常連の客も、大はしゃぎである。そして嬉々として、「SMAPの正体は在日韓国人」などと、相手に相槌を打たせる間もなくまくしたてる。結構な出版社から本を出している著者がこの始末である。それを支えるファンのネトウヨに至っては、既にSMAPが解散していることを知りもしない。それでいて、「テレビに真実は無い。本当のことはネットで検索すればわかる」と真顔で語る。
ついでに言うと、保守論壇村では、彼らが保守と信じる人であり続ければ、強姦・DV・痴漢・横領・ネットワークビジネス、なんでも庇ってくれる。嘘だと思うなら、保守を標榜する月刊誌の執筆者を見よ。まるでサファリパークか刑務所だ。
こうした連中を増長させているのが、長すぎた安倍内閣だ。私は今の政治に何も期待などしないが、監視しなければ、より悪くなる一方だ。
安倍内閣は憲政史上最長の内閣となった。7年も政権を独占していて何一つ実績が無いのだから、今後も安倍内閣を存続させるなど、税金の無駄遣いだ。だが、安倍内閣には守護神がいる。枝野幸男だ。
国会開会初日に立憲民主党と国民民主党の合併話が流れた。立民が無条件降伏を突きつけたからだ。「民主党同窓会」の政党で、党首が枝野幸男。人を笑い死にさせる陰謀か?
野党がこの体たらくだから、安倍首相が胡坐(あぐら)をかける。安倍首相こそが「戦後レジーム」の最大受益者ではないか。
右か左かは、終わりだ。
これからは、誰が一貫して正しい言動をしてきたかで評価される時代にすべきだ。目の肥えた読者の役割は大きい。
【倉山 満】
憲政史研究家 ’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。現在、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を行っている。ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』など著書多数。最新著書に『13歳からの「くにまもり」』
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