「思い出の父はいつも酔っている」 アルコール依存症の家族描いた漫画に反響続々

アルコール依存症の父と過ごし、家族が崩壊していく様子を描いた埼玉県在住の漫画家、菊池真理子さん(47)のコミックエッセー「酔うと化け物になる父がつらい」(秋田書店)が大きな反響を呼んでいる。同名で実写映画化(配給ファントム・フィルム)され、3月6日から新宿武蔵野館(東京)などで全国公開されることも決まった。菊池さんは「親子関係を見つめ直すきっかけになってほしい。『家族なら何をしても許し合える』という家族神話を壊したい」と話す。【さいたま支局・中川友希】
酔っ払いの世話は「当然」と思い続けて……
「思い出の父はいつも酔っている」。コミックはこんな言葉で始まる。菊池さんはアルコール依存症の父と新興宗教にのめり込む母、3歳下の妹と4人暮らしだった。中小企業を経営する父は物静かで友達も多く、信頼されていたが、酔うと「化け物」に変わった。毎週末、近所の仲間を自宅に呼び込み、マージャンをしながら泥酔。一緒に出かける約束は守らず、風呂場で突っ伏して寝たり、飲酒運転で事故を起こしたりもした。
中学2年だった頃、母が自殺した。父は一時酒をやめたが、1カ月もたたないうちに再び飲み始めた。子どもの頃から父を介抱する母をずっと見てきた。「酔っ払いを世話するのは当然」と、母に代わって父の介抱を続けた。漫画家になった後も実家を出ず、父との暮らしを続けた。
2015年に父が72歳で病死した後も「(父は)普通の酔っ払い。お酒を飲んだ大人は誰でも父のようになる」と思っていた。同年、ルポ漫画の取材でアルコール依存症患者のカウンセリングに同行した際、父と同じ症状がアルコール依存症として語られていたことに衝撃を受けた。「もしかしたら、父も依存症だったのかも」。父との暮らしを作品に描くきっかけになった。
美談で終わらせることはできない
17年4月、父との暮らしを描いた作品の第1話を秋田書店のウェブサイトで公開したところ、サイトのサーバーが一時ダウンするほどアクセスが集中し、多くのメッセージが寄せられたという。「うちの親もそうです」「これまで気持ちを抑えていたけど、漫画を読んでつらかったことに気がついた」――。アルコール依存症患者の家族からの切実な声が多くあった。
これまで父のことは笑い話として友人に話し、漫画に描いてきた。しかし、「たまった苦しみを吐き出さずにはいられなかったような」読者からのメッセージを目にし、笑い話にしてはいけないと感じた。改めて描き終えた作品は「この話に共感してくれた人たちの物語にもなった」という。多くの体験も反映されたと感じている。
作品は松本穂香さん、渋川清彦さんなどが出演し映画化された。監督に一つだけお願いをした。「家族愛の話にしないでください。家族は何をしても愛し合い、許し合えるなんて話にしないで」。父との暮らしを美談で終わらせてしまうことは、苦しみながらメッセージを送ってきてくれた人への裏切りだと思ったからだ。
父に問いかける「嫌なことに向き合って」
菊池さんは、家族だから何をされても許し合えるという「家族神話」を壊したいという。「家族神話を押しつけられると、家族に恵まれず苦しむ子どもはとても多いのに、どんなにひどいことをしても謝らない親を子どもは許さなければいけない。子どもにはものすごく負担になる」。自身もその一人だった。「お父さんは陽気で楽しい人なのに、頭のおかしい私は怒ったり泣いたりしてしまう」と自分に非があると感じていた。家族を築くことが怖いと感じて、今も独身のまま妹と実家で暮らしている。
漫画を描いているときや、夜寝る前に父を思い出すという。「大嫌いになれたら楽だけれど、憎めない」と振り返る。依存症について学んだ今、父親に提案したいことがたくさんある。「嫌な気分を紛らわすためにお酒を飲むのではなく、嫌なことに向き合って。人生が変わる。失った大切なもの、失いかけているものをなくさずに済むんだよ」