ソフトバンク元社員が情報流出で起訴 ロシア人スパイとの出会いは新橋の路上だった

第二次大戦中に暗躍したソ連の大物スパイ、ゾルゲの伝統は脈々と受け継がれていたようだ。東京地検は2月14日、ロシア側に会社の機密情報を流出させたとして、不正競争防止法違反罪でソフトバンク元社員の荒木豊被告(48)を起訴。漏洩先とみられる在日ロシア通商代表部のアントン・カリニン代表代理(52)は10日、出国した。
警視庁担当記者の解説。
「荒木の起訴内容は、通信設備構築担当の統括部長だった昨年2月と3月、ソフトバンクのサーバーから電話基地局の設置に関する作業手順書などの機密情報を不正に取得したというもの。カリニンは、ロシア対外情報庁(SVR)にも所属していたとみられ、警視庁公安部は同法違反の教唆容疑で書類送検する方針です」
ロシア側が荒木と最初に接触したのは東京・新橋の路上。数年前、カリニンの前任者が偶然を装って一杯誘い、数回会食した後、カリニンに引き継いだという。
「2~3カ月に一度会って、日露の観光名所など当たり障りのない話をするうちに仲良くなったようだ。徐々に機密情報の提供に移り、1回数万円、最高で20万円ほどを現金で渡されるようになった」(捜査関係者)
もちろん、ただの気さくなロシア人のわけがない。
「連絡先どころか名前も教えず、接触時に次の会合場所と日時を伝えていた。荒木も『スパイかもしれないと思った』と供述しており、もはや後戻りできなくなっていたのだろう」(同前)
ソフトバンクが標的にされた理由
だが、なぜソフトバンクだったのか。今年1月に情報流出が発覚した三菱電機などと違い、防衛産業などとも無縁に見えるが……。
捜査関係者は「カリニンは他国の科学技術に関する情報の入手を狙うスパイグループ『ラインX』の一員だったようだ」と指摘する。
プーチン政権は国内のインターネットを世界から切り離して運用する実験を昨年末に行うなど、自前での通信インフラの整備に意欲を燃やす。だが、ファーウェイなどを擁する中国と違って技術面で遅れている。
「漏洩した情報の多くは会社のパンフレット程度のものだったようだが、荒木以外にも協力者がいたことは疑える。カリニンを帰国に追い込み、これ以上の情報流出を『食い止めた』のが成果だろう」(公安関係者)
その成果を今後の日露関係にどう生かせるか。インテリジェンス関係者は「米国などはスパイ摘発を外交交渉のテコに使ってきたが、日本は交渉が進みそうな時は過剰配慮して、逆に捜査を保留するなどしてきた。今回の摘発こそ、北方領土問題を含む強気の外交に生かしてもらいたい」と期待をつなぐが、果たして。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2020年2月27日号)