新型コロナウイルスの感染が拡大し、不特定多数の人が利用する鉄道など交通インフラについても警戒感が強まっている。
混雑した公共交通機関では、乗客同士らが近づかざるを得ず「根本的対策は難しい」と不安の声もあがる。ただ、国内では死亡など深刻な重症化は発覚しておらず、丁寧な手洗いなど講じるべき対策もあるため、政府は冷静な対応を呼びかける。
国土交通省はすでに、各業界に警戒を強めるよう要請。丁寧な手洗いや、うがい、消毒のほか、マスク着用など「せきエチケット」を従業員に徹底させるとともに、利用者にも呼び掛けるよう求めている。
国交省によると、交通インフラをめぐっては、「感染症法」(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)で、緊急時の対策が設定されている。同法では感染力や重症度などに応じ、感染症を1類から5類に分類。今回のケースは「2類」相当の対応が行われる。
エボラ出血熱など深刻度が極めて高い1類感染症が蔓延(まんえん)するなどした場合、都道府県知事の判断で、「交通」を制限したり、遮断したりすることができるとされるが、現在のところ、そうした対応が、行われる段階ではない。
タクシー業界でも、それぞれが対策を進めている。「会社からマスクを着用の指示が来たが、自分で消毒用品を買い常備しています」。東京都内を走るタクシー運転手の男性(56)は話す。
体調が悪そうな乗客を乗せた後は、念のため離れた場所で車内を消毒するという。「乗車拒否なんてできない。自分への感染もそうだが、次の乗客が感染してしまうこともあり得るので、消毒を徹底している」と話した。
羽田空港に乗り入れる京浜急行電鉄は、空港の駅で駅員にマスク着用と手洗いの徹底を義務付けた。感染者の乗車が判明すれば車両洗浄も想定するが、症状が出てから感染が確定し、移動経路などが判明するまでは時間がかかり、具体的対応は検討中だという。
首都圏のある鉄道関係者は「運転士や駅員はマスクを着用するなど対策ができるが乗客についてはどうしようもない。できる限り混雑を避けるなどそれぞれで判断してもらうしかない」と話す。
JR西日本は2002~03年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)への対応で本社に対策本部を設置。駅や車両の消毒、駅員の健康調査を実施した。このケースを参考に今回も対策本部を設置し、対応を詰めている。広報担当者は「正確な情報を把握しお客さまを不安にさせないことが重要」とする。
ツアー客を乗せたバスの運転手やツアーガイドの感染が判明し、波紋が広がるバス業界。都内に本社がある観光バス会社は、運転手やガイドのマスク着用について、「失礼に当たる」として原則認めてこなかったが、全国支店にも通達を出して着用するようにした。ただ、担当者は「不特定多数の人が乗ってくる。どこまで効果があるか」と戸惑いも。航空業界では日本航空や全日空が、日中間で運行する旅客便の客室乗務員にマスクを着用させるなどして対応。空港では体温を感知するモニターで入国者に発熱している人がいないか、確認している。航空関係者は「われわれにもマスク着用が失礼との認識があったが、状況を甘く見ることはできない」と強調した。
公共交通機関の乗客にもマスク姿の人が目立つ。都心へ電車通勤する男性会社員(38)は「用心に越したことはない」と、医療現場などが利用する高性能マスクを購入。目など粘膜からの感染を防ごうと、ゴーグルも着用するようになったという。