IOC上級委員も「中止の公算が高い」と発言。スペイン語圏でも東京五輪開催を不安視する報道が

◆IOC上級委員が「完全に中止する公算が高い」と発言

東京五輪の開催が危ぶれている。IOCのバッハ会長を始め関係者の誰もが開催できなくなるという不安を内心持ちながらも、開催できるという希望的観測による発言に留まっている。

その中で、より踏み込んだ発言をしたのはIOCのディック・パウンド上級委員だ。彼は「新型コロナウイルスが原因で東京オリンピックの開催がかなり危険ということになれば、組織委員会はそれを延期するのではなく、完全に中止する公算がより高い」と述べ、その最終の決定は5月までにくだされるという見解を表明した。(参照;「Forbes」、「El Periodico」)

この発言をしたことについて、同委員会の中でもバウンド上級委員への批判はあるようだが、もっともな指摘だと筆者には思える。少なくとも、7月に開催となれば、それぞれ参加国での決定に必要な期間を考慮すると5月までに判断するのがボーダーラインなのは間違いないだろう。

◆残り4ヶ月で終息に向かうことはできるのか?

この祭典には207か国、1万1000人の選手が参加し、33種目、339の競技が実施され、2万5000人の報道陣が集まる。観客数も加えると毎日100万人の動きが開催場を起点に観察されるようになるはずだ。また警備では前回のリオデジャネイロの大会では8万人の警官と民間警備員が動員された。また1週間後には、パラリンピックも控えている。(参照:「El Periodico」)

現在、中国を含め70か国余りの地域でCOVID-19の感染が確認されている。感染者の数は、3月5日現在で9万5000人超、死者3000人超という状態にある。今後、感染者が減る可能性はなく、逆に増加する可能性がより高い。しかも、このウイルスの感染から発病まで14日とされているが、24-27日の場合も確認されている。即ち、ひと月このウイルスを体内に潜伏させている人もいるかもしれないということだ。

オリンピック開催地を起点に毎日100万人の人の出入りがあり、このウイルスの感染危険度そしてこれからまだ感染が拡大する傾向にあることを考慮すると、3月、4月、5月、6月の4カ月弱の間にCOVID-19が鎮まる可能性はゼロである。それを承知で各国がオリンピック選手を日本に派遣しようとする意向はないであろう。

しかも、仮に開催中に選手か観客の誰かが感染していることが発覚すれば宿泊している所を隔離する必要に迫られる。それがホテルであれば宿泊客全員がホテルから外出できなくなるのである。そのような危険性があること承知でJOCが開催に踏み切るとは思えない。

◆鍵を握る中国と米国

一番明確なのは中国と米国である。このウイルスの発信源である中国は3月5日の時点で感染者8万411人、死者3013人と発表している。(参照)

しかし、中国が発信するデーターは信憑性に欠けるということ否めない。実際の感染者も死者も発表している数字を遥かに上回る可能性もある。仮に発表している数字が正解だとしても、このように感染者が多数出ている国がオリンピックに選手団を送るとは思えない。

米国は今年11月が大統領選挙だ。トランプ大統領は感染の危険度を無視して東京に選手を送るとは思われれない。送れば、それが選挙の票にマイナス影響するのは必至だということも承知しているはず。しかも、予防接種・呼吸器疾患センターのナンシーメソニアはこのウイルスの米国内での感染拡大は避けられない」と述べている。(参照:「El Confidencial」)

トランプ大統領は彼女のこの発言を否定したが、彼女の指摘は正解であろう。また米国では無保険者が多くいて、医療を受けられずこの感染を助長するようになる。

ロシアはドーピングの影響で国の代表としては選手を派遣できない。個人レベルで参加せねばならないから、敢えて参加しようとする選手がいてもその数は僅かであろう。

中国、米国、ロシアが不参加を表明すれば、それは自ずとヨーロッパ諸国を始め、世界レベルで参加を辞退する国が多く出て来るはずである。

例えば、EU圏で一番感染者の多いイタリアは3月5日の時点で感染者は3089人、死者107人だ。5月に選手団を派遣できるほどに事態が回復しているとは全く想像できない。

日本政府がオリンピックを開催したくても、参加者が激減して開催する意義がなくなるということだ。

◆「延期」は前例がない事態

この開催に投入した資金は当初の予算を大きく上回って3兆円を超えたとも言われているが、開催できないとなると日本国家の屋台骨が揺らぐほどにそのダメージは深刻なものとなる。IOCは緊急事態に備えての基金として10億ドル(1080億円)が用意されているとしているが、その金額では投資した総額から比較して雀の涙でしかない。

このダメージを僅かでも抑える意味で2021年に延期することが考えられる。それはこれまで前例がないということと、関係した企業などは新たに契約をし直さねばならなくなり、非常に困難を伴うことになる。しかし、ダメージを出来るだけ少なくするには、これまで前例がないとしているが、延期しかない。

スペインの場合、目立つことのないスポーツ連盟の場合はオリンピックに参加するということでスポンサーがつくことになり金銭的に助かる。中止となると、スポンサーがいなくなり、採算面から見て連盟そのものの存続も問われるようになるそうだ。(参照:「El Periodico」)

JOCは延期などありえないと発言しているが、内心は開催できなくなる可能性が高いと思っているはずだ。

<文/白石和幸>

【白石和幸】

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身