「西山さん、証言台の前に立ってください」。10日に大津地裁であった滋賀・湖東記念病院人工呼吸器外し事件の再審の第2回公判。大西直樹裁判長は西山美香さん(40)にそう語りかけた。無罪判決前に裁判所が「被告人」と呼ばず「さん」付けするのはまれだ。西山さんは「被告人一人一人の声を聞いて審理してほしい」と訴えた。
この日、西山さんは「白黒はっきり付けてほしい」という願いを込め、白いジャケットに黒いスカートで法廷に入った。検察側の論告は3日の冒頭陳述と同様、わずか数十秒で終了。一方、弁護側は最終弁論でこの事件を「警察が事件のないところに作り上げた『空中の楼閣』」と表現し、「15年7カ月にわたる西山さんの苦痛を少しでも和らげるため、誰にでも分かる明快な無罪判決を」と約30分かけて主張した。
最終陳述で西山さんは、大阪市東住吉区の女児死亡火災(1995年)で無期懲役が確定して服役し、後に再審無罪になった青木恵子さん(56)と和歌山刑務所で服役中に知り合ったことに触れ「(取り調べでの)ささいなうそが、こんなに大きくなると思っていなかった。世の中には冤罪(えんざい)に苦しんでいる人がたくさんいる。私のように声を聞いてもらい、無罪判決をとってみんなで喜び合いたい」と語った。
大西裁判長は3日の初公判でも「西山さん」と呼んだ。日本弁護士連合会などによると、2010年の「足利事件」の再審公判で、裁判官が菅家利和さんを「菅家さん」と呼んだケースはあるが、再審でも「被告人」と呼ぶのが一般的という。閉廷後の記者会見で、井戸謙一弁護団長は「美香さんの心情に配慮したものだ」と評価した。西山さんは「(無罪判決が出たら)井戸先生と本当の意味で勝利の握手をしてみたい」と笑顔を見せた。【菅健吾、諸隈美紗稀、礒野健一】