諫早湾干拓 漁獲量増えたのか 請求異議訴訟、21日から差し戻し審

長崎県の国営諫早湾干拓事業を巡り、潮受け堤防排水門の開門を命じた確定判決(2010年)の無効化を国が求めた請求異議訴訟の差し戻し審が21日、福岡高裁で始まる。和解協議を求める漁業者側に対し、国側は有明海の漁獲量の変化など「事情の変更」や、非開門とする判決が続く近年の司法判断などを主張して改めて無効化を訴える構えだ。
差し戻し前の請求異議訴訟で国側は、排水門閉め切り後の有明海で漁獲量が増加傾向に転じたなどと主張。福岡高裁判決(18年7月)は、漁獲量などについて判断せず、漁業者の共同漁業権は13年8月時点でいったん切れ、同時に開門請求権も消滅したと判断し、開門命令を事実上無効化した。最高裁は19年9月、漁業権の解釈に誤りがあるとして高裁判決を破棄し、差し戻した。
今回も国側は、漁獲量の回復などを事情の変化として主張するとみられる。だが、長崎県島原市の漁業、中田博文さん(60)は「国が漁獲高が増えたと言うのは、あちこちで(魚介類の種苗を)どんどん放流しているからだろう」と反論する。
ワカメ養殖を主に、夏はクルマエビ、冬はヒラメなどを狙う。15歳で漁を始めたころはさまざまな魚が取れた。1997年の潮受け堤防閉め切り後は、潮流が弱まったうえ、堤防内の調整池から大量に淡水などが排出され「海が駄目になってしまった」と実感している。19年、クルマエビの水揚げは前年の3分の1だった。
農林水産省九州農政局によると、97年度に3万3793トンだった有明海全体の漁獲量は、17年度には1万2574トンまで減少。特産の高級二枚貝「タイラギ」はほぼ取れなくなった。農政局は取材に対し、増加傾向にある魚介類については「訴訟の前なので回答を控えたい」と明らかにしなかった。
諫早湾に近い佐賀県太良町の漁業、大鋸(おおが)幸弘さん(63)は「タイラギは全くいなくなり、ノリも諫干の近くは赤潮が頻発して取れていない。海の変化は経験のある漁業者じゃないと分からない」と異変を訴える。
一方、諫干を巡っては開門の確定判決と非開門を命じる判決が並立するねじれが生じているが、最高裁は19年、二つの訴訟で漁業者側の上告を棄却し、いずれも非開門とする判決を確定させた。国側はこれらの司法判断も考慮するよう求める見通しだ。【池田美欧、足立旬子、宗岡敬介】
漁業者側、前提条件のない和解協議求める方針
差し戻し審で漁業者側は、前提条件のない和解協議を求めていく方針を示している。諫早湾干拓事業を巡る訴訟では過去にも長崎地裁と福岡高裁で和解案が示されたが、いずれも潮受け堤防の排水門を「開門しない」ことが前提条件にあり、漁業者側の反発で成立しなかった。
長崎地裁は2016年1月、開門差し止め請求訴訟の中で和解を勧告した。和解協議で国は、100億円を拠出して有明海の資源保護など漁業振興に使える基金を創設する案を提示した。沿岸4県(福岡、佐賀、長崎、熊本)の漁業団体側に基金の運営を任せる仕組みだったが、非開門が前提だったため17年3月に決裂。地裁が翌月、開門を認めない判決を出したことを受け、国は「司法制度で統一判断が出るとは限らない。開門によらない基金による和解を目指す」とする農相談話を発表した。
福岡高裁は18年3月、差し戻し前の請求異議訴訟でも和解を勧告したが、開門しない代わりに基金を設けることを「唯一の現実的な方策」としたため、解決に結びつかなかった。【宗岡敬介】